マーケティング的に世界を読む

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先日、参加している勉強会の本年度最後の会あり、冒頭の「前振り」をさせて頂きました。今年のテーマがマーケティングだったのですが、コロナという新たな切り口が入り、それがマーケティングにどう影響するのかなどについても考察をしてきました。

さて、その前振りの際に「フィリップ コトラー教授という名前を聞いたことがある人はいますか?」と問いかけたところ知っている人がなんとゼロでありました。私はショックです。マーケティングに興味があって勉強会に参加されているのに「近代マーケティングの父」とも称されるコトラー教授の名前すら聞いたことがない中でマーケティングを議論するのはやや遠いような気がしました。

同氏が発した有名な点はSTP理論(Segmentation, Targeting, Positioning)、6P理論や7P理論(従来のマーケティング4P(Product, Price, Promotion, Place)にPublic, Political Power, People, Process, Physical Evidenceを組み合わせたもの、更にコトラー氏著で現代マーケティングのバイブル的教科書「コトラーのマーケティング」の1.0から4.0(来年5.0が出る)など御年89歳にしてまだまだご活躍されている大教授であります。

マーケティングというと最近の多くの興味は「どうやって顧客にリーチするか」「どうやって購入してもらうか?」ではないでしょうか?それを担うのがSNSであり、オンラインストアであり、フードデリバリーであったりするわけです。ただ、私から言わせればそれらはマーケティングのごく一部の手段の話でマーケティングそのものの根幹をなすわけではないのです。そうはいってもビジネスをしている方からすれば手持ちの商品やサービスをどうやって顧客に紹介し販売につなげられるかという点で日々悩んでいるように思えるのです。

マーケティングとはそうではなく、扱っている商品/サービスは本当に顧客のニーズに合っているのか、時代の流れ、あるいはその先端を行っているのか、どんな顧客にいくらで売ろうとしているのか、販売する手法と顧客にリーチする手段は正しいのかなど、もっと大所高所からの検討が必要なのです。

欧米の飲食のケースを見てみましょう。こちらではランチにレストランに行くケースは顧客とのビジネスランチなど理由がないとなかなか行きません。その代わり、かつてはBrown Bagと言って皆サンドウィッチ持参だったのです。今でも多くの方は弁当持参です。ところが弁当を忘れる、あるいはそれが苦手という人のためにファーストフードチェーンやフードコートができました。これは一つの流れです。

ところがそれではどうしても選択の種類が限られます。そこでできたのがFood Vendorと称する屋台であります。小型トラックの荷台から簡単に調理されたものを売るのです。ラップ、ホットドック、サンドウィッチをはじめ、各国料理のトラックが街角にやってきてビジネス街にランチタイムを盛り上げています。日本でも一部ではポピュラーになっているかと思います。

この例などは人々の腹をエコノミカルにどう満たすのか、という観点から時代の流れ、価格帯、売れるフードのタイプなどを考察するだけでも非常に興味深いマーケティングの勉強が可能なのです。

そのコトラー教授、現在のマーケティングについてお値打ち感VSラグジュアリーという仕切りがあると指摘しています。これは既に何年も前から日本でも言われていたことで中途半端は駄目、どちらかに向かうというものです。

では誰でもラグジュアリーに行けるかと言えば99%が脱落します。利幅が大きい、有名になれるなどという目先の理由でその道を選んだ人はまずアウトです。ラグジュアリーの道のりは果てしなく長く地道にそのブランドネームを築き上げる必要があります。よって日本でのラグジュアリーマーケットはどうしても海外ブランドに押されがちで、国内ブランドはレッドオーシャンのお値打ち戦争になっているとも言えます。

コトラー教授は更にこの「お値打ち」組が今後、よりシンプルになっていくと考えています。ミニマリストや「コンマリのお片付け」といったキーワードにみられるのは「余計なものはいらない」「所有しない」であります。このマーケティングで成功したのがアイリスオーヤマだろうと思います。同社は商品の機能について大きく絞り込むだけではなく、人々が「この機能が欲しかった」というもので強力なプッシュをかけるのです。私はまだ同社が2流のブランドネームの時代から「おっ、すごいな」と感じ、それ以来のファンなのであります。

パナソニックにできなくてなぜアイリスオーヤマにできるのかと言えば会社の組織がシンプルなんです。つまりシンプルなものを作るには組織もシンプルな方がいいのです。

コトラー教授のもう一つの主張は「計画的陳腐(製品の寿命を意図的に短くすること)はダメ」という点です。H&MやZaraで買い物をされると思いますが、それらファーストファッションと称される分野は1シーズンでポイ捨てを前提としています。

もちろん、実際にはもう少し着られるのでしょうが、そもそもファッションなので来年には着てもらわないのが前提でアパレルメーカーはひたすら消費者が衣料を回転させることを狙っているのです。しかし、こんな環境に優しくないビジネスがまともだと思えますか?

私がユニクロを評価している点は同社の商品は高機能ベーシックファッションである点なのです。ベーシックでそもそもインナーファッションがスタートだったからそれらは何年着ても構わないし、高機能だから着ていて心地よいものがあるのです。コトラー教授は長持ちするシンプルなものがマーケティングのトレンドになると読んでいるようです。

コロナ後のマーケットについてコトラー教授は売り手も買い手もコロナの衝撃が大きく、そこから立ち直るのに2-3年はかかるだろうとみています。

私は逆に言えばこの2-3年のギャップが勝負どころだと思っています。2-3年、市場はゆっくりしか動かない、だからこそ、今のうちに攻めに転じる必要がある、そして市場が戻った時、しかるべきポジションに立っていることが大事だと思っています。これには極めて慎重、かつ大胆な戦略が求められますが、一生のうちに何度もない機会だと思っています。経営者の冥利に尽きる絶好のチャンスだと考えるのもまたマーケティングのポジショニングというものでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年12月15日の記事より転載させていただきました。