叩かれる三菱重工、スペースジェットをどうしたいのか?

岡本 裕明

日経に「誰も責を負わない三菱スペースジェットの本質」という記事があります。内容は非常に厳しく、これを読んだ三菱重工幹部は顔が引きつっているのではないかと思います。しかし、同社の問題とは昨日今日に始まったわけではなく、ほぼ制御不能な体質の問題で会社そのものを解体的出直しぐらいの発想で考えないと希望ある企業になれないのではないかという懸念があります。

(三菱スペースジェット(三菱航空機HPから):編集部)

(三菱スペースジェット(三菱航空機HPから):編集部)

スペースジェットを語る前に三菱重工そのものですが、売り上げはこの数年、3兆円半ばから4兆円規模を維持しています。一方、利益を見ると19年3月期に経常で1826億円計上しているのですが、20年は赤字、21年以降も2-300億円程度の黒字にとどまると予想されています。また先日発表された9月末半期決算では728億円の赤字ですので下期に大きく巻き返すという予想なのでしょう。

同社が硬直化した組織だということは以前にもこのブログで取り上げました。技術系を中心に非常に優秀な人材を抱えていることで船頭多しの状態になっているのだろうと思います。ドラマ「下町ロケット」で赤い帽子をかぶった軍団が同社のイメージをトレースしています。

その船頭のトップに立つのはやはり東京大学卒業が重要なようで同社では泉澤清次社長で5代続けての東大卒になります。ただ、私が分からないのは前社長の宮永俊一氏が40年ぶりの事務系出身と騒がれたのですが、泉澤社長も東大教養学部卒で純粋な意味での技術畑出身者ではありません。ただ、経歴が宇宙ステーション「きぼう」や三菱自動車の品質対応を行っていたことが主な経歴上の評価ポイントとなっています。

さて、同社は基本的に分社化した体制でそれゆえに総合力を発揮できないともされています。分離上場している三菱自動車や今回話題の三菱航空機傘下のスペースジェットも同じ枠組みでしょう。(三菱自動車は重工が10%しか株を持っていないというだけの経理的仕分けです。)泉澤社長が19年の社長就任時に「自社の現状を『実直にモノをつくるのは強みだが、自分で枠を感じて本来の実力を発揮できていない』と分析」(朝日)とあります。言い得て妙とはこのことで重工やそのグループ会社は技術集団であり、ある課題に沿ったモノ作りは上手なのです。

実際、飛行機が作れないわけではありません。例えば少し前に防衛省が日本の次期戦闘機について入札を行ったところ、応札は三菱重工だけ。自動的に同社に落札が決まり、同社との契約に関して岸防衛相は旅客機ができない同社で大丈夫か、という記者の質問に対し「全く影響がないと考えている」とあります。

つまり、スペースジェットの問題はモノづくりではなく、その外側の部分、政治的コネクション、アメリカとの関係改善、旅客機の特性といったソフトの部分の強化が欠落していると思われます。戦闘機のようなガチガチのものは作れるけれど旅客機や客船になるとてんで駄目になってしまうのです。それは見方を変えれば同社が直接的にBtoCこそやっていないけれど製造する商品がBtoCだという認識が完全に欠落しているともいえるのです。

それと私から見れば会社がつまらないのです。どんな野望と将来に向けたモノづくりを目指しているのか、ビジョンが十分に伝わってきません。例えばこれが東大卒ではない辣腕経営者ならソフト系を強化するでしょう。私なら飛行機事業を本気で進めるならカナダのボンバルディアそのものの買収も視野に入れてもよかったのではないかと思います。

カナダのボンバルディアはカナダの三菱重工のような会社ですが、経営不振で企業価値は700億円ぐらいしかありません。株価は円換算で25円ぐらいと笑ってしまうような金額です。こんな会社でもリージョナルジェットと言えば世界で1,2を争う企業なのです。北米なのでノウハウもあるでしょう。事実、スペースジェットの開発責任者は今年の6月までボンバルディア社出身者でした。

日本はモノづくりが上手だといわれています。しかし、何を作るのか、何を目指すのか、その実施設計図はできても意匠を描くことはどうも不得手のようです。いわゆる製造系の大企業にソフトパワーが入れば日本の製造業はまるで化学反応をしたように目覚ましい変化をすると考えています。重工にはその一番最初の会社になってもらいたいと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年11月20日の記事より転載させていただきました。