プーチン体制のロシアの行方

岡本 裕明

独裁的立場をとるプーチン大統領の行方が読みにくくなっています。概括するとプーチンロシアを取り巻く環境は徐々に厳しくなっており、バイデン大統領が誕生したならば今後の緊張感はさらに高まるとみられています。欧州に目を転じると8月にプーチン大統領にとって邪魔な存在とされる反体制派のナワリヌイ氏をロシアが毒殺しようとしたとドイツが発表しました。これを受けて完成間近のロシア/ドイツ間の天然ガスのパイプライン、ノルドストリーム2の建設が再び止まるなど行方が見えない状態にあります。

(ロシア大統領府サイトより:編集部)

(ロシア大統領府サイトより:編集部)

さらに、旧ソ連領のアゼルバイジャンとアルメニアがその支配権を争っていたアルツァフ共和国についてアルメニアが事実上、敗退しました。いわゆるナゴルノ カラバフ紛争です。ロシアはアルメニアを支援していたため、これがロシアの影響力の低下ではないかと報じられています。

果たしてどうなのでしょうか?

まず、アゼルバイジャンとアルメニアの紛争でありますが、トルコが支援するアゼルバイジャンとロシアの支援するアルメニアの戦いという切り口で見れば確かに結果はロシアの敗退に見えます。ところがこの和平の仲介をしたのはロシアであります。ロシアは今回アルメニアを通じて軍事侵攻しておらず、プーチン大統領はあくまでも地域紛争という立場をとっています。つまり、初めから本気度はなかったように見えるのです。とすればこれをもってロシアの弱体化とみるのはやや早計な気もします。

日経や産経はロシアについて「ロシア勢力圏、後退さらに」(日経)、「堕ちた盟主『露勢力圏』の崩壊」(産経)といったトーンなのですが、フィナンシャルポストの記事あたりを見ると「プーチンは世界でチェスゲーム」と題しており、記事のトーンはむしろチャンスを窺っているという内容です。

これをどう見るか、なかなか難しいところです。個人的にはロシアの体力は経済的ダメージとコロナで落ちてきているとみるのが妥当だと思います。ただ、ロシアは寒い故に粘り強い国でもあります。旧ロシア、あるいはソ連時代の脅威の粘りは侮れないものがあります。

例えばトランプ大統領が駐留米軍についてアフガニスタンからの更なる撤退を指示したと国防総省の話として報じられています。アフガニスタンからのアメリカの撤退をずっと待ち望んでいるのがロシアであることは間違いなく、どこでその牙をむくのか、気になるところであります。これがフィナンシャルポストの言うチェスなのだろうと思います。

ではこれを地球規模のバランス外交で見るとどうなるでしょうか?この視座で考えると私はむやみなロシア弱体化はあまり好ましくない事態を生む可能性があるとみています。つまり、誰がそこに影響力を発揮したがっているか、であります。

一つは中国、一つはトルコであります。中国はタジキスタン、キルギス、カザフスタンといった中央アジア諸国に埋まる資源を求め、特にキルギスなどへは国境を接していることから積極的な進出を目指しています。(地元では反中国運動が展開され、容易ではないようです。)

一方のトルコは黒海、カスピ海を挟んだ諸国に影響力強化を狙っています。上述のアゼルバイジャンは好例でしょう。ただ、ここが読みにくいのですが、トルコとロシアは関係が悪い部分とそうではない部分があり、非常に割り切った関係を維持しています。歴史的にはオスマン帝国対ロシアという関係があり対立ですが、経済関係では軍事兵器、原発、パイプラインなどでつながっています。つまり、プーチン大統領とエルドアン大統領はメリットがあるかないかでケースバイケースで判断してきています。

とすれば冒頭のナゴルノ カラバフ紛争がロシアとトルコにとってウィンウィンだった可能性は大いにあるのです。では、問題はアメリカの姿勢です。バイデン氏にいまだに祝電を送っていないのがロシアであります。明らかにプーチン大統領は敵対視むき出しになっています。

アメリカ民主党は外交についてはフレキシビリティがなくオバマ政権の時も目も当てられないほどの素人外交を展開しました。個人的にはバイデン氏はもっと外交が稚拙になるとみています。それは優秀なチーム員がいないこと、バイデン氏がよりかたくなな姿勢を見せ、あまりにもわかりやすい手の内を見せそうだからであります。

とすれば最後に地球儀ベースで笑うのは誰なのか、ですが、棚からぼた餅の中国の可能性は無きにしも非ず、という気は致します。来年は外交が難しい年になりそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年11月18日の記事より転載させていただきました。