北海道のコロナ対応で浮き彫りになった行政の災害対応の限界 --- 古本 尚樹

寄稿

私は研究者(博士【医学】)として、新型コロナウイルス感染症を含めた災害医療や防災について調査・研究をしてきた。現在は札幌市在住で、その札幌また出身地である旭川市が、いわゆるクラスター化により大きな影響を受けている現実について、地元の研究者として論じたい。

北海道では、最大都市札幌での感染者増大に加えて、人口規模で北海道第2の都市である旭川でも、特に医療機関等におけるクラスター化が深刻だ。

いわゆるGo Toの影響が示唆されていたり、飲食店や国民の「緩み」などの要因が指摘されてはいる。だが、もともとこのウイルスに関しては、季節性があること、また湿度が低い乾燥期間に入ることでの感染拡大の可能性は、指摘されてきた部分でもある。こうした要因は北海道では顕著だし、家庭内感染が広まっているとの指摘も、早くから暖房を使用し換気が行き届いていないという環境も少なからず影響しているのだろう。

札幌は道内の観光の中心である。また人口190万人を超える中で、普段から人の移動は激しく、そこにGo To が拍車をかけたのは納得できる部分がある。

一方、旭川市でなぜ感染拡大、むしろ感染爆発に近い状況になってきたのか。医療機関内がクラスター化したが、問題はむしろ、旭川市や北海道等の関係機関における災害時対応が後手に回ったことではないだろうか。

これは、北海道を含め道内の各自治体が災害対応に不慣れなことが影響していると思う。幸いにも北海道はこれまで大規模災害に見舞われる機会は少なかった。九州などでは水害の発生が頻発しているが、北海道では、2年前の胆振東部地震くらいが比較的大きな犠牲の出た災害である。

かつて、神戸にある人と防災未来センターに勤務していた2015年9月、関東・東北豪雨が発生し、茨城県常総市などで大きな被害が出た。その時に同センターからも支援が出たが、被災自治体における災害対応や被災者支援の経験値の差を痛感したのを思い出した。今回の北海道の対応には、それと似た部分がある。

災害は発生しないほうがよいに決まっている。しかし、災害対応において、これまでの知見や経験は、スキルアップのために重要な部分であることは間違いない。北海道のコロナ禍においても、深刻さの状況が関係機関で共有されていたか疑問である。この先例は札幌市の高齢者介護施設アカシアハイツの案件で、札幌市と施設の関係で同様のケースがあったと思うが、それを旭川市で「対岸の火事」のように見てはいなかったか?

また、旭川市の高規格医療機関は稚内に至るまでの広範囲な道内北部一帯をカバーする地域医療の拠点で、普段からマンパワーと需要の患者数の数は不均衡である。冬期間にはマイナス30度を下回ることもしばしばで、かつ(特別)豪雪地帯でもある。大学病院などでは遠隔治療なども行い、地理的なハンディキャップを克服するのに工夫もしている。

今回の新型コロナのクラスター化はただでさえマンパワーが足りないのに、医療従事者の関係者を減らすことにつながり、対応できないのは当然だろう。予見能力と行政間、また医療機関と自治体で、現状や事態の深刻さを共有できているか。依然とした縦割り行政の弊害が、今回の危機管理対応に垣間見える。

現在進行中の感染拡大、むしろ感染爆発に近い状態に、ついに自衛隊の災害派遣がされたが、医療従事者へのメンタル面を含めたサポートがないのは課題だろう。大規模災害被災地職員の負荷研究で、長期的に休職や罹患する傾向があることが分かっている。政府としても二次、三次のサポートが必要なのだが、なかなかここまでセーフティネットが機能しない、機能させないのが、我が国の危機管理の課題である。

古本 尚樹  防災・危機管理アドバイザー・博士【医学】
防災・危機管理アドバイサーとして、新型コロナウイルス対策や危機管理のコンサルを行っている。