バロンズ:ワクチン普及期待でバリュー株見直しも、不確実性は残存

2020年11月16日 06:00
コロナのマンハッタン

カバー写真:Andreas Komodromos/Flickr

アクミ・ユナイテッドの株価が急騰中だが、新型コロナウイルス感染拡大とは無縁だ。アクミは救急用品やハサミ、釣り具などを生産し、売上は何年も右肩上がりである。同社は店舗での販売からネットへ切り替える過程にあり、ウォルター・ジョンソン最高経営責任者(CEO)は一段の成長に自信を覗かせる。そのアクミの株価が好調なのは、バリュー株であると同時に中小型株であるためだ

バリュー株へのローテーションが進み、ラッセル2000バリュー株指数は10月1日以降、14%高を遂げる一方で、ラッセル1000グロース株指数は2.4%高に過ぎない。その背景として経済回復が挙げられ、インフレによる金利上昇を見込んだ投資家が景気敏感株、特に中小型株のバリュー株を見直し始めている。NY大学のアスワス・ダモダラン教授いわく、1926年から2014年にかけ、小型株は他の指数を4.3%上回ったといい、経済回復期に成長が期待されよう。詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週は新型コロナウイルス向けワクチンを取り上げる。抄訳は、以下の通り。

ワクチンをめぐるグッドニュースが米株にとってバッドニュースとなる理由-Why the Good News on Vaccines Could Be Bad News for Stocks

これは終わりの始まりなのか、始まりの終わりなのか?

投資家は、ファイザーと独ビオンテックが開発中の新型コロナウイルス向けワクチンが90%有効と判断された後、コロナ禍の始まりの終わりを意識し始めたようだ。結果、米株ファンドに記録的な資金流入が確認され、ダウ平均は11月11日にザラ場最高値を更新した。

新型コロナウイルス向けワクチン第一号は、年末から提供が開始され、2021年半ばまでには本格的に普及する見通しで、漸く正常化へ進む希望がみえてきた。こうした楽観は、米国や欧州でのコロナ感染者急増に加え、追加経済対策の成立が泡と消えるリスクの先を見て高まっているかのようだ。

ファイザーのワクチンは米株市場に衝撃を与え、経済の正常化で恩恵を受けるセクターへの資金流入を招いたが、逆にステイホームで恩恵を受けた銘柄から資金が流出。テクノロジーの超大型株も例外ではなく、二分化が米株指数の週足の動向に表れており、ダウは4.08%高だった半面、S&P500は過去最高値を更新したとはいえ2.16%高となり、年初来で最も上昇率が高いナスダックは0.55%高にとどまった。中小型株指数のラッセル2000は6.08%高の1,744と、2018年8月31日以来の最高値で取引を終えた

今回の上昇相場の勝者は、ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)であり、同氏はファイザーの株価が7%急伸し40ドルを超えたところで、560万ドル相当の自社株を売却した。ファイザーによれば、ブーラCEOの自社株売却は事前計画通りで、ワクチン開発のタイミングはあくまで偶然だったという(筆者注:ブルームバーグによれば、ブーラ氏はインサイダー取引に抵触しないよう株価が一定の水準に達した際の売却を今年8月に指示していた)。株式を売却するには多くの理由があるだろうが、上昇を見込んでということではないだろう。

チャート:米国の新型コロナウイルス新規感染者数とS&P500

作成:My Big Apple NY

マクロ・インテリジェンス・2パートナーズのジュリアン・ブリッデン氏によえば、ワクチン開発進展のニュースは、レバレッジを掛けて取引を行う投資家に大きな痛手となった。多くがロング/ショート戦略を展開、FAANGを中心とした超大型株を中心とした銘柄でポジティブなモメンタムが高まった局面で指数を買い、ネガティブな局面で売却していた。勝者と敗者が急激に逆転したのは、同時多発テロ事件が発生した2001年9月11日と2008~09年の金融危機以来のことだ。

では、仮にコロナ禍が財政政策と金融政策で支えられ、ゴルディロックス即ち適温経済が戻れば、今年1月のようなバリュエーションのピークを迎えるのだろうか?そして、米10年債利回りは2%に近づくのだろうか?そうなれば、ナスダックの上昇にブレーキが掛かるだろうが、イタリアやスペインなど出遅れた株式市場が盛り返しうる。

足元の低金利は、株式相場に好都合だ。株式ファンドへの資金流入額は前週445億ドルとなった陰で、マイナス金利の債券発行残高は17兆ドルに達していた。欧州政府の国債は2年債以下の短期債が全てマイナス金利の状況で、ギリシャですら例外ではない(ただし、イタリアとギリシャの10年債利回りは0.5%以上で推移)。このような状況下、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチは、低金利の長期化を見込む。

JPモルガン・チェースのエコノミスト、ジェシー・エドガートン氏は、コロナ感染者の急増により3月から4月に掛けてほど厳格でない可能性が高いものの、経済活動が停止する影響を懸念する。同銀のクレジットカードとデビットカード、約3,000万枚の11月9日週の取引動向をみると、前年比7.4%減となり、特にコロナ感染者が急増する州で顕著だったという。

パウエルFRB議長は12日、経済の底堅さに言及しつつ「コロナ感染拡大状況をみると、向こう数カ月は困難な時となりうる」と発言した。ハイ・フリクエンシー・エコノミクスのルビーラ・ファローキ氏は経済活動の停止を振り返りつつ、1~3月期に前期比年率5%減に陥るのに数週間しか掛からず、4~6月期には同31.4%減と過去最悪を記録したと指摘する。ハイ・フリクエンシー・エコノミクスはこうした激しい景気の落ち込みを予想していない。ただし、当時のように2.3兆ドルの景気刺激策(CARES法)に支えられ、7~9月期に成長率が同33.1%増ほど勢いよく回復する見込みは小さい。

なぜなら、レームダックに入ったトランプ政権では、米大統領選をめぐり法廷闘争に持ち込む事情もあり。追加経済対策が成立する可能性は低いためだ。ペロシ下院議長(民)とマコーネル上院院内総務(共)は協議を続けるだろうが、その間に感染者数は増加し続けている。AGFインベストメンツのグレッグ・バリエール首席ストラテジストが悲観するように、人道的な危機に直面しコロナ対応には政権と米議会の積極的な対応が必要だが、ワシントンは未だに選挙結果とトランプ氏の次の一手を議論する状況だ。

――ファイザーのワクチンに関心が高まる一方で、ワクチン普及への問題点が取り沙汰されています。まずワクチンは①マイナス70度以下の超低温状態なら最大6ヵ月間保存が可能な半面、2~8度の冷蔵保存は5日間のみで、②通常の病院では超低温状態を維持できる冷凍庫は用意しておらず、③ワクチンの有効期限は輸送期間を含め10日間程度、④抗体の持続期間は数ヵ月にとどまる場合あり――と課題が山積みです。それに気づいたのか、グロース株が盛り返しつつありますが、いずれにしても現時点では米株高につながっており、強気派には御の字です。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2020年11月15日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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