急速に進みだした日本のM&A

岡本 裕明

日本はアメリカに比べM&Aよりも新規上場が多く、上場企業が増えているという話題を1-2カ月ほど前に述べましたが、たまたまなのでしょうけれど、その後、知名度の高い企業のM&Aのニュースが急増しています。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

増えている原因の一つにはコロナで企業間、産業間の体力に差が生じており、体力がある業界が消耗度の激しい企業を安値で買い取ったり、買収しやすい環境下も影響していると察しています。それ故、以前の同業他社がマーケットシェアを増やすために買収するという従来の形から異業種参入でビジネスの幅を広げるという形や弱肉強食的な業界再編も増えてきたように感じます。

この何か月かに聞こえてきた比較的知名度の高い日本企業のM&Aのごく一例です。

NTTとNTTドコモ、これは金額的に日本国内M&Aでは本年度最大になる見込み。
セブンイレブンによるアメリカ スピードウェイ社買収
シンガポールのニプシーによる日本ペイント買収
三菱UFJリースによる日立キャピタル吸収買収
ニトリによる島忠買収
三井住友リースによるケネディックスTOB
新来島どっく、サノヤスの造船部門買収

そして本日のニュースには
ニフティがディノス セシール買収へ
三井不動産が東京ドームTOBへ

と2つ、報じられています。

特にニフティのディノス セシール買収のケースは売り手側も買い手側も合併や売買を繰り返してもともとの姿がほとんど分からなくなっています。ニフティは当初、富士通の子会社でしたが家電量販のコジマが買収したものだし、ディノス セシールは2013年に3つの会社が合併してできた通販会社です。ニフティとセシールの組み合わせがさっぱりイメージできないのですが、異業種というか、異形の組み合わせということになるのでしょう。

一方、三井不動産の東京ドームTOBは三井不動産が東京ドームのホワイトナイトになるようです。もともと東京Dは香港系のファンドが大株主で社長解任を訴えており、揉めていたため、東京Dが救いを求めたということかと思います。

基本的にはM&Aは企業の経営効率が上がりますので有効な手段であることは再三申し上げてきました。特に日本の企業形態の特筆としてファミリー企業やサル山会社(おらが会社)的な中小企業軍団化が目立ちます。日本の企業数421万社のうち99.7%が中小企業(資本金ないし従業員数で定義)とされています。その中小企業は6割強が法人税を納めていません。もちろん、家族経営で法人税の代わりに身内への報酬を増やし、税金を払わないケースもあると思いますが、健全でないことは確かです。

M&Aの強化は企業が健全な法人税を納付し、政府の財務健全化を助けるという点、あるいは少子化で経営適任者が今後、激減していくと予想される中でマネージメント強化という点もあります。私の肌感覚で見れば日本の企業数も上場会社数も今の半分以下で十分だと思っています。

例に挙げた上記リストを見ても苦しい業界の再編が多くみられるほか、NTTは6G時代に向けた積極攻勢をすべく戦略など5年後、10年後を見据えた買収、合併が多くなってきています。造船やリース業界も目立ちますが、来年は地銀や金融関係の再編、そして自動車関連も再編がいよいよ本格化するとみています。新生銀行はノンバンクで上場している子会社のアプラスを完全子会社化することを発表、アプラスは上場廃止となりました。これも経営効率向上の一環でしょう。

ニフティのディノス セシールに買収に絡み、ニフティの親会社のコジマが持つスルガ銀行とのビジネス関係の強化といった面も面白い切り口になるかもしれません。また、金融持ち株会社のSBI(Soft Bank Investmentの略だったが、今はStrategic Business Innovatorの略に変わったそうです。知らなかった!)が地銀との資本提携を着々と進めており、現在7行まで増やしており、当面10行まで増やすとしています。金融業界の再編と言えば金融庁が主導していたかつてとはまるで違い、民間企業が形を変えて束ねていくことが増えてきています。

私はこれらについて「木」の形をイメージしています。太い幹が本業、それに関連した様々な事業をどんどん買収し、枝葉を付けていく感じです。枝葉が木の幹の成長に役に立たなければバッサリ切られ、そこからは新たな枝葉が生まれるということでしょうか?木は長い年月をかけて年輪を増やし、太くたくましくなっていくわけで日本企業群がこのような形で強化されていくことは日本の経営環境にとっては明るいニュースではないかと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年11月27日の記事より転載させていただきました。