バイデン氏の外交と手腕

バイデン氏が閣僚や側近を固め始めました。思い出すのはトランプ政権が成立した際、側近がなかなか決まらず、決まっても次々と辞任、ないし放逐していったことでしょうか?バイデン氏は自身が副大統領時代の付き合いを含めて長い年月をかけて築いた人材を多用している点において安定感は見て取れます。

(2020年11月25日バイデン氏Facebookから:編集部)

(2020年11月25日バイデン氏Facebookから:編集部)

しかし、今のアメリカを一言でいえば「複雑骨折していて回復には時間がかかる」というのが私の見方です。つまり、生命の危機はないけれど元に戻すまでに時間がかかり、そう簡単に目に見えた効果は出ないとみています。

一つは議会の上院の行方ですが、共和党が過半数を取る可能性は非常に高いと思います。1月まで待たねば最終結果はわかりませんが、ジョージア州の未定の2議席について両方とも民主党候補に流れる公算は少ないと思います。そうなれば議会は初めからねじれであります。

実はこのねじれ議会を株式市場ははやし、ダウが3万ドルまで駆け上がった背景があります。バイデン氏の好きにはさせない、つまりビジネス、ひいては株式市場にとってマイナスになるかもしれない様々なプラン、増税や巨大企業の分割論、際限のない財政支出を伴う「大きな政府」化といったことに一定の歯止めがかかるだろうとみているわけです。

ブッシュ(子)政権、オバマ政権、トランプ政権全てにおいて政権発足時は議会がねじれていません。今回はその点からしてかつてとは与件が違い、バイデン色を前面に押し出せず、各種法案がそう簡単に通らない可能性があります。もちろん、大統領令で動かせるものはどんどんやっていくと思います。そのためにはバイデン氏は国際世論を味方につける戦略に出るとみています。

パリ協定やイランとの核合意復帰といった国際社会との協調を通して施策が正しいという論調を作るのは必然の策ともいえます。但し、オバマ政権の時もそうだったのですが、民主党政権は外交、特にアジア政策が下手であります。今回、中国との関係は厳しい姿勢で臨むと論評されていますが、具体的にどう取り組むのでしょうか?アントニー ブリンケン氏を国務長官候補に指名する予定ですが、ブリンケン氏のキャリアでアジア政策の経験は調べる限りあまりないように見受けられます。

個人的にはアメリカは日本にすり寄らざるを得ないとみています。中国も日本にすり寄るはずで日本の立場が問われそうです。対北朝鮮政策は何もなければ案外放置するのではないでしょうか?また韓国とは一定の付き合いをするはずですが、半島情勢案件についてはかなり慎重な対応になり、半島の二つの国家はいら立ちを見せるかもしれません。

さて、財務長官にはジャネット・イエレン氏を指名する予定です。この人選は正解です。一時期噂されたエリザベス・ウォーレン氏など急進派になったらアメリカ崩壊の危機でした。イエレン氏は氏がFRB議長だった間、私はずっと持ち上げてきました。理由は彼女の金融政策は見事なまでバランスが取れ、美しかったからです。グリーンスパン氏のような詩的難解さもなく、バーナンキ氏のような一方向の信者的突っ走り感もなく博識なのに非常にわかりやすい金融政策とプレゼンテーションをします。特に大きな政府を目指すであろう民主党政権に対して財務の健全性からパウエルFRB議長との連係プレイを含めて確実に踏み外すことなく業務をこなすとみています。

その中で注目されるのはアメリカの威信を回復し、ドル政策で強いドルを再び描くことができるか、であります。日経ビジネスに「欧州の知の巨人」、ジャック アタリ氏のインタビュー記事が掲載されていますが、アタリ氏がアメリカは内向的になると予想しています。バイデン氏がどれだけ国際協調を通じたアメリカの地位の再構築を目指したとしても容易ではなく、内政に翻弄されるだろうとみているようです。そうなれば強いドルは期待しにくく、イエレン氏の手腕はドル防衛という攻めより守りの展開となりそうな気がします。

私は11月7日の「今週のつぶやき」でアメリカの行方について「決められない、踏み込めない、進められないアメリカ」になると申し上げました。アメリカは歳をとったと思います。政権のリーダーたちが高齢者ばかりです。それはどんな社会かと言えば「民主という名の保守」ではないかと思うのです。これについては近いうちに私が俯瞰する社会の変貌について書かせて頂く際に説明しようと思います。だからこそ、バイデン政権は初めの1-2年はいいぞ、と思わせるのですが、そのうち、あれ、そんなはずではないということに気が付く形になると予想しているのです。

キーポイントはバラバラ感が強いアメリカをひとまとめにするのは尋常な作業ではなく、思い描くようなプラン通りにコトが展開できるか、その手腕が試されるということではないかと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年11月26日の記事より転載させていただきました。