副大統領討論会:対中政策の立場の違いが浮き彫りに

備忘録として、10月7日に行われた副大統領討論会のおさらいをしておきます。

会場となったユタ大学の特設サイトより:編集部

第1回大統領討論会が中傷合戦に終始した半面、一発勝負となる副大統領候補の討論会で、双方の主張の違いが浮き彫りとなった。ただ、やはり持ち時間をオーバーする局面で、ペンス副大統領が司会者に「Thank you Vice President」と5回も遮られる場面も。またペンス副大統領の横槍に、ハリス氏が苦笑で「I’m speaking」と応じる姿は、リベラル派のツイッターでトレンド入りしたものだ。保守派の間では、ペンス氏からハリス氏への「あなたにはご自身の意見を持つ権利があるが、ご自身の事実を押し付ける権利はない(you’re entitled to your own opinion, but not your own facts)」が評価された。

1)新型コロナウイルス問題

〇ハリス候補

・1月28日にコロナの状況の説明を受けたにも関わらず、早急に対応しなかっただけでなく、「でっち上げ」と退けた。
・既に米国では約21万人が死亡した。自分の子供が感染してしまうと考えたら、夜も眠れないだろう。
トランプ政権にコロナ対策はない、バイデン氏にはある
・政権にコロナ対応のガイドラインがあったとしても、ホワイトハウス内でクラスターが発生した。これでどうやって国民を守れるというのか。

<ポイント>⇒「夜も眠れない・・・」というのは、自身が予備選で掲げた「午前3時の課題」を指し、中低所得者層が家計や教育費など眠れなくなる課題を抱えている状態を表す。

〇ペンス副大統領

・最初に感染した5人は、中国からの感染者だ。中国からの入国を早々に停止し、多くの米国内の多くの人々を救った。
・検査も他国より多く実施し、ワープスピード計画を通じワクチン開発中である。年内にワクチンを提供する用意があり、政権はコロナ発覚初日から米国人の命を第一に掲げている。
・(ホワイトハウスの集団感染については)様々な憶測を招いている。私は米国民が自由を追求し、政府による全面介入を求めないと信じる。

<ポイント>⇒ワクチン提供に関し、食品医薬局のガイドラインでワクチン最終投与から最低2ヵ月の経過観察が必要としているため、年内にワクチンを提供できるかは未だ不透明である(注:10月22日にFDAは新型ウイルス治療薬として初めて、レムデシビルを承認)。

2)トランプ大統領のコロナ感染について状況を知る権利があるか否か

〇ハリス候補

・トランプ氏と違って、バイデンは透明性が高い。確定申告も提出済みだ。トランプ氏は2016年に連邦所得税を750ドル支払ったのみで、投資で発生した損失計上で納税額を抑えたというが、損失があるということは誰かに借金しているというわけで、大統領の決断に借金の問題が影響しかねない。

<ポイント>⇒トランプ氏の健康問題に関し、確定申告公表や連邦所得税支払い問題にすり替え。

〇ペンス副大統領

トランプはビジネスマンであり、これまで何千万ドルも税金を支払ってきたと同時に、何千万の雇用を創出してきた。
・トランプ政権発足後、大統領はあらゆる実績を叩き出した。バイデン氏の47年間にわたる政治家としての実績とは比較にならない。

<ポイント>⇒連邦所得税以外の納税額について言及、また連邦所得税に関する問題を公約実現などの実績にすり替え。

3)経済

〇ハリス候補

・トランプ政権は、2兆ドルの財政赤字をもたらした(筆者注:2020年度の財政赤字は3.1兆ドル)。
・税制改正法は富裕層1%と企業だけに恩恵を与えた。バイデン氏は税制改革を撤廃し、インフラとともに再生可能エネルギーに投資していき、研究開発費と合わせ米国を世界のイノベーション・リーダーに押し上げる

<ポイント>
→税制改正法の撤廃により、所得の再分配を目指す方針を表明。2050年までに温室効果ガス排出をゼロとする目標を掲げるグリーン・ニュー・ディール策を基盤とし、経済を回復させると強調。

〇ペンス副大統領

ハリス氏は公正な貿易協定である米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に反対した1人であり、2019年にオカシオ-コルテス下院議員が掲げたグリーン・ニュー・ディール政策に真っ先に賛同したように、自動車産業や農業に配慮していない。
・このようなハリス氏に対し、ニューズウィーク誌はハリス氏をサンダース上院議員よりリベラルと評していた
・トランプ政権下での税制改正法で、平均的な4人世帯は1年間で平均2,000ドル相当の税金支払いを回避できた。
・コロナ禍で約2,200万人の雇用が失われたものの、給与保証プログラム(PPP)などの支援策を通じ、雇用を支えてきた。
・2兆ドルのグリーン・ニュー・ディール策をいうが、バイデン氏はシェール田など水圧破砕(フラッキング)禁止を掲げ、米国のエネルギー自立を妨げようとしている。これでは、ガソリン価格の上昇を招く。
・また、経済では中国に屈服し対中追加関税撤廃を唱え、米国の再起を損なうものだ。

<ポイント>
→グリーン・ニュー・ディール政策を持ち出し、ハリス氏が民主社会主義を自称するサンダース上院議員より「極左」とのレッテルを貼り、かつエネルギー政策での問題点を追及、バイデン政権誕生でガソリン価格が値上がりするリスクに警鐘鳴らす。
→4人世帯で2,000ドルの税金支払い回避という発言は、米大統領経済諮問委員会の試算によるもの。

4)気候変動

〇ハリス候補

バイデン氏はフラッキングの禁止を公約として掲げていない
・政権は気候変動に否定的なように科学を信用していない。
・格付け会社ムーディーズは、バイデン政権誕生ならばトランプ再選より雇用を700万人多く創出すると試算した。これは、クリーン・エナジーや再生可能エネルギーでの雇用創出が背景にある。

<ポイント>⇒2019年7月の民主党候補討論会で、石炭やフラッキングなどにつきバイデン氏は石炭とフラッキングを含め「補助金の余地はない」と発言、そこから派生してフラッキング禁止との観測が浮上したとみられ、政策提言や民主党の政策綱領にもフラッキングを禁止するとの文言は見当たらない。

〇ペンス副大統領

・米国は強い自由市場経済の国だ。パリ協定加盟国より二酸化炭素の排出量を削減済みである。
・ハリス氏はグリーン・ニュー・ディール政策の共同提案者だが、バイデン氏は第1回の討論会で支持していないと発言した。また、バイデン氏は水圧破砕(フラッキング)禁止を掲げている。
・バイデン陣営はグリーン・ニュー・ディール政策を実現する上で2兆ドルを盛り込むが、そもそも2兆ドル必要なのか。

<ポイント>⇒討論会後、超党派の非営利団体“責任ある連邦予算委員会(CRFB)”はバイデン候補の政策公約実現で政府債務が向こう10年間で5.6兆ドル増加するとし、トランプ再選の場合の4.95兆ドルを上回ると試算を公表。主要な公約での支出は10兆ドル規模に及ぶが、法人税などの増税を通じ4.3兆ドルの歳入が見込めると予測した。

5)対中政策

〇ハリス候補

・トランプ氏はオバマ政権の功績撤回になぜか躍起になっている。その一環なのか、オバマ政権はホワイトハウス内に設立したパンデミック対策オフィスを設立し、専門家を中国に派遣したが、トランプ政権はこれを撤廃した。
・名高い調査会社ピュー・リサーチ・センターによれば、米国の元同盟国(former allied countriesと敢えて発言)はトランプ氏ではなく、習近平主席を高く評価している。
・中国との貿易戦争で敗北した米国は製造業の雇用を失い、雇用喪失は過去最大の規模で、農家は減収に喘ぎ、米国民の多くは家賃払えないと不安を持っている。
・また、中国との貿易戦争で製造業や農業など「30万件(筆者注:該当するデータ不明」もの雇用が失われ、製造業リセッションに陥ったとも糾弾した。

<ポイント>
→対中政策について明言を回避。なお、ピュー・リサーチ・センターが欧州の先進国や日韓豪など14ヵ国に対し行った世論調査結果をみると、習主席を信頼しているとの回答は19%、トランプ氏の17%を上回ったが、五十歩百歩の結果だった。

チャート:トランプ氏と習主席を信頼できるとの回答

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(作成:My Big Apple NY)

→その他、製造業の雇用が30万件喪失されたとあるが、トランプ政権で対中関税が発動された2018年7月からコロナ禍直前の20年2月までで、製造業の雇用はネットで14.6万人増加した。ただコロナ禍を受け、2020年9月までをみると5.0万人の純減となる。なお就任44ヵ月目の大統領1期目でみた雇用動向をみると、トランプ政権下で戦後最大の雇用喪失を記録した。

なお、ハリス氏はこの時に習主席の英語名「シー・ジンピン」の「シー」は、「ジー」と聞き取れるような発音だった(動画の1時間3分)。

〇ペンス副大統領

・中国こそ新型コロナウイルス感染拡大の責任をもつ・・・バイデン氏は中国共産党のチアリーダーで戦ったことすらない」と発言。「敵」との表現を避けたものの、引き続き「断固たる態度(stand strong)」で対応する表明した。

<ポイント>⇒トランプ政権は対中追加関税からTikTok利用禁止まで中国にあらゆる圧力を掛けているが、その方針を維持する構えを表明。

6)最高裁判事

〇ハリス候補

歴史を振り返れば、リンカーン大統領は最高裁判事を指名する機会を利用しなかった。それは有権者が選んだ政権と議会が選出すべきという認識に基づく。

<ポイント>⇒大統領選の年に最高裁判事を指名する上での正当性に疑問を投げかけた。ただしオバマ政権でも2016年3月にガーランド氏を指名、共和党が上院で多数派を占めていたため棚上げされ、翌年1月の新たな会期入りをもって廃案となった。

チャート:大統領選イヤーに最高裁判事が指名した過去

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(作成:My Big Apple NY)

〇ペンス副大統領

・ペンス副大統領:ハリス氏候補が「民主党は最高裁判事を増やそうとしているのか」との質問に明確に答えなかったため、何度も繰り返し回答を迫った。なおペンス氏は、最高裁判事を増やすという言葉として「pack the court」を使ったが、これは1937年にルーズベルト大統領(当時)が提案した法案での表現に由来する。

――以上の結果を受け、討論会直後の勝者をめぐる世論調査はこのような結果となりました。

リベラル寄りなCNNではハリス候補が59%(2016年当時はペンス候補が48%、ケイン候補が42%)と、ペンス氏の38%を上回りました。逆に保守系ドラッジ・レポートはもちろんペンス氏を勝者に挙げ69%、ニューズネーションでもペンス氏がハリス氏に勝利していました。

チャート:世論調査結果

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(作成:My Big Apple NY)

こんな世論調査結果もありましたよ。ワシントン・ポストの記者がツイッター上で行った調査では、1位がハリス氏で49.4%、ペンス氏が24.1%で2位だったのは予想の範囲内ですが、3位にはハエ、4位にプレキシガラスが入りました。3位のハエは、ペンス氏の頭にとまってツイッター上でトレンド入りしたもの。振り返れば、2016年もクリントン候補の顔にとまり、同様に炎上していましたっけ。4位のプレキシガラスは討論会時に立てられた仕切りで、コロナ禍の現状を物語ります。

ちなみに視聴者数は以下の通り。副大統領候補の討論会は色々な理由で2016年を55%増に及びました。

チャート:視聴者数、2016年との比較

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(作成:My Big Apple NY)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2020年10月25日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。