地銀が危機なら地方紙はもっと深刻

2020年10月24日 06:00

厳しい経営環境に地方紙はどう向き合うか(編集部撮影)

再編や統合に見向きもしない

地方の人口減、高齢化、地域経済の低迷、ゼロ金利などで、地方銀行の経営が厳しくなり、菅政権は地銀再編に向け、環境作りを始めました。地銀より地方紙はもっと深刻なのに、危機打開の動きは感じられません。

地方紙が消滅し、「取材空白地域」となった米国カリフォルニアの小都市で、住民不在の行政が加速したそうです。議員の報酬、市職員の給与のお手盛り(引き上げ)が行われ、住民の税金が使われました。

地方選挙の報道も減り、メディアの監視の目が届かなくなった議会や議員はやりたい放題です。犯罪を裁く法廷取材もなくなりました。司法、立法、行政当局の発表を住民は鵜のみにするしかない。「そんなことなら住民が直接、おカネを払って記者を雇ったほうが得だった」そうです。

ネット情報の比重が高まっていくにせよ、信頼できる取材者の発信であることが不可欠です。米大統領選でも、フェークニュース(ウソ)情報が飛び交い、情報操作が行われています。取材に裏付けられた正しい情報が民主主義のためには必要です。

問題は「メディアの存在が社会的に有用であること」と「経済的に持続可能であること」とは次元が異なるという点にあります。

15日から始まった新聞週間が終わりました。公募した新聞標語の代表作として、「危機のとき、確かな情報、頼れる新聞」が選ばれました。「社会的有用性」がよく表現されています。それをどのようにして「経済的、経営的に持続可能する」かを論じることが重要です。

地銀再編が社説によく登場します。例えば、「地銀統合は前向きに検討すべき選択肢だ」(読売10/9)の論旨はそのまま地方紙に通じます。

「地銀の数は多すぎる」「人口減が深刻な地方は多く、今のままでは地銀の経営は持続可能ではない」「地域の実情に応じ、地銀は合併や統合の可能性を探るべきだ」。地銀を地方紙と置き換えても意味が通じます。

インターネット金融王手、SBIホールディングの北尾社長は「地銀連合構想」を掲げ、10行との資本・業務提携を進めるそうです。こうした動きに比べ、新聞界、特に地方紙の危機意識が希薄です。

持続可能な新聞経営のためには、編集方針の改革(購読時間が20分以下が35%と極めて短い)、販売店対策(人口減、部数減に対応した販売店網の再編)、印刷工場の統合、デジタル対応と多角的な対策が必要です。

あえて見ぬふりしている問題は、新聞社が経営実態を公開していないことです。経営が非公開なので、経営責任を追及されない。社長・会長に就任したら長期政権を敷ける。だから社内から経営刷新の動きが出てこない。

経営非公開だから、新聞産業の実態が分からず、外部からの資本・業務提携の話を持ちこみようがなかった。これは全国紙にも通用します。新聞協会が発表するデータは部数、売り上げ、広告収入などは不完全で、経営分析ができません。発行部数は公称にすぎず、実売部数は不明です。

地方紙は戦時下で始まった「一県一紙」がいまだに続いています。他の業界で、戦後体制がそのまま続いている地銀と地方紙くらいなものでしょうか。地方紙の場合は、事実上の地域独占ですから、厳しい競争にされされず、気がついてみたら危機は地銀より深刻になっていた。

多くの企業が上場し、経営情報を公開しているのに、新聞社はどこも非上場ですから、経営情報を公開しない。外部のチェックを受けないため、厳しい経営刷新をさぼり、そのツケが今きているのです。

その法的な根拠が日刊新聞紙法で、株式の譲渡制限です。新聞事業に関係のある者、しかも取締役会が承認しないと、新聞社の株式を所得できません。「言論の自由」を守ることを目的にした例外的な措置です。

だから新聞社は乗っ取られる心配はなかった。最近は「日経が英国FT紙を買収できたのに、自分たちは買収されない。こうした非対称性は結局、日本の新聞社の経営刷新の遅れを招いた」という指摘が聞かれます。

「もうこの法律は廃止すべきだ」という声もあります。もっとも「今になって買収したければどうぞ」といっても、将来性が乏しくなった新聞ビジネスに関心もつ資本はあまりないでしょう。

それでも、新聞の持つ取材力、情報分析力は今後とも必要で、そこに価値を見出す資本、ビジネスは必ずあるはずです。

もう一つの問題は再販制度で、新聞料金の値崩れを防ぐ制度です。新潟日報が学生に対する料金学割(月3400円を2000円)を実施しようとしたら、「再販制の下では値引き禁止のはず」とされたそうです。新聞離れを起こしている学生への値引きさえできない制度は有害です。

その一方で、「一年購読してくれるなら3か月分は無料(無代紙)」といった実質な値引きは広範囲で行われているのです。「新聞界の商慣行は旧時代の遺物」という意識が芽生えてほしい。

将来、新聞界は夕刊廃止、複数社による販売協力、印刷工場の統合などに踏み切るでしょう。販売価格は自由化し、販売店の自主的な価格設定が必要になるに違いありません。発行部数ではなく、実売部数で競う。

デジタル化、ネット情報化が始まった段階で、時代の変化を敏感にかぎ取り、全国紙も地方紙も対応に乗り出さなけれならなかった。遅すぎても、やってみるべき改革はいくつもあるでしょう。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年10月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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