バイデン大統領で「もっと大きな政府」がやってくる

2020年11月07日 19:00

アメリカ大統領選挙はバイデン元副大統領の勝利が確実になったが、熱狂はみられない。「バイデンの最大の長所はトランプではないことだ」という評価が妥当な所だろう。

事前にはバイデンが楽勝とみられていたが、トランプは意外に健闘した。その最大の原因は、彼が選挙制度の欠陥を最大限に利用したことだろう。選挙人制度のもとでは、共和党の候補がニューヨークやカリフォルニアで選挙運動しても意味がない。彼がねらったのは中西部のスウィングステートに住むプアホワイトである。

アメリカはまだ人口の60%以上が白人であり、彼らは「おれたちの国だ」と思っているが、口には出せない。そのルサンチマンを刺激してマイノリティや移民に対する差別意識をあおるのが、トランプの一貫した選挙戦術だった。

選挙人制度が不合理だという批判は昔からあるが、是正できない。国(state)としてのプライドを各州が捨てないからだ。このため中西部が過剰代表され、田舎者の不満が「アメリカファースト」の保護主義を生み出し、同盟関係を混乱させてきた。

バイデン政権を生んだ「新しい金権政治」

それに対して、民主党が合理的な政策を打ち出したわけではない。バイデンを当選させた最大の要因は、Economist誌の推定で140億ドルという史上最高の選挙資金である。インターネット献金システムを活用し、「トランプでなければ誰でもいい」という民主党支持者の献金を集めたのだ。

バイデン陣営の献金ページ

アメリカの選挙費用は上限がないので、トランプのような大富豪しか大統領に出馬できなかったが、SNSがこれを変えた。ニューヨーク州で再選されたオカシオ=コルテス下院議員は、1700万ドルの献金を集めた。自己資金がなくても、SNSを活用する情報発信力があれば当選できるのだ。

これはトランプとは違うタイプのポピュリズムを生み出し、建国以来の「大きな政府か小さな政府か」という争点は消え去った。トランプの大きな政府に対して、民主党はもっと大きな政府を志向している。

民主党予備選挙で最後までバイデンと争ったサンダースは、国民皆保険や大学無料化やグリーン・ニューディールなどの過激なバラマキを打ち出し、下院民主党は1.9兆ドルの追加景気対策を提案している。このように民主党が極左化した原因が、ネットで数百万人の小口献金を集めるシステムである。

1970年代以来の「大きくなる政府」の実験

共和党は伝統的に財政支出を抑制して減税を求めてきたが、トランプは減税だけを食い逃げした。連邦政府の今年度の財政赤字は(コロナ対策で)昨年度の3倍の3兆ドルを超えたが、物価も金利もあまり上がらない。

他方、民主党予備選挙でサンダースの顧問をつとめたのは、MMTの教祖ケルトンである。彼女は「財政赤字を心配しないで紙幣を印刷すべきだ」と主張している。バイデンは法人税の増税を公約しているが、上院で過半数を占めた共和党が許さないだろう。

このように政府が大きくなる原因は、政府支出と税負担の関係が切れた(ように見える)からだ。支出が増えても増税が必要ないのなら、財政赤字はフリーランチになる。日本でも今年度は第3次補正予算まで入れると100兆円以上の国債が発行される見通しだが、長期金利は上がらない。

連邦政府の財政赤字(米議会予算局)

世界的に財政赤字が拡大するのは、図のように1970年代と2010年代に次いで3度目である。70年代には財政赤字でインフレになっても失業率が上がるスタグフレーションが起こったが、80年代にサッチャーやレーガンの「新自由主義」が登場して金融を引き締め、インフレを止めた。いま起こっているのは、そのときとは逆に、いくら財政赤字が拡大してもインフレにならない異変である。

70年代にはフリードマンの自然失業率理論がパラドックスを解決したが、現状を説明する経済理論は存在しない(MMTは何も説明していない)。突然インフレや国債の暴落が起こるかもしれないし、何も起こらないかもしれない。バイデン政権が財政赤字を拡大することは確実だが、これは70年代以来の社会実験である。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長(学術博士)

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