メディアの「コロナ禍と米大統領選」

ウィーンに事務局を置く国際新聞編集者協会(IPI)からニュースが送られてきた。「新型コロナウイルス禍のジャーナリズム」というタイトルで、新型コロナのパンデミック下での「言論の自由」の動向に関するものだ。IPIは報道の保護と促進を目的に1958年に設立された世界的組織で、現在120カ国以上が参与している。

▲ドイツのライプツィヒ市のコロナ規制反対デモ(2020年11月7日、IPI公式サイトから)

▲ドイツのライプツィヒ市のコロナ規制反対デモ(2020年11月7日、IPI公式サイトから)

新型コロナ感染に関する報道活動からどのような点が明らかになったか。

①政府機関は言論の自由と国民の健康安全の重要性にも関わらず、パンデミックをカバーする独立メディアの報道を抑圧しようと試みてきた。

②少なくとも17カ国がデス・インフォ―メーションをストップさせるための「フェイク・ニュース防止法」を採択した。

③アンチ・コロナ規制運動を報道するジャーナリストへの物理的攻撃が増加、欧州では9月から11月にかけ58件が報じられている。

④ロックダウン(都市封鎖)と社会的ディスタンスに関する規則は、政府に特定のメディアの報道活動、情報収集を制止させる内容が含めれている。

などの4点を列挙している。

例えば、「コロナ関連報道での言論の自由の蹂躙」を地域別にみると、報道関係者が拘束、告訴された件数では、アジア・太平洋地域(A)で91件と最も多く、アフリカ(B)39件、欧州(C)35件、MENA=中東北アフリカ(D)12件、そして米大陸(E)8件となっている。

コロナ関連情報へのアクセス制限では、A29件、B5件、C10件、D4件、E8件だ。検閲では、A10件、B3件、C31件、D9件、E4件で、ここでは欧州が飛びぬけて多い。ジャーナリストへの言葉ないしは物理的な攻撃件数では、AとBが各29件、C26件、E16件だ。

「フェイク・ニュース規則法を採決した国」は、アルジェリア、アゼルバイジャン、ボリビア、ボスニア、ブラジル、カンボジア、ハンガリー、ヨルダン、フィリピン、プエルトリコ、ルーマニア、ロシア、タジキスタン、タイ、アラブ首長国連邦(UAE)、ウズベキスタン、ベトナムの17カ国だ。欧米先進諸国はここには含まれていない。

欧州では今年に入り新型コロナの感染が拡大し、特に、イタリアの北部ロンバルディア州では多くの感染者、死者が出たが、イタリア国民は新型コロナ感染に関するメディアの報道について「信頼を失っている」という調査結果が出ている。ロイター通信の調査によると、「報道」を信じているのは29%に過ぎないという。新型コロナの感染状況に関するデータ、情報が十分でないばかりか、フェイクニュースや憶測記事が多いことがその主因と受け取られている。

イタリアの同業者を弁明する気はないが、新型コロナ感染問題での報道は、政治家ばかりか、感染症専門家の間でも、その対応と評価、予測が異なる状況下で、客観的な報道、正しい報道はジャーナリストにとっても非常に難しいテーマだ。

新型コロナ規制に反対する抗議デモが欧州各地で見られ、それを報道するメディア関係者が警察隊から暴力を振るわれるといった不祥事が多発している。スロベニアの首都リュブリャナで1人のカメラマンが抗議デモを取材中、何者かに殴打され意識不明となって病院に運ばれるという事故が起きた。IPIによると、9月以来、ドイツ、イタリア、スロベニア、オーストリア、ポルトガルなどの各地でメディア関係者が取材中に被害を受けている。その件数は58件になる。

問題は、新型コロナ規制に抗議するデモにはアンチ・マスク、アンチ・コロナ規制派、極右関係者だけではなく、極左過激派集団アンティファ(アンチ・ファシスト)が紛れ込み、暴力を扇動している点だ。警察隊との衝突で負傷したデモ参加者を無条件で擁護し、政府や警察批判に終始するリベラルなメディが多い。IPIの調査によると、3月から5月にかけての感染第1波の時より、9月からの感染第2波での抗議デモは攻撃的になっているという。11月7日、ドイツのライプツィヒ市での規制反対抗議デモでは少なくとも43人のジャーナリストが様々な妨害や被害を受けた。

ところで、米大統領選のメディアの常軌を逸した偏向報道については、IPIが苦情を表明したとは聞かない。トランプ大統領が就任して以来、過去4年間、米国を含む世界の多くのメディアは反トランプ報道に終始した感がある。その状況は大統領選後も変わらない。対抗候補者のジョー・バイデン氏の勝利を早々と報道する一方、郵便投票での不正問題などについては完全に無視している(「メディアの常軌逸した反トランプ報道」2020年11月9日参考)。

例えば、米紙ワシントン・タイムズによれば、▲ミシガン州の67郡を含む接戦州の何十もの郡で、有権者登録数が有権者の人口を上回っていたこと、▲有権者登録名簿に故人や州外への転居者、外国人など投票資格のない人が多数含まれていたこと、▲民主党を支持するドミニオン社の集計システムを使用したミシガン州のある郡では約6000票がトランプ氏からバイデン氏に不正に切り替えられたこと、▲ペンシルベニア州では、州務長官と州最高裁が州法に違反し、選挙のわずか数週間前に、署名確認義務を事実上撤廃したことなど、多くの不正容疑が指摘されている。にもかかわらず、米のリベラルなメディアは報道していない。それを監視するIPIも同じように口を閉じている。

米大統領選のメディアの動向をみると、「客観的な報道」といった言葉は全く死語化していることに気が付く。米国社会だけではない、メディアも分裂している。CNNのアンカーがバイデン氏が当選に必要な選挙人270人を獲得した時、涙を流して喜んだという。自身が応援する候補者が当選すれば嬉しいのは分かるが、放送番組中に涙を流して歓喜したTVジャーナリストは自身の言動がメディアへの信頼を落としたことに気がついていないのではないか。

IPIには、米大統領選での米メディアの偏向ぶりについて一度調査して報告してほしいものだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年12月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。