中国が台湾制圧に近づく分だけ、米国は「一つの中国」から遠ざかる

2020年12月01日 06:00

avdeev007/iStock

トランプ政権下で閣僚の訪台にまでに深化した米台関係が今後どうなるか、総統府や台湾人はハラハラしながら米大統領選後の動きを見守っていることだろう。そこで本稿ではポンペオ国長官が11月12日、テレビショーで「台湾は中国の一部ではない」と述べたことの意味を考えてみたい。

そのヒュー・ヒューイット・ショーのやり取りの全文が米国務省の公式サイトに載っており、件の発言は次のように書かれている。

-Taiwan has not been a part of China, and that was recognized with the work that the Reagan administration did to lay out the policies that the United States has adhered to now for three and a half decades, and done so under both administrations.(台湾は中国の一部ではなく、それはレーガン政権が、米国が35年間固守してきた政策を展開するために行った取り組みと共に認識され、そして両党政権の下で(*超党派の意)そうして来た)拙訳-

これを翌日の環球時報は社説「『クレイジー』なトランプの動き」と書いて、共同文書には中華人民共和国は中国の唯一の合法的な政府で、両岸は一つの中国に属しているとあり、米国務長官が「台湾は中国の一部ではない」と言うことは、過去には想像もできなかったとしている。

同紙はまた、中国が警戒すべきことは、トランプ政権が最後の数週間に冒険的な行動、特に軍事的挑発と台湾への外交的動きをとる可能性であり、米国が悪意のある挑発を行ったなら、中国は断固として反撃しなければならないと書いている。

むしろ国際社会は中国が米国の混乱に乗じて台湾の軍事的統一の挙に出はしまいか、と警戒していると筆者は思うが、中国はトランプ政権が最後に何かしてくると本心から考えている節もある。過去の台湾海峡危機に見るように、こと軍事が関係する対米行動に実は中国は極めて臆病だ。

中国が目下、過剰と思われるほど台湾問題で米国を警戒する理由がこのポンペオ発言の他にもある。それはこの8月末、駐台湾米大使館に相当する米国在台協会台北事務所(AIT)が、82年の「八・一七コミュニケ」と「六つの保証」に関する国務省の機密電報を公式サイトに掲載したことだ。

「八・一七コミュニケ」とは、72年2月のニクソンの「上海コミュニケ」、79年1月のカーターの「国交樹立コミュニケ」に続くレーガンと中国の共同声明で、前二つの合意内容を再確認し、中国による「台湾の平和統一」政策に鑑みて、米国は「二つの中国」を追求せず、武器売却を漸減させるというもの。

ニクソンとカーターのこの対中政策はキッシンジャーとブレジンスキーというグローバリストのユダヤ系学者を補佐官として進められ、米国は共産中国が民主化に向かうと信じていたとされる。だが今や世界が共産中国の脅威に晒されている。両補佐官はそのことを予期していたのではあるまいか。

一方の「六つの保証」とは「八・一七コミュニケ」の内容を、米政権へのロビー活動を通じて察知した台湾が強く要望し、レーガン政権がそれに合意してシュルツ国務長官からAITのリリー所長に82年8月17日に通知された以下の6項目を指す。この結果、「八・一七コミュニケ」は成立を見た。

  • 米国は台湾への武器販売を終了する日付を設定しない
  • 米国は台湾関係法の改正をしない
  • 米国は台湾への武器販売について中国と協議しない
  • 米国は台北と北京の間の仲介役をしない
  • 米国は台湾の主権に対する立場を変更しない
  • 米国は台湾に中国との交渉を開始するよう圧力をかけない

(AITサイトより)

「八・一七コミュニケ」の内容は19年8月30日に明らかにされていたが、台湾外交部は、米国が今回改めてAITのサイトに両文書を公開したことには、米国が中国に「八・一七コミュニケ」の誤った解釈(すなわち平和的解決の放棄)をしないよう、釘を刺す目的があるとしている。

実は82年8月17日には「六つの保証」と「八・一七コミュニケ」の他に、「レーガン覚書」なる大統領令が出されている。「台湾の政治」(東京大学出版会)で若林正丈が「台湾関係法」や「八・一七コミュニケ」の「失策の影響を食い止める」ものと位置付けた同覚書の内容とは以下のようだ。

-八・一七コミュニケの署名は、武器売却の削減は台湾問題の平和的解決を目指すという中国政府の「基本方針」が継続されるかどうかで決まる。つまり、削減には中国が台湾との相違を平和的に解決すると確約していることが絶対条件である。台湾に供給される武器の質と量は、全て中国による脅威に応じて決定される。台湾の防衛能力は、質と量の両面において、中国の防衛能力に応じて維持されることになる。(「本当に中国は一つなのか」(草思社)から要約)-

若林のいう「失策」とは「八・一七コミュニケ」が武器売却の削減を前提にしていたことや全般的なその曖昧さを指すようだ。そこを「レーガン覚書」は、武器売却の質と量は中国の台湾に対する脅威次第、という具合に同コミュニケの実質的な修正を図って、中国側にボールを投げ渡した。

その意味でポンペオの「台湾は中国の一部ではない」も、ここ一両年明らかに強硬になった習近平の台湾政策に応じたものだ。振り返れば習が昨年1月、「台湾同胞に告げる書」で台湾に「一国二制度」を強要、「武力行使をも放棄しない」と述べ、蔡英文圧勝の一因になったことが先ずある。

今年に入り4月、中国が台湾海峡で空母遼寧など5隻が軍事訓練を行うと、蔡総統は5月の二期目の就任式で「一国二制度」を改めて断固拒否した。すると中国は6月からスホイ30戦闘機を連日、台湾防衛識別圏に侵入させ始め、これをポンペオは「完全に違法」と非難した。

中国軍は8月に東シナ海で大型実弾射撃訓練を実施、26日には南シナ海に中距離弾道ミサイルを発射した。AITの公式サイトに「八・一七コミュニケ」と「六つの保証」に関する国務省の機密電報を掲載したのがこの直後の8月末だったことは、これが米国による中国への牽制だったことを物語る。

だが9月に入っても、中国は黄海で実弾射撃訓練を行い、戦闘機による海峡中間線突破を日常化させた。習近平の暴走はそれにとどまらず、10月13日には広東省で人民解放軍の「水陸両面作戦の精鋭部隊」ある海軍陸戦隊を視察し、「戦争の備え」に全力を注ぐよう指示したのだ。

「水陸両面作戦の精鋭部隊」が台湾制圧を任務にしていることは明白だろう。これに対抗するように米国が台湾に売却を計画している武器には、移動式ロケット砲システム、空対地ミサイル、F-16戦闘機用のデータセンサー、ドローンや沿岸防衛ミサイルシステムが含まれるとされる。

そして11月12日、ポンペオ国長官は「台湾は中国の一部ではない」と述べた。従来の「曖昧戦略」を捨てたのだ。50年1月にアチソン国務長官が、米国が軍事侵略に反撃するラインに朝鮮半島を含まなかった曖昧さが、朝鮮戦争を招いた轍は二度と踏まないという決意の表れに相違なかろう。

このポンペオ発言は、1950年、日本・沖縄・フィリピン・アリューシャン列島に対する軍事侵略に米国は断固として反撃するとした「アチソンライン(不後退防衛線)」発言と同様、歴史に残ることになるように思う。

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