新型コロナ:我々は今どこにいるのか?ハンマーとダンスから考える

2020年11月23日 17:00

「第三波」の到来に日本が騒然としている。過去10ヵ月の経験から、春先よりは落ち着いた雰囲気がある。他方、「煽り系」の人たちが「よし、出番だ!」と、また躍起になって活動し始めた雰囲気もある。

あらためて、われわれは今どこにいるのか、について落ち着いて考えてみたい。

世間では「第三波」の概念がすでに確立されており、私もそれを踏襲している。ただし「波」は人工的な概念操作によって成立しているものでしかないので、政府のように「波」の定義がないので、「第〇波」であるかどうかは言えない、という立場もとることは可能である。

新型コロナ「波」という概念の「物象化」~オランダに注目

なぜ政府は「第三波」の概念設定を嫌うのか。かつて緊急事態宣言終了時に西村大臣が用いた「ハンマーとダンス」の概念を参照して、考えてみよう。

西村大臣のハンマーとダンスの修正の必要性

「ハンマーとダンス」とは、強い制御策である「ハンマー」を用いる政策や、穏健な抑制策である「ダンス」を踊ったりする対策で、感染拡大の管理をしていく、という考え方である。

西村大臣の説明では、「第一波」を「ハンマー」で制御した後、異なる抑制策での「ダンス」が続いていくことになる。緊急事態宣言中の説明であったという事情もあり、西村大臣は、「ダンス」期間中にはほとんど「波」のようなものがないかのような説明をしていた。

この時の西村大臣の説明は、すでに「第三波」の段階にあるという現在の現状認識と、大きく異なる。西村大臣の説明を杓子定規に捉えると、「第一波」の新規陽性者数を超えた「第二波」「第三波」が来た際には、その都度「ハンマー」を振り下ろさなければならない。そうだとすれば、現在まだ緊急事態宣言を発しない政府の行動は、矛盾したものになる。こう考えると、政府が「ハンマーとダンス」はもちろん、「波」の概念も嫌うのは、当然だろう。

西村大臣の説明で修正すべき点は、明瞭である。ウイルスを根絶することが不可能に近い以上、「波」への対処が完璧であることはない。「第一波」への対処の後、繰り返し感染拡大局面が訪れる可能性があることは、当時から自明であった。「波」は、繰り返し、複数回来る。

ただし、緊急事態宣言を発出するかどうかは、新規陽性者の絶対数だけで決めるものではない。すでに4月の緊急事態宣言の際から、発出の基準は「医療崩壊」の危険性であることが、安倍首相の口から明言されている。

小池東京都知事のハンマーとダンスの修正の必要性

小池東京都知事が、「第二波」の後の9月に、「ハンマーとダンス」の概念を用いて、状況を説明したことがある。5月の西村大臣の説明と異なったのは、明瞭に「波」が複数回繰り返し訪れることを示した点である。

東京都YouTubeより

しかしこの東京都の説明は、「第二波」以降の感染拡大は、対策が進むからだろうか、「第一波」と比してどんどん小さくなるかのような印象を与えるものになっている。これは現実と食い違っている。

小池東京都知事の説明で修正すべき点は、明瞭である。残存する感染者は累積することを考えると、むしろ後続の「波」のほうが大きくなることは大いにありうる。偏見を持たずに状況を分析するべきだ。

ただし、緊急事態宣言の発出は、新規陽性者の絶対数だけで決めるものではないので、「波」の大きさと、用いる「ハンマーとダンス」の手段の選択は、固定的な関係ではない。そのことを、あらためて確認しておけばよい。

死者数・重症者数でみるハンマーとダンス

日本は、2月に旧「専門家会議」が招集されて対策方針が確立されてから、重症者に重点を置く方針がとられているはずである。ただし、メディアではそうなっていない。政府の中でも意思統一が図られていないようにも感じる。

もともと日本のPCR検査は、CT値が高く設定されている(PCR検査が非常に敏感で、無症状者の陽性判定を多く出す傾向を持つ)。同じようにCT値を高く設定している欧米諸国は危機にあり、低めの東アジア諸国は、概して成績が良好だ。敏感に新規陽性者の推移を見るだけなら、敏感なPCR検査でいいのだが、他の指標と合わせてみる冷静な態度がないと、いたずらに「煽り系」の人たちにビジネスチャンスを与えるだけの結果に終わる。

「死亡者数」のグラフを見てみよう。すると、「第一波」が最も高く、「第二波」はそこに到達しないまま終わってしまい、現在の「第三波」もまだ「第一波」の水準にまでは達していないことがわかる。死亡者数の「波」を見ると、「ハンマーとダンス」が異なる形で適用されるべき根拠があることもわかってくる。

ただし、一部の方々が主張したような「弱毒化の結果、人が死ななくなった」かのような様子はない。致死率が下がっただけである。検査数の増加、高齢者・基礎疾患者の社会的防御の進展、対応医療能力の進展などによって、死者数が「抑制」されている、と考えるのが、自然である。

実は重症者数でみると、それぞれの波が同じくらいの大きさに見える。人工呼吸器装着者数を見てみよう。

「第三波」が、「第一波」の水準には達していないものの、「第二波」の水準を超えたことがわかる。その理由が、「第三波」が、それ以前の「波」よりも、高い水準で開始された点にあることも見てとれる。現在まだ進行中の「第三波」が、「第二波」よりも深刻に受け止められているのも妥当だろう。「第二波」の際に落ち着きを失わなかった分科会(旧専門家会議)が、「第三波」にあたっては、政府に対して連続して踏み込んだ提言を出しているのも、理解できる。「第一波のハンマー」以下だとしても、「第二波のダンス」以上の抑制策が求められているのである。

ここ数日で、連日のように「史上最高の感染者数(新規陽性者数)」といった報道がなされている。大きなトレンドで言うと、11月2週目の新規陽性者数の増加率(絶対数ではない)が極めて大きく、3週目は少し抑制された。さらに細かく言うと、11月3週目の前半は週末であったことを加味しても、増加が抑制気味で、連休前の数日において増加が激しかった。 (絶対数ではなく増加率でトレンドを見たい理由については機会を改めて書いてみたい。)

「Go Toキャンペーンの旅行パックにPCR検査が含まれている」場合が多かったため、「自費で検査を受ける人が多くなった結果、無症状の保有者が洗い出されてきた」、その場合の「問題点として、自費検査で陽性になった場合、陽性者は保健所に報告され陽性者数に加えられますが、陰性の場合、その陰性の検査数は全てのPCR検査数に上げられないという不都合が起きてしまい、PCR検査数に対する陽性率は、実際より高い数字になってしまう現象がおきてしまいます」という指摘もなされている。

参照:武田クリニック「コロナ雑感:PCR検査の問題点(11/16)

新規陽性者数の増大は、もちろん良いことではない。しかし他の指標ともあわせ、その時々の状況も加味しながら、冷静に推移を見守っていきたい。

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篠田 英朗
東京外国語大学総合国際学研究院教授

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