教員の土日勤務時間データ改ざん事件の背景

2020年11月09日 06:00

前回の記事「部活動顧問を大量処分した鳥取県教委の厚顔無恥」もそうだったが、教育委員会の管轄で、またとんでもない事件が起きてしまった。

部活など教員の土日の勤務記録削除指示 滋賀・日野町教委「残業超過避けるため」(毎日新聞デジタル)

滋賀県日野町の教育委員会が町立小中学校の校長らに対し、教員が土日祝日に出勤した記録を削除して提出するよう指示していたことが明らかになり、文部科学省の指針に反しているとの指摘がなされ、町教委が謝罪した。以上が事件の概要である。

takasuu/iStock

背景にあるのは言うまでもなく「教員の働き方改革」で、2016年度の勤務実態調査によると、小学校教員の3割、中学校教員の6割が「過労死ライン」とされる月80時間以上の時間外勤務を行っている。このような実態を受け、文部科学省は昨年1月に「学校における働き方改革推進本部」を立ち上げた。

そして、同年12月には公立学校の教員に1年単位の変形労働時間制を可能にする改正教職員給与特別措置法(給特法)が成立し、来年度から運用が始まることとなった。

少し考えれば誰にでもわかることだが、教員の勤務時間を減らすために取り得る方法は3つある。業務を減らす、人を増やす、あるいは「定額働かせ放題」と批判される給特法自体を廃止し、きちんと残業代を支払うのも効果的だ。人件費予算の範囲内でしか時間外労働をさせられないとなれば、どんな手を使ってでも勤務時間を削減するしかない。

しかし、文部科学省には教員の仕事を減らす気がなく、金をかけるつもりもなかったらしく、苦し紛れの策として出してきたのが変形労働時間制である。これは 1日8時間労働(現行は7時間45分勤務)という大原則を破り、繁忙期には勤務時間を延長し、閑散期には短縮するというもので、 1日10時間勤務までが可能になった。

法案成立後、学校関係者からは「ブラックな現状を追認し、さらなる長時間労働につながる」「仕事が忙しく、長期休業中に休暇をまとめ取りするのは不可能」などと批判が相次ぎ、すこぶる評判が悪いが、

ただし、来年4月から全国一律にそう変わるわけではなく、都道府県の条例制定から個々の学校での導入まで完全な選択制になっている。しかも、これには一つ条件があり、制度適用の対象となる教員は残業が月45時間という国のガイドラインを遵守しなければならない。

しかし、現実には大部分の教員の勤務時間はこれを上回っているわけで、何とか新制度を導入して文部科学省にいい顔をしたい各自治体の教育委員会が各学校の管理職に圧力をかけ、上辺だけでいいから勤務時間を短縮させようと画策している。これが全国的に見られる現在の状況である。

paylessimages/iStock

もちろん、そういう予備知識はあったのだが、今回の日野町の例はそれを踏まえても不可解至極で、報道に接し、ただただ戸惑ってしまった。私が最初に目にしたのは中日新聞の記事で、問題となる文書の画像が添えられていた。

残念なことに両端が切れ、正確に読み取ることができなかったが、とにかく、教育長名の正式文書でないことは直観的にわかった。しかし、だったら、誰が何のためにこんなものを校長宛に出したのか。それが不明のままではコメントできないなと思っていたら、朝日新聞の記事にはその点に関する説明があり、しかも解読可能な画像が添付されていた。

教職員の出勤報告「土日祝日削除を」滋賀の町教委要求(朝日新聞デジタル)

これによると、今回問題となったのは担当職員が作成した「校長や教頭らが閲覧できるサーバー上の文書」。なるほど。だから、あれほど違和感を覚えたのかと納得がいった。

まあ、こういう「困ったちゃん」は世間のあちこちにいるもので、普通はこんなに簡単に尻尾をつかませないが、それにしても、改めて読んでみると、教員の働き方改革に対する教育委員会の本音が透けて見え、実に興味深い。

週休日の在校時間を「時間外労働」と認めて報告することは所属職員の健康管理に対する無策を申告するようなものだと校長を叱りつけているので、町教委でもかなりの地位にある人物だと推察できるが、その続きが何と「仕事の進め方の助言をしたり、校務分掌の平準化をしたりして、問題を解決することが先決です」。

ここを読み、「おいおい、ちょっと待て!」と心の中で突っ込んでしまった。

このお方の頭の中には「教員の仕事を減らす」などという発想は最初っからないらしい。しかも、休日に出勤する理由は平日の残務整理のためだけだと思い込んでいる。日野町立の中学校では土日の部活動は一切禁止なのだろうか。

さらに、アンダーラインの引かれている部分で、教員の土日祝日出勤分のデータは教頭が削除しろと命じた直後、「人数の多い学校は、(こちらで削除するのが)結構な手間です」と半ギレしているのだからすさまじい。

要するに、この文書の作成者は教員の労働環境には一切関心がなくて、単に自分の仕事
を減らしたいだけなのだ。ここらが教育委員会の偽らざる本音であろう。

ただし、弁護するつもりなどさらさらないけれど、これまではともかく、今後、パソコンのスイッチをONにした時刻と退勤ボタンを押した時刻をもとにしたエクセルファイルを改ざんせずに利用するのだとしたら、日野町教育委員会の勤務時間調査のやり方はむしろ模範的だと言える。

私が38年4カ月勤務した福島県教育委員会のやり方はもっともっとデタラメだったが、ここからは少し別な話になるので、聞くも涙の物語は記事を改めて申し上げたい。

再雇用されたら一カ月で地獄へ堕とされました (双葉文庫)
愛川 晶
双葉社
2019-08-08
アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

過去の記事

ページの先頭に戻る↑