維新の次なる「大義」は何か?

新田 哲史

大阪都構想の是非を大阪市民に問いかけた住民投票が否決されてから、早いもので1週間が経とうとしている。大阪維新の会の結党から10年、党のレゾンテートル(存在理由)とも言える政策が、5年前の前回投票に続いてNOを突きつけられ、松井一郎代表は大阪市長の任期満了をもって政界引退を表明。維新は、国政政党の日本維新の会を含めて存亡をかけた党戦略の見直しをせざるを得ない段階に入った。

維新はこのまま衰退するのか?

これまで自民党でも、民主系野党でもない「第3極」は、業界団体などの支持層を持たないため、往年のみんなの党のように一時的にブームを巻き起こせても、長くは続かなかった。そのなかにあって、維新は前回の住民投票での敗北で、創設者の橋下徹氏が政界引退に追い込まれた後も、大阪の地に深く根を張り続けてきた「例外的成功例」と目されてきた。

昨年4月の大阪知事選、市長選のダブル選挙に、府議選、市議選を加えた“クアドラプル”選挙でも完勝した時点で、今回の住民投票の結果を予期した人は少なかったであろう。維新にとって「よもやの敗戦」で、過去の第3極の例外ではなくなるのではないかとの見方も出ている。

他方、大阪で維新と10年戦争を繰り広げてきたライバルの中には、「維新がこのまま終わるような気はしない」(自民党国会議員)との予感を持つ人も少数派だがいるようだ。

というのも維新は、根拠地の大阪については知事、大阪市長を筆頭に、府内では16人の首長を擁しており、ローカルレベルとはいえ、非自民勢力で、行政を動かす側をこれほど押さえているところは他になく、地方議員の足場も決して弱くはない。このあたりは「風まかせ」だった過去の第3極の他勢力と決定的な違いであろう。

住民投票は否決されたものの、NHKの出口調査では、維新による大阪府・大阪市の行政運営の評価は「大いに評価する」「ある程度評価する」を合わせて7割を超えた。つまり都構想にNOは出たが、維新の行政自体は支持を集めている

住民投票当日の演説の人だかり(大阪維新の会ツイッターより引用)

立て直しには旗印が必要

問題は、最前線に強兵を擁していても、本陣に「旗印」となる戦略・ビジョンがなければ、個々の選挙戦生き残りがやっとになるだけだ。それでは政党として哲学のない政治屋集団になってしまうし、有権者は早晩愛想を尽かすだろう。

ただし、私が現時点では「維新がこのまま終わらない」と話す人たちに半信半疑なのは、大阪都構想に代わりうるだけの新しい大義、政策アジェンダを打ち立てられるかどうか見えないからだ。

一つの方向性としては、篠田英朗先生が、住民投票の翌朝に建言したように「真の全国政党への脱皮」であろう。大阪にみられるような地域主義を維持しつつも、「現在の日本の政治の停滞の大きな原因が、固定支持者を固定的に確保するためだけの行動しかとらない野党勢力が、政権担当能力を持つことを放棄している」(篠田氏)現状を打破し、強大な自民党勢力に緊張感を与え、健全な政策競争を促すことに違いはない。私も篠田先生の意見に賛同する。

ただ、大阪都構想は、党勢拡大のマーケティングの意味でも絶妙なアジェンダではあった。私は選挙で「中の人」をやった経験もあるので、国政から地方まで選挙に勝ち続け、それなりの勢力を構築しないと、政策は実現できず、そのあたりはシビアに見てしまうところがある。

次はベーシックインカム !? 政治運動の象徴探し

維新が外交安全保障などで左派野党とポジショニングが異なるのは自明だ。問題は自民党との差異をどう打ち立てていくか。大阪都構想にみられるように、既得権打破が維新らしい強みであるなら、そこは徹底して訴求すべきポイントであろう。

筆者自身も昨年の今頃に起きた「森ゆうこ騒動」に途中から関わり、森氏への懲罰を求める署名・請願に対して自民党に塩対応をみせられたときには、自民党政権下での行革の困難さや既得権の問題を痛感した。

肝心の新しい大義、維新の関係者の間では、「統治機構改革」(音喜多駿氏)や、「税と社会保障の一体改革」「規制緩和による成長戦略」などが挙がっているようだが、大阪都構想のようなシンボリックなトーンにやや欠ける。

都構想は確かにローカルマターだが、維新の政治運動を象徴するような政策であり、住民投票までの政局を通じてダイナミズムを演出できた。

これはまだ頭の体操レベルの話だと断っておくが、税と社会保障の一体改革をよりキャッチーに党の哲学として昇華させていくのは悪くないのではないか。先頃、竹中平蔵氏が炎上したが、ベーシックインカム(BI)は旗印としてわかりやすい。

kokouu/iStock

タテからヨコへのシフト

ちょうど維新は年金の賦課方式から積立方式への転換を政策に掲げている(参照:柳ヶ瀬裕文氏)のでBIとの親和性はありそうだ。もちろん、柳ヶ瀬氏も認めるように年金の移行方式も「途中に現役世代の負担が増す可能性」があり、相当ハードルが高い。BIも財源の問題が大きすぎる。

一方で、政治運動の観点でみると、BIは、年金や生活保護、失業保険など既存の社会保障制度を整理統合、行政の裁量権をなくしていくもので、歳入庁導入も組み合わせてみることで、維新の既得権打破のシンボリックなアジェンダにはなりうる。政策的な実現性や党勢の維持拡大の運動性をどう持たせるかの課題は小さくないが、党のカラーも体現するというのはそういうことではないのか。

BIは先に述べたように、全国展開の方向性ともマッチする。大阪都構想など地域に根ざした政策を「タテ軸」とすると、社会保障や安全保障は全国共通の「ヨコ軸」といえる。BIより相応しいアジェンダはあるだろうが、全国政党を目指すのであれば、タテからヨコへのシフトという観点は必要であろう。

大阪維新の会は吉村氏が次期代表の有力候補。いずれ吉村氏が国政政党も含めて牽引していくのであれば、「世代交代」をはかりつつ、ロスジェネ以下の改革志向の有権者ニーズをすくいあげるか。

ただ、iPhoneを世に送り出したスティーブ・ジョブズはマーケティングが嫌いだったそうだから、時代のニーズを先読みして、逆に提案するくらいでないと、人々の心を動かすのは難しいかもしれない。新たな「大義」を生み出せるかが、今後の維新の浮沈のカギを握る。

【おしらせ】YouTubeで登録者13万超と政治分野では異例の注目を集める松田政策研究所チャンネルで、住民投票の振り返りと維新の今後等を議論しました(早口の悪い癖出てるので0.75倍速がいいかも)。