意外でもなんでもないトランプ善戦、問題は米メディアの偏向

恩田 和

アメリカ時間3日投開票が行われた米大統領選挙。日米メディアがこぞって、「予想に反して」トランプ大健闘などと報じているが、筆者にとっては、ここまで大方予想通りの展開だ。

ホワイトハウス公式サイトより:編集部

筆者は2004年、ジョージ・ブッシュ大統領が再選をかけて民主党候補のジョン・ケリー氏と争った大統領選を、カリフォルニアを拠点に現地取材していた。

任期中の2001年、9.11同時多発テロに直面し、アフガニスタン侵攻、イラク開戦と強硬路線を突き進んだブッシュ政権に対する評価は、国論を真っ二つに分けていた。「戦時大統領」を自認する大統領への熱烈な支持者がいる一方、イラクでの米兵犠牲者数拡大を嫌気し、ブッシュ大統領への風当たりが強まっていた。昨今、声高に叫ばれている「米国の分断」は、この時にも起こっていたわけである。

ブッシュ元大統領公式写真(White house photo by Eric Draper)

筆者は全米随一のリベラルの牙城、サンフランシスコ周辺のベイエリアを拠点にしていたため、周囲は反ブッシュ一色。デスクから「共和党支持者のコメントを取ってこい」と言われ、丸一日走り回ったが、ついに共和党支持者には出会えなかったばかりか、共和党支持者を探しているという筆者に対して、ほとんどの人が「頭がおかしいのか?」という反応だった。

全米でも、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなど、有力紙は反ブッシュキャンペーンを展開。大統領選直前の世論調査では、ブッシュ大統領の支持率は軒並み50%を下回り、筆者の周りの誰もが、ブッシュ再選はないだろうと考えていた。

しかし、蓋を開けてみると、ケリー候補に330万票差(得票)をつけて、ブッシュが圧勝。勝因として、戦時下で強い大統領が求められたことの他に、ケリー候補の人間的魅力のなさが指摘されていた。

今回の民主党候補のバイデン氏、どうもこのケリー氏に似ているのである。つまり、消去法で残ってしまっただけで、特筆すべき実績や人格を表すようなエピソードも出てこない。これではやはり、現職相手に戦いを挑むには無理がある。まして、ブッシュのような二世大統領や、トランプのような型破り破天荒大統領には到底太刀打ちできないだろう。

「ジャーナリズムの本場」で学びたいという一心で、日本の新聞社を辞めてアメリカの大学院に留学した筆者は、今、全く代わり映えのしないアメリカメディアの報道姿勢に絶望のような気持ちを抱いている。2004年の大統領選挙を取材してみて、筆者は、人口と大メディアが集中する東西海岸の世論は、必ずしも、全米の民意を代表しているわけではないことを思い知った。

しかし、主なリベラル系メディアは、2004年、2016年の大統領選挙で、ひたすら反共和党報道を続け、世論を読み誤ったのに、今回もまた、同じことを繰り返している。アメリカのリベラルの知性、良識はその程度だったのだろうか?

日本時間4日、アメリカ各地で開票が始まったころ、米誌「アトランティック」から、読者向けに一斉メールが送られてきた。今年9月にトランプ大統領が戦士兵を「負け犬」呼ばわりしたことをトップ記事でスッパ抜き、反トランプの先鋭となっていた名門言論雑誌のエディターが、「開票速報の見方」と題するコラムで、テレビ中継は「FoxNews」をウオッチして、ツイッターにも注目するように、と書いていた。

要するに、リベラル系の大メディアをフォローしているだけでは真実は見えませんよ、と認めたようなものではないだろうか。