米11月雇用統計、感染者数最多受け就労者数は大幅鈍化

米11用統計・非農業部門就労者数(NFP)は前月比24.5万人増となり、市場予想の43.0万人増を下回った。新型コロナウイルス感染者数が過去最多を更新し、全米の大半の州で規制が再度強化された結果、回復期で最も小幅な伸びにとどまる。

レストランを始め年末商戦の臨時雇用が大幅鈍化した。前月の61.0万人増(63.8万人増から下方修正)を大きく下回ったとはいえ、7ヵ月連続で増加し、これで約1,230万人を回復したことになる。3~4月の記録的な減少(2,216万人)を回復するにはあと856万人必要だ。

(Russ Allison Loar/Flickr)

Russ Allison Loar/Flickr)

チャート:コロナ禍で失った雇用を取り戻すには、あと856万人増加する必要あり(作成:My Big Apple NY)

チャート:コロナ禍で失った雇用を取り戻すには、あと856万人増加する必要あり(作成:My Big Apple NY)

9月分の3.9万人の上方修正(67.2万人増→71.1万人増)と合わせ、過去2ヵ月分では合計で1.1万人の上方修正となった。9~11月の3ヵ月平均は52.2万人増となり、コロナ禍を受けた大幅減から回復をたどるなかで、2019年平均の17.5万人増を大幅に上回った。

NFPの内訳をみると、民間就労者数は前月比34.4万人増と市場予想の56.0万人増を下回った。前月の87.7万人増(90.6万人増から下方修正)から大幅に減速しつつも、増加傾向を維持。民間サービス業は28.9万人増となり、前月の77.0万人増(78.3万人増から上方修正)を大きく下回った。

チャート:NFP、失業率ともに7ヵ月連続で改善も、回復ペースに陰り(作成:My Big Apple NY)

チャート:NFP、失業率ともに7ヵ月連続で改善も、回復ペースに陰り(作成:My Big Apple NY)

サービス部門のセクター別動向は、就労者数の伸びこそ急速に鈍化したが、11業種中8種が増加し前月と変わらず。9~10月に続き国勢調査の臨時雇用が剥落し政府が大幅に減少した。今回1位は年末商戦を控え輸送・倉庫、続いて専門サービス、教育となった。コロナ感染者の急増を受け、年末商戦を前に増加傾向が強い娯楽・宿泊は小幅な伸びにとどまり、小売に至っては4月以来、7ヵ月ぶりに減少に転じた。

(サービスの主な内訳)

―増加した業種

・輸送/倉庫14.5万人増、6ヵ月連続で増加>前月は6.2万人増、6ヵ月平均は7.9万人増
・専門サービス 6.0万人増、7ヵ月連続で増加<前月は23.1万人増、6ヵ月平均は17.9万人増(そのうち、派遣は3.2万人増<前月は12.3万人増、6ヵ月平均は9.2万人増)
・教育・健康 5.4万人増、7ヵ月連続で増加<前月は6.2万人増、6ヵ月平均は19.0万人増
(そのうち、ヘルスケア・社会福祉は6.0万人増<前月は9.1万人増、6ヵ月平均は17.4万人増)

・娯楽・宿泊 3.1万人増、7ヵ月連続で増加<前月は27.0人増、6ヵ月平均は57.7万人増(そのうち食品サービスは1.7万人減<前月は19.2万人増、6ヵ月平均は41.7万人増)
・金融 1.5万人増、7ヵ月連続で増加<前月は3.0万人増、6ヵ月平均は2.4万人増
・卸売 1.0万人増、過去7カ月間で6回目の増加>前月は0.5万人増、6ヵ月平均は1.5万人増

・その他サービス 0.7万人増、7ヵ月連続で増加>前月は0.5万人増、6ヵ月平均は15.0万人増
・情報 0.1万人増>前月は2.8万人減と3ヵ月ぶりに減少、6ヵ月平均は0.8万人増

・公益 横ばい>前月は0.1万人減と減少に反転、6ヵ月平均は横ばい

―減少した業種

・小売 3.5万人減、7ヵ月ぶりに減少<前月は9.5万人増、6ヵ月平均は24.1万人増
・政府 9.9万人減、3ヵ月連続で減少>前月は26.7万人減、6ヵ月平均は2.8万人増

財生産業は前月比5.5万人増と、前月の10.7万人増(修正値)から伸びを半減させたが、7ヵ月連続で増加した。経済活動の再開に伴い、7カ月連続で製造業と建設が改善したと同時に、油価が40ドル前後で安定するなか鉱業も3ヵ月連続で増加した。詳細は、以下の通り。

(財生産業の内訳)

・建設 2.7万人増、7ヵ月連続で増加<前月は7.2万人増、6ヵ月平均は5.8万人増
・製造業 2.7万人増、7ヵ月連続で増加<前月は3.3万人増、6ヵ月平均は8.7万人増
・鉱業・伐採 0.1万人増、3ヵ月連続で増加(石油・ガス採掘は500人増)<前月は0.2万人増、6ヵ月平均は0.2万人減

チャート:どの業種もコロナ前の回復に至らず(作成:My Big Apple NY)

チャート:どの業種もコロナ前の回復に至らず(作成:My Big Apple NY)

平均時給は前月比0.3%上昇の29.58ドル(約3,080円)と、市場予想の0.1%を上回った。前月の0.1%を含め、5ヵ月連続で上昇している。前年比は4.4%上昇し市場予想の4.2%を超えた。前月の4.4%(4.5%から下方修正)と変わらず、高い水準を保ち前年比の3%超えは28ヵ月連続となる。ただし、これは低賃金職の減少を受けた統計上の伸びに過ぎない。

チャート:平均時給は前年比で4月をピークに鈍化しつつ高水準を維持(作成:My Big Apple NY)

チャート:平均時給は前年比で4月をピークに鈍化しつつ高水準を維持(作成:My Big Apple NY)

週当たりの平均労働時間は34.8時間と9~10月と変わらず、市場予想とも一致した。結果、統計が開始した2006年以来で最長を保つ。財部門(製造業、鉱業、建設)の平均労働時間は39.9時間と、3月以来の水準へ切り返した前月の40.0時間に届かなかった。全体の労働者の約7割を占める民間サービスも33.7時間と、今年5月に続き少なくとも2006年以降で過去最長だった前月の33.8時間を下回った。

失業率は6.7%と市場予想の6.8%並びに前月の6.8%を下回り、3月以来の水準となった。過去最悪だった4月の14.7%でピークアウトを示す。ただ労働統計局によれば、引き続き「雇用されているが休職中」の人の扱い依然として正確に反映されず、これを除くと失業率は約7.1%だったという。失業者は前月比32.6万人減の1,074万人だったが、就労者は同7.4万人減の1億4,973人と7ヵ月ぶりに減少した。

失業率の低下は、労働参加率が61.5%と前月の61.7%から低下したことが大きい。コロナ禍を受け1973年1月以来の低水準だった4月の60.2%上回る水準を維持したとはいえ、伸び悩みを示す。就業率は過去最低だった4月の51.3%から上昇を続けてきたが、今回は57.3%と7ヵ月ぶりに低下した。

フルタイムとパートタイム動向を季節調整済みでみると、フルタイムは前月比で0.6%増の1億2,435万人、前月から75.2万人増加した。しかし、パートタイムは年末商戦向け臨時雇用がコロナ禍で打撃を受けた結果、同3.0%減の2,548万人となり、前月から77.9万人減少した。

総労働投入時間(民間雇用者数×週平均労働時間)は民間雇用者数が前月の伸びが大幅鈍化したとはいえ増加が続き、平均労働時間も前月通りのなか、前月比0.3%増と7ヵ月連続でプラスとなった。平均時給は前月比で小幅ながら4ヵ月連続で上昇したほか雇用増が支え、労働所得(総労働投入時間×時間当たり賃金)は前月比0.6%増と、こちらも7ヵ月連続で増加した。

かつてイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長のダッシュボードに含まれ、「労働市場のたるみ」として挙げた1)不完全失業率(フルタイム勤務を望むもののパートタイムを余儀なくされている人々、縁辺労働者、職探しを諦めた者など)、2)賃金の伸び、3)失業者に占める高い長期失業者の割合、4)労働参加率――の項目別採点票は、以下の通り。

1)不完全失業率 採点-△
経済的要因でパートタイム労働を余儀なくされている者や働く意思を持つ者などを含む不完全失業率は12.0%と、前月の12.1%から小幅改善し3月以来の低水準だった。ただし、経済的理由でパートタイムを余儀なくされている労働者は前月比2.3%減の666.0万人と7カ月ぶりに減少した。年末商戦に向けた臨時雇用の増加ペースが、感染者数の増加で鈍化した影響とみられる。

チャート:不完全失業率、労働参加率、就業率はそろって改善傾向を維持(作成:My Big Apple NY)

チャート:不完全失業率、労働参加率、就業率はそろって改善傾向を維持(作成:My Big Apple NY)

2)長期失業者 採点-△
失業者とは、①失職中、②過去4週間に職探しを行なった、③現在、勤務が可能――の3条件を満たす必要がある。失業期間の平均は23.2週と、前月の21.2週を超えコロナ禍以前の1月以来の高水準となった。失業期間の中央値は逆に18.8週と、2012年10月以来の水準へ延びた前月の19.3週を下回った。27週以上にわたる失業者の割合は36.9%と、前月の32.5%を超え、2014年7月以来の水準をつけた。失業保険拡充の期限切れなどを背景に感染拡大中に労働市場から退出した潜在労働者が市場に戻ってきたことを示すが、吸収できるかが課題となる。

3)賃金 採点-〇

今回は前月比0.3%上昇し、前月の0.1%を含め5ヵ月連続で上昇した。前年比は4.4%上昇し、前年比で3%超えは27ヵ月連続。生産労働者・非管理職(民間就労者の約8割)の平均時給は前月比で0.3%上昇の24.87ドル。前年比では4.5%上昇し、前年比は管理職を含めた全体を上回った。ただし、低賃金職の減速により、かさ上げされた結果だ。

4)労働参加率 採点-×
労働参加率は61.5%と前月の61.7%を下回った。1973年1月以来の低水準だった4月の60.2%を上回った水準を保つ。なお、金融危機以前の水準は66%オーバーだった。

――今回、国勢調査の臨時雇用が減少したほか、年末商戦に向けの雇用が娯楽・宿泊で鈍化し、小売に至っては7ヵ月ぶりに減少したことが響きました。全ては、過去最多を更新したコロナ感染者数と死者数の増加が背景。全米でも大半の州で規制が再強化され、カリフォルニア州では必要不可欠な業種以外は午後10時から午前5時までは営業停止が言い渡されました。さらに、同州では12月3日に一部地域で外出禁止を命じています。

チャート:新規感染者数(作成:My Big Apple NY)

チャート:新規感染者数(作成:My Big Apple NY)

チャート:入院者数(作成:My Big Apple NY)

チャート:入院者数(作成:My Big Apple NY)

こうした状況が規制対象となるサービス業を直撃した結果、今働きたい非労働人口も11月は前月比6.4%増加し713.6万人と、4ヵ月ぶりの水準へ戻しました。労働参加率が11月に0.2ポイント低下したのは、彼らの労働市場からの退出が影響したと考えられます。同時に平均賃金の上昇は低賃金職が減少したことによる統計マジックが、再び発動したと言えます。

医療崩壊の危機に迫られるなど切迫した状況下、在宅勤務の割合もコロナ感染者増加を受け21.8%と、前月の21.2%を上回りました。米国在住のエコノミストからは「回復シナリオはV字型からK字型へシフトしつつある」、「追加経済対策なしでは1~3月期にマイナス成長」との懸念も聞かれ、今回の結果が“炭鉱のカナリア”となるリスクをはらみます。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2020年12月4日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。