相対する「巨大化阻止」と「挙国一致型合併」

タイトルを見て何を言っているかさっぱりわからないと思います。私もひねりすぎたと思いますが、少々お付き合いを。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

巨大化阻止とはGAFAMやアリババのような巨大企業がむしばむ自由競争を政府がその支配力を抑えようとする動きのことです。やや驚いた報道は中国から入ってきました。日経が「中国の規制当局である国家市場監督管理総局は10日、ネット企業の独占的な行為を規制する新たな指針の草案を公表した」と報じています。

この対象がアリババではないかというのです。ご記憶にあると思いますが、アリババグループの金融会社、アントが史上最高額の調達を目指した株式上場を2日後に控え、中国当局が中止させた強権行為があったばかりです。それに引き続き、この中国規制当局の動きとは何なのでしょうか?

この報道を受けてアリババだけではなく、ネット販売中国第2位の京東(JD)の株式も大きく売られており、本来であれば「独身の日」を迎え大きく盛り上がるはずなのに完全に水を差された形になっています。

見方によってはアメリカの民主党も中道左派、中国共産党は左派ですから果実は皆で分かち合うという発想からすれば巨大企業が利益を独占するのみならず、支配権による君臨が起きることは思想的に合致しません。その影響力を少しでも薄めたいと当局が行動し始めたならばアリババは共産党運営にとっての脅威になると考え始めた可能性もあります。

中国には企業の種類はいろいろありますが、その中で企業資産が国に所属する「国有企業」が共産党的には重要ながらも最近は「株式企業」と称する一般的な私企業が君臨しています。ネット系やIT系の企業が時価総額で上位に食い込んでおり、共産主義的な一定の抑止力とも見えます。

アメリカも同様だと思うのですが、中国と共に最終的に同じところに帰着するのはデータというソフトではないかと感じるのです。政府を凌駕するデータの所有とその存在感で民間企業が技術的に民意をコントロールすることすら可能になりつつあるのです。

さて、タイトルに書いたもう一つの「挙国一致型合併」であります。挙国一致は戦争時代などを過ごした方ぐらいしか使わない言葉かもしれません。ウィキには「大規模な戦争や経済恐慌といった国家の危機や政党内閣の危機に際して、対立する政党をも包含して作られた内閣をいう」とあります。つまり極めて危機的な状況となれば敵も味方も関係なく皆で協力し合うというのが言葉の意味ですが、これを産業界に当てはめるとどうなるのでしょうか?

日経フォーラム「世界経営者会議」で登壇したFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)のジョン エルカン会長は「新型コロナウイルスで大きな打撃を受けた自動車業界について世界でさらに統合が進む可能性がある」と述べています。FCAはPSA(プジョー・シトロエン)と合併をして世界第4位の自動車会社になります。自動車メーカーは単に合併によるコスト削減効果のみならず、研究開発投資をより多くし、自動車新時代への対応を進めるため、企業間の提携を含むグループ化が進んでいます。

日経ビジネスに加藤隆雄、三菱自動車CEOのインタビュー記事があるのですが、拝読する限り、申し訳ないですが、三菱自動車が独立企業として今後生き延びる術がなく、弱体化しているルノー日産との協業が生命線と読めるのです。「藁にもすがる」とはこのことなのだろうと思います。

挙国一致型合併とは主に製造業や成熟企業が今後の生き残りをかけて地球ベースでの合併や提携を通じて規模の経済を追求し、生産性を上げ、生き残りを図るという私の造語です。日経フォーラムで日本電産の永守重信会長が2030年に自動車価格は今の5分の1になると再び力説しています。そうなるかどうかは別としてもそれが何を意味しているかと言えば売り上げが5分の1となれば今のままでは誰も利益を確保できないですよ、という警告なのであります。自動車は安くなったから一人、2台、3台と買うわけではなく、売り上げがそれに反比例して伸びる商品ではないのです。

このような厳しい競争社会に面しているのは原油産業、鉱山開発、天然ガス、製薬、金融などなど非常に広範囲に及ぶものです。

ソフト産業に対する巨大化阻止、一方で、製造業などの挙国一致型合併という背反した関係は世の中のこれからのビジネスの流れを予言するようにも感じます。また、どちらも大きくなりたいというベクトルの中でそれを後押しするのか、阻止するのかの違いだともいえるのでしょう。

奇妙な言い方かもしれませんが、私も昭和、平成時代とビジネスをしてきた中で令和の時代のビジネスは今までの常識が覆され、時代のページがはるかに早く進んでいくように感じます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年11月11日の記事より転載させていただきました。