安倍晋三氏の窮地:ホテル業務経験からの勘が当たった理由

岡本 裕明

2019年4月の桜を見る会(官邸サイトより編集部引用)

「桜を見る会 前夜祭」に関してホテルニューオータニで開催された費用負担をめぐる疑惑が解明されてきました。安倍氏の第一秘書が一定額は安倍氏側の負担だったことを11月23日に認め、安倍氏に報告したとの報道です。本件は告発を受けて東京地検特捜部も捜査をしており、安倍氏周辺の20名近い人物から聞き取り調査を行っており、当然、特捜も詳細の情報は持ち合わせています。

23日になって安倍氏に報告されたということは特捜の調査が佳境に入り、第一秘書が「詰んだ」とみてよいでしょう。

なぜか報道はあれだけ話題になった案件なのに今一つ大きな扱いではないのですが、今後、大きく動くような気がします。最終的には安倍氏自身の進退を迫られる可能性はあると思います。

私はこのブログで桜の問題が出た際、安倍氏がモリカケでどうにか乗り切った時とは違う嫌な感じを覚えました。19年11月16日付の「今週のつぶやき」では「桜を見る会の攻防がやけに注目され、一部メディアには『安倍総理辞任不可避』なんていう字も躍っていました。たかが5000万円されど5000万円なんです。意識とわきの甘さが問題なのでしょう」と書かせて頂きました。

私はこういう勘はよく当たります。なぜかと言えばモリカケは案件も仕掛けも大きかったのですが、桜問題は身内の小細工でどうにでもなる疑惑であり、そこを突っ込まれたら調べることはさほど難しくなく、それが命取りになることもあると気になっていたからです。

私が安倍首相が一切の資金を提供してないと国会答弁で断言したのに対して疑問はありました。私の当時の想像はニューオータニが首相関係アカウントということで特別大サービスをしたか、あるいは誰かが差額補填していたか、のどちらかであります。

私もホテルの仕事をしていましたので顧客によりあり得ないサービスや価格提示をすることはあるのは知っています。よってあの時、野党やメディアが論じていた一人5000円であの食事はできない、という点についてはその判断基準はフルプライスを常識的に払うベースでの話であり、その線では絶対に押し切れないと思っていました。

ホテルのビジネスとはその日その日に宴会場や客室を埋めてなんぼのビジネスです。翌日にはそのスペースや客室は絶対に戻ってきません。それ故に「八百屋より始末の悪いビジネス」(=ちょっと悪くなった商品を安く売ることすらできない)と言われるのです。従って、スペースが埋まるならフードとスタッフの費用が賄えれば原価で提供することは大いにあり得るのです。

ただ、私の疑問は毎年の行事(ニューオータニでは2015、17、18、19年に開催)なのでホテルがそこまで忖度するかな、という気はしていました。

では補填という発想はどうでしょうか?実は我々ビジネスの世界を含め、飲食代金の補填という発想はあまりにも普通に行われています。会社や団体主催の会合で会費制のものは多いと思います。なぜ会費を取るかと言えば非参加者との公平感を維持するため「なにがしかの参加費を自腹で払ってもらう」という着想なのです。

よってそれはいくらでも構いません。例えば私が東京で年に1-2回参加するある懇親会は3000円で立食パーティ、もちろん飲み放題です。今時、立派なホールでの3000円会費は安いわけで当然、会が差額補填しているはずです。あるいは私たちが毎年行うクリスマスパーティーなども「参加者からいくらまでなら気持ちよく払ってもらえるか」という逆算方式をして差額を負担しています。

桜の件についても安倍氏の支持者に東京までわざわざ出てきてもらうということを考えて社会通念的に支払いに抵抗が少ないと感じる5000円が先にありきだったのでしょう。これはもちろん、今回の報道を見て、「あぁ、やっぱりこっちだったのか?」と思った次第です。

さて、これを受けて安倍氏はどうするか、であります。第一秘書が桜の会の幹事で彼が全部その責任を負い、逮捕、有罪となったとしたら安倍氏の責任問題は当然出てきます。東京地検特捜部が独自に判断を下すのか、空から暗黙の圧力がかかるのか次第ですが、これで「何もありませんでした」は100%ないと思います。しかもトカゲのしっぽ切りではなく、トカゲそのものの生存がかかっています。

私がブログで示した安倍氏の「脇が甘い」というのはこの点なのです。奥さんも放置状態でした。安倍氏は多分「知らなかった」を通すでしょう。首相の身である故、細かいことは全て任していた、というスタンスです。

一方、秘書とどういう会話があったのか、私の秘書時代の経験を踏まえれば「今年の桜を見る会、地元の方からは5000円を徴収するということでいかがでしょうか?」「分かった。任せる。」だったと思います。そこには差額補填という言葉は一つもありませんが、足りない分の調整はうまくやれよ、が内包されています。私の秘書時代もそれが秘書用語として当然の忖度でした。そういう秘書をボスは喜びます。「お前は呑み込みが良くてよい」と。

個人的には安倍氏の栄華はこれで終止符だと思います。一部で菅総理の後をまた考えているのでは、という憶測記事もありましたが「今更、安倍氏、古いねぇ」ということになると思います。

コトの展開に注目です。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年11月25日の記事より転載させていただきました。