従業員と個人事業主

私の会社のパートタイム従業員に清掃業務をして下さっている方がいます。彼はかれこれ9年ぐらい弊社で働いてくれていますが、彼が普段フルタイムで働いている建物の管理人から最近、2週間前ノーティスで契約を切られました。

その建物とは雇用契約(Employment)ではなく、業務委託契約(Contract)だったのかとその時初めて知りました。私もそれではかわいそうだと思い、すぐに違う建物のフルタイムの仕事を斡旋し、近いうちに面接が行われる段取りです。

私が建設や開発絡みの仕事が多いからかもしれませんが、周りには従業員ではなく業務委託契約の人は結構います。概ね、1年に一度契約更改があり、過去1年の業績と今後の期待を含めた交渉が行われます。野球選手の年俸交渉のようなものを想像してもらえればよいのですが、もちろん、そんなに数字できっちり出る業務ばかりがあるわけではなく契約更改も「来年もよろしく」ぐらいの軽いものが多数を占めていると認識しています。

契約の場合、一生懸命やらないと契約更改してもらえなくなりますので仕事に対して基本的に真面目に取り組みます。仮に同じ会社の同僚が同様の業務委託契約でも案外、それぞれの仕事の領域が違っていたりするのでお互いが結託することは少なく、自分に与えられた業務をコツコツと進めていくことになります。

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この辺りは以前話を振ったギグワーカーに近いものがあります。そもそも業務委託契約が北米あたりで普及し、その業務内容を単一種の業務などに究極的に絞り込んだのが最近よく聞くようになったギグワーカーなのでしょう。

11月3日にはカリフォルニア州でギグワーカーは個人事業主という扱いにする住民投票が可決し、今後、この展開は全米に広がっていくものと思われます。

戦後の個人事業主とは小さな商店を構えてモノを売る人がその代名詞でした。ところが90年代後半からウェブサイトが普及し、その後、スマホのアプリが急増します。この辺りからIT関係の個人事業主が増え、モノを売る事業からサービス事業への転換がはかられました。しかし、それらはある程度のノウハウを持ち合わせていないとできない分野でした。

ところがリフトやウーバーのような配車サービスが個人事業主というカテゴリーでの参入を大いに促進します。その後、ウーバーイーツなどフードの配達員が爆発的に普及したのは「車はないけれど自転車はある」というハードルの低さだったと思います。

かつて起業しようとか、起業の勧めなるものがいろいろ言われ、2000年代初頭のMBAブームとも相まって「起業=金持ちになる秘訣」的なニュアンスが強くなりました。ところが当時からずっと言われていたのが「起業したくても資本もないし、そもそも何をやったらいいかわからない」という声ばかりでした。それがどんどん変質化、単純化し、企業が個人事業主との契約形態にどんどん変わってきているのは否めない事実であります。

私は今、雇用の立ち位置が大きく変わる過渡期にあるのだろうとみています。大手企業や銀行が新入社員を毎年何百人と採用するのは数年以内に辞める人員を計算しているからであります。企業側からすれば初めの数年間は新入社員に対し教育投資をする一方で、リターンなんてほとんどないのにそろそろ稼いでくれるかな、と思う頃に「一身上の都合により」と辞める側の理論で振り切られてしまうのです。企業側もそれを見込んで大量採用している節もあり、どっちもどっちなのでしょう。

確かに雇用の安定化は必要なのですが、企業にも言いたいことはあったはずです。また、技術や価値観が日進月歩の今、今年良くても来年どうなるかわからないという時代に雇用の安定化を企業に押し付けるのはやや無理が生じてきていないでしょうか?

雇われる側からすればそんな理不尽な話はない、というかもしれませんが、雇われる側も例えばすたりゆく業界で赤字続きの会社となれば前向きになれないでしょう。私は雇用の流動化をもっと推し進めるべきだと思うのです。それと「雇用を契約化する」という発想をもっと深掘りしてもよいと思っています。冒頭申し上げた雇用はほとんどが1年更新ですが、3年とか5年という長期的なものがあってもいいでしょう。

そんなことしたら振り落とされる人だらけだ、と指摘されるかもしれませんが、人間、スイッチが入ると案外馬力が出るものです。毎日会社に行くだけ、今ならオンラインを通じて仕事をするふりをしていればよいという人たちに「これはまずい」と思わせることが大事だと思うのです。

日本の生産性は低いのです。そして今までの日本と違い、確実に他国に追い抜かれつつあるのです。ここから脱却するためにはいつまでも今のぬるま湯状態ではだめなのだという気持ちになってもらいたいと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年11月10日の記事より転載させていただきました。