第2ロックダウンと銃撃テロ事件

オーストリアで3日午前零時(日本時間同日午前8時)、新型コロナウイルスの感染防止のため第2のロックダウン(都市封鎖)が実施された。期間は4週間の予定だ。

感染対策は第1回のロックダウン(3月)の措置に加え、午後8時から翌日午前6時まで外出禁止が実施される。商業関連の営業は午後7時まで開かれるが、レストラン、喫茶店は閉鎖され、文化・スポーツイベントはほとんど中止される。

▲ウィーン銃撃テロ事件の犯行場所で犠牲者を追悼するオーストリア政府首脳陣(2020年11月3日、ウィーン市内で、オーストリア国営放送の中継放送から)

▲ウィーン銃撃テロ事件の犯行場所で犠牲者を追悼するオーストリア政府首脳陣(2020年11月3日、ウィーン市内で、オーストリア国営放送の中継放送から)

ウィーン市内では第2ロックダウン開始の前日2日午後8時(日本時間3日午前4時)、穏やかな気温もあって多くの市民が外出し、最後のレストランでの夕食を楽しむ姿で溢れた。その時、イスラム過激派による銃撃テロ事件が発生したのだ。

コロナ疲れが見られたウィーン子も大慌て。メディアは銃撃テロ事件をブレーキング・ニュースとしてライブ中継、シュテファン大聖堂付近を散歩していた市民が走って逃げ出す姿が放映された。オーストリア国営放送は国民に人気のBBC連携の番組(Vienna Blood)を放映中だったが、番組を急遽中断してテロ事件の報道に切り替えた。

銃撃テロ事件の経緯

警察側の発表によると、4人の市民(男性2人、女性2人)が死亡、容疑者は警察官によって射殺された。17人が重軽傷を負った(その中に警察官1人が含まれる)。在オーストリアの日本大使館関係者によると、日本人が事件に巻き込まれたという情報はないという。

事件の主要容疑者とみられる人物は北マケドニア出身で20歳。イスラム過激派組織IS支持者。2019年4月、シリアのISに合流しようとしたことから反テロ法違反で22カ月の有罪判決を受けたが、年齢が若いことから同年12月、早期釈放された。

事件直後、同容疑者の家宅捜査が行われ、多数のビデオや資料、武器が押収された。その他、15カ所で家宅捜査が実施された。イスラム過激派テロ事件として捜査が始まっているが、犯行が単独か、共犯者がいるかは3日午前6時段階では不明だ。

ネハンマー内相は3日午前6時(日本時間同日午後2時)、緊急記者会見を開き、「射殺された容疑者はイスラム過激組織ISの支持者だ」と指摘、「わが国の民主主義を弱め、破壊しようと画策していた」と強調。

共犯者が市内に潜伏している可能性も排除できないことから、市民に「不要不急の外出を控え、自宅に留まってほしい。市内中心街には近づかないように」と警告を発し、学校は3日、文部省らとの協議の末、休校することになったという。

クルツ政権は3日、銃撃テロ事件の犠牲者のため3日間の国家追悼の日とすることを決めた。

事件発生当初、市内1区のユダヤ関連施設があるシュウェーデン広場近くで起きたこともあって、反ユダヤ主義を標榜するテロ事件と受け取られた。

ただし、オーストリアのユダヤ文化協会のオスカードイチェ会長は2日夜の国営放送とのインタビューで、「銃撃事件が起きた時にはユダヤ関連施設は閉鎖されており、負傷者が出たとは聞いていない」と述べている。オーストリアのメディアによれば、市内6カ所で銃撃が聞こえ、爆弾が破裂した音が聞こえたという情報が流れたが、未確認だ。

事件発生後、ウィーン市警察隊、対テロ特殊部隊コブラなどが総動員され、連邦軍からも75人の兵士が派遣された。市内上空にはヘリコプターが旋回し、現場周辺の動きを監視した。

ウィーンのテロ専門家は、「銃撃テロ事件は突発的なテロ事件ではなく、緊密に計画されたものだ。容疑者が重武装(短銃のほか、アサルトライフルを所持)していたことから、事件の背後にはテロ・ネットワークが存在するはずだ」と受け取っている。なお、射殺されたテロ容疑者が体につけていた爆弾ベルトはダミーだった。

ウィーン市には30を超える国際機関の本部があり、地理的にも東西両欧州の中間の位置にあるため、冷戦時代から旧共産圏と西側民主陣営のスパイ合戦の舞台ともなってきた。オーストリアにはウィーン市のほか、グラーツ(同国第2の都市)にイスラム根本主義組織「ムスリム同胞団」の欧州での工作拠点がある。

過去ウィーンを舞台としたテロ事件としては、1975年12月21日、「OPEC襲撃事件」がよく知られている。テロリスト・カルロス一味が閣僚会議中の石油輸出国機構(OPEC)本部を襲撃し、閣僚を含む多数の死傷者を出した。

1985年にはパレスチナ人ゲリラ指導者アブ・ニダル容疑者がウィーン空港を襲撃して無差別銃乱射したテロ事件が発生している。

両事件はオーストリアの2大テロ事件と呼ばれている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年11月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。