野党合同ヒアリング:悪者さがしではなく国民のためのルール作りを

千正 康裕

野党合同ヒアリングについて、このところ話題に上がっています。

野党合同ヒアリングは、その時々の重要課題について野党各党が合同で各省をヒアリングする場ですが、取り上げる問題の多くは、モリカケ問題、桜を見る会や、最近だと日本学術会議の人事の問題やGo Toトラベルキャンペーンの運営事務局の人件費の問題など、その時々に政権を追及するようなホットなテーマが多いです。新型コロナウイルス感染症についても開催されていました。

こうした野党合同ヒアリングが、官僚の負担になっているのではないか、パワハラまがいの追及が行われているのではないかという指摘があります。

ことの発端は、10月21日の自民党二階幹事長と公明党石井幹事長が、会談の中で与野党のヒアリングについて、「官僚の本来の職務に支障をきたしている」としてのあり方を見直す必要性を語ったことです。

省庁担当者呼び出す「ヒアリング」の見直し方針確認 与党(10/21 産経新聞)

これに対しては、野党側からも「説明責任を果たさないからだ」「国会を開催しないからだ」という反論が出されています。

ヒアリング見直し論に反発 立憲・泉氏(10/22 時事ドットコム)

「文書を出させない判断こそ官僚のストレス」ヒアリング批判に共産党・田村智子氏が反論(BLOGOS)

そのほか、昨今の議論の状況を分かりやすくまとめた記事もあります。

「糾弾集会」批判も… 「野党合同ヒアリング」はこのまま役割を終えるのか(10/22 JCASTニュース)

10月25日(日)朝のフジテレビ日曜報道PRIMEでも官僚の働き方の問題がテーマとなり、僕もVTR出演させていただきました。

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スタジオでは、橋下徹さんがうまく議論をファシリテートされていたように感じますが、ここでも冒頭野党合同ヒアリングの話題が出ました。

ツイッターなどを見ても、やはり「野党はパワハラだ」「与党・政府が情報を出さないのが問題だ」と意見を二分しているように見受けられます。

実は、ここに官僚の働き方改革が進まない問題の根源があると感じています。

官僚の働き方がきつくなった理由は大きく3つあります。

① 人員体制に余裕がなくなった
② 官邸主導とあいまって、政策が大きく早く動くようになってついていけない
③ 与野党の対立が激化した

このように官僚を働く環境の方は大きく変わっているにも関わらず、組織改革や業務の見直しが進まないというのが、大きな構造上の課題です。今の官僚の業務に最も負荷が大きいのは国会対応なので、国会の運営が変わらないと官僚の業務の見直しは大きく進まないのです。

具体的に何が進まないかといえば、政府内で言うと縦割りの人員配置のままで忙しい役所に柔軟に人を配置するようになっていませんし、デジタル化や定型業務の外注、今の世の中では無駄なコピー取りなどの作業の廃止、政策の優先順位付け(やれという指示しかこない)が進みません。

政府内の改革は当然に必要ですが、国会関係の運用が旧態依然としたままで変わっていかないのが大きな課題です。

そして、野党合同ヒアリングにしても、前日夜になされる質問の事前通告問題にしても、質問主意書の問題にしても、官僚の業務の大きな負担となっていることは間違いありませんが、これを改善する時に「野党が悪い」「そもそも与党が悪い」といって、デッドロックに陥り全く進んでこなかったのが、この10年以上の歴史です。

構図としては、国会関係の業務の運営を、与党と野党のどっちが悪いかという議論をしている限り、何も変わらないのです。率直に申し上げると、そもそも与野党のケンカに巻き込まれて官僚が疲弊しているとも言えます。

一番大事なのは、与野党の利害対立をいったん横に置いて、国民のために充実した議論をいかに効率的にやるためのルールづくりをするかということなのです。

野党合同ヒアリングについて言えば、間違いなく官僚の過重な負担の原因になっていますし、追及が勢いあまって国会議員が官僚にきつい言い方をする場面もあります。

もちろん、今の時代、パワハラまがいのことは慎むべきですが、野党合同ヒアリングのあり方は、政権の運営に疑義があった時に、政府の説明責任を促すことと、効率的・効果的に議論を進めていくかという観点が大事と思います。

野党合同ヒアリングに出ていく官僚にしてみても、説明することが仕事上の役割ではあるものの、政策的なものでなければ、基本的には新しい情報を野党に出す権限などもたされていません。政権を追及するネタですから、政府の中でも幹部の与党政治家の了解なしには新しい情報を出すことなど許されません。

だから、ゼロ回答しかできない状況でヒアリングを受けるわけです。のらりくらりとゼロ回答みたいなことをせざるを得ない状況です。それを国会議員が追及する様子が動画で公開されるわけですから、精神的にもかなりきつい状況になります。

こういうのは、本来政治家同士が堂々と議論すべきと思います。答えられない人を呼んで追及するから、どうしても糾弾の場のようになってしまいます。だから、本来は、政治家の幹部が出席して説明した方がよいのです。大臣が難しければ副大臣でも政務官でもよいでしょう。

そして、それならそもそも国会でその問題を専門に扱う委員会を立てて議論した方がよいのかもしれません。そのかわりに、法案審議スケジュールはあらかじめ日程を決めて計画的に国会の議論を進め、議員の質問準備を早くするということも一考でしょう。(国会の質問通告については、ルール化の議論を始めつつ、まずはすぐに委員会開催が決まった日時と個々の議員の質問通告日時を公表すべきというのが私の意見です)

一方で、野党合同ヒアリングをやりながら、各政党の会議でのヒアリングや個々の議員の説明要求が大量に来ることがあるので、野党合同ヒアリングをやるなら、そこにヒアリングの場を集約した方がよいです。

今の状況だと、官僚は一日中「ご説明」に追われて、中身の仕事をする時間がなくなってしまいます。このこと自体が官僚にとっては「死ぬほどがんばっているのに、全然対策の中身が進んでいかない」と徒労感を感じる原因となっていますし、限られた人員の官僚には中身の検討を極力させた方が社会的にもよいと思います。

繰り返しますが、野党合同ヒアリングが官僚を疲弊させているのは間違いないですが、その原因が与党か、野党かという悪者さがしではなく、国民の知る権利を確保し、効果的・効率的な議論のやり方は何かという観点から、検討を進めていただきたいと思います。

皆さんはどうお考えでしょうか。


編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2020年10月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。