民主主義2.0に向けて

国家主導とか強い経営指導力という言葉は時折耳にすると思います。国家主導と言えば中国がその筆頭かもしれません。強い経営指導力とはその発信力や情熱から日本電産の永守重信氏や孫正義、柳井正各氏に代表されるカリスマ経営者が思い起こされます。

一方、ボトムアップとは合議制を前提としています。国策の決定では企業や国民の陳情を受けた担当省庁が法制化に動くといったイメージがあります。企業経営では大企業を中心としたフラットな取締役会と称される「決定機関の民主化」で重要決議も多数決で決めるなんて言うこともあるのでしょう。

どちらが良いのでしょうか?

私はボトムアップ型国家として日本だけでなく、最近はアメリカでその傾向が強まったとみています。日本とアメリカの特徴、それは決められないあるいは決めても非常に揉める傾向があるのではないか、とみています。政府の判断、発言が二転三転し、国民が振り回されるイメージです。

日本の内閣は企業の取締役会と同じようなものでしょう。企業では各取締役に知恵をインプットするのは部長クラス。これが国家の場合は各省の官僚が大臣と決めごとを進めるのであります。そのトップに立つ日本のかつての総理大臣は癖が強い人が多かったと思います。

戦後の人気首相1位の吉田茂氏にしても小学校しか出てない宰相、田中角栄氏にしても剛腕であり、その評価はともあれ、向かうべき方向をしっかり持ち、力づくの国家運営でありました。人気2位の池田隼人氏は所得倍増論という明白な目標を提示、爆走機関車のごとく国家が一丸となって走り抜けました。

最近、民主主義というテーマが改めてフォーカスされたのは二分化されたアメリカがその発信源でありました。なぜ、二分化したかといえば富の不平等な分配が背景であることは確かです。ただ、それだけではありません。不公平と言いながらも一定水準の生活基盤があるが故の個の自立と社会参加意識が社会への不満につながります。それをSNSで拡散しやすくなったというアシストがあったわけです。ではアメリカの場合、近年の大統領の指導力が劣化したか、と言えばそんなことはないのですが、国家が裕福になり、国民のベクトルがばらけてしまったのだと考えています。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

今まで国家の成長といえばGDPや一人当たりの国民所得といった経済成長力を基準にしていたと思います。しかし、我々は国民の思想の成長が同時に進んでいることを学問的におざなりにした可能性があります。国家が成長過程にある場合、国民と政府との対立軸が形成されやすくなります。ベラルーシ、タイ、あるいは韓国のデモなどは国民が一塊となって一対一の抗争を形成します。日本の場合は60年代に既にそれを終えており、次のステージ、「個の時代」に30年も前に突入しています。アメリカの民主党内部も今や対立軸は一対一ではなく、数多い対立軸が複雑に絡み合い全体の最適解が作れなくなっています。

個の時代は発信者が個人であり、それに賛同者が現れ、市民の中から突如、スポットライトが当たることもあります。これは小さなバブル(泡)が国家の中に無数に生じている状態であり、国家の指導者がこのベクトルを一方向にもっていこうとしても多極化し、困難になる傾向が強まってしまいます。

これが今の日本とアメリカの抱えている問題であります。つまり、メディアは二極化とか二分化と指摘しますが、よく見ると多極化、分散化なのです。これは国家運営だけではなく、企業運営も今後、極めて難しい局面を迎えると予言します。例えば巨大企業を中心に従業員による経営者訴訟が無数に起きるような社会です。我々の現代社会の発展形の先にはそれが当たり前のようにそびえていると言ってよいでしょう。

最近、中国のみならず、韓国の躍進が確実に認識されるようになりました。日本が得意としていた部品や基礎研究も侮れなくなっており、ITリテラシーが高い同国では国家が一気に変質化していく様子がうかがえます。韓国の場合は儒教の精神でトップダウン的なところがまだまだ強いからでしょう。中国に於いては言わずもがな、であります。

なぜ、日本はかつての成長力を失ったか、なぜ、アメリカは世界の警官ではなくなったのか、その本質はこの辺りにヒントがあるのではないかと考えています。では日本もアメリカも成長できないのか、と言えば成長の基準が変わったのではないかと思うのです。経済成長力や富ばかりではありません。より高度化した人間生活を営み、個々にとり、最適で心地よい幸福を求めるのではないかとみています。社会主義でもない、民主主義でもない新しい社会を私は想像しています。漠としていますが、言わんとする意味はお分かりいただけるのではないかと思います。これが2021年以降の新たな議論の中心となる気がします。民主主義2.0とでも称しておきましょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年12月7日の記事より転載させていただきました。