「Go To」問題の再整理を② たとえばマスクと換気が論点

篠田 英朗

新型コロナ対策本部で「Go To」の一部見直しを表明する菅首相(官邸サイト

『命か経済か』の不毛な論争を超えて~『Go To』問題の再整理を」という文章を書いた翌日の11月21日、菅首相が、「Go Toトラベル」の運用見直しと、「Go Toイート」の見直しの方針を表明した。3連休の初日の夜の表明になったことで、混乱した印象は否めない。ただ、分科会提言をすぐに受け入れた連携については、妥当だったと考えたい。

「Go To」がどれだけ感染を拡大させたのかについては、定かな証拠はない。ただ調査がなされていないし、大々的な調査をする余裕もないので、わからないと言うしかないだろう。

要するに、現実に、止めたい新規陽性者の拡大が続いているので、国家事業で行っている新型コロナ対策の見直しをする、ということだ。それは仕方がないことだと思う。

前回書いたように、「Go To」の趣旨は、新型コロナを忘れて経済至上主義を貫くことではない。「ウィズコロナの時代の新しい生活様式」を普及させることだ。そうだとすれば、新型コロナ対策の観点から事業の改善を図るのは、当然だ。

「Go To」をめぐっては、中止か、一時停止か、時短か、継続か、4人以下か以上か、東京を外すか入れるか、といった、やるかやらないか、あるいはその中間のどこか、といった議論しか見られない。もちろんこうした議論も必要だろうし、確かに調整政策の一部だろう。しかし、ただそれらだけでは、事業の趣旨にそった「新しい生活様式の普及」には必ずしもつながらない。

より具体的に言えば、たとえば、マスクと換気が、課題ではないか。

分科会も政府関係者も、あれほどマスクにこだわっている。これに対して一般には、マスクをしながら食事が楽しめるか、という反発が強い。このままうやむやになる恐れが強いと感じる。

論理的に解釈すれば、飲食店におけるマスク基準の厳格化には、反発が予想されるからこそ、マスクを励行する業者が不利にならないように、国家が「Go To」で後押ししようとしている、と考えるべきだろう。

より厳格なマスク基準を遵守しない顧客には、「Go To」特典を付与しないというルール作りの明確化があっても仕方がないのではないか。

業者側の努力も、現状では不明瞭ではないだろうか。新型コロナ対策で、換気装備を充実させた、複数の窓の開放だけでなく換気扇の位置を明示している、露出形ベンティエールを導入した、といった業者が「Go To」で恩恵を受けて、事業促進を後押しされた、という話を聞かない。

より厳格な換気基準の適用を、「Go To」見直しに連動させるのは、仕方がないのではないか。

日本の新型コロナ対策の最大の弱点は、法制度が十分ではないため、強制力のある措置がとれないためだ。そこで導入された「Go To」は、基準を遵守しない業者を罰するのではなく、基準を遵守した業者に特典を与える、という趣旨だろう。

私個人は、憲法を改正して緊急事態条項を入れることが妥当であり、必要だと考えている。感染症の問題だけをとっても、新型コロナだけで終わる保証はどこにもない。

しかし当面の手段として「Go To」のような政策があるのだとしたら、その見直しの際には、あくまでも事業の趣旨に論理的に沿う形で、検討を進めるしかない、ということだろう。