「全てをご破算に願いまして」の国家予算の将来

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国の21年度予算案(106兆円)が決まりました。従来からの財政危機に新型コロナ対策が加わり、これまでの財政常識が覆され、「全てをご破算に願いまして」としかいいいようのない予算です。経済が成長力を取り戻し、税収が回復したとしても、2、30年程度で全治するかどうか。

欧米と同じような規模のコロナ危機が襲来すると思い込み、経済活動を必要以上に止めてしまい、その結果、景気はどん底に落ち、税収も激減(20年度は8・3兆円の減収)します。「それ大変だ」とばかり、巨額の国債発行に追い込まれました。「墓穴を掘る」の類の予算です。

これまで「デフレ脱却、消費者物価2%上昇」という名分で、効果がでないにもかかわらず、財政膨張、異次元金融緩和を延々と続けてきました。財政状態が先進国で最悪になったところにコロナ危機が重なったのです。平時なのに戦時体制のような政策を続けすぎました。

「30年以内に大震災が起きる確率は70%」と言われてきました。首都圏直下型震災でも起きたら、どうするのでしょう。財政を痛めてきた日本で、大災害が起きたら、どんな手が残っているのか。

確実に迫っているのが2025年問題です。団塊の世代が後期高齢者になり、社会保障費(35兆円)が以後、急増していく。成長余力がまだある米国なら四次まで計4兆㌦ものコロナ対策をやっていいかもしれない。

経済力も劣る日本なのに、来年秋の総選挙対策も兼ね、けた外れの規模の予算です。補正予算を加味すると、実質122兆円です。恐らく来年度も「15か月予算」を組むでしょうから、130兆円を超える。

菅政権は「経済成長なくして財政再建なし」を呪文のように繰り返すだけです。将来展望を示さない政治は無責任です。

各紙の論調をみると、日経は「財政規律の緩みを隠せぬ」、朝日は「財政規律のたが外れた」、読売は「借金頼みの財政膨張は危うい」と、危機感を募らせています。実際は「緩み」「危うい」という表現では、表せないほど財政政策が「異次元の領域」に突入したのだと思います。

まず、財政節度が異次元の領域に押しやられました。政権が完全に財政政策の主導権を握り、財務省は埒外に追いやられました。「コロナ対策で必要」「コロナ後の成長に備えた布石」と唱えれば、「なんでもあり」が通ってしまいました。

「際限なく膨張した財政を将来、どうするのか」の議論が与野党ともに消え失せている。野党は「桜見の会」の追及に熱中するばかりで、財政問題に深入りしない。首相の人事介入を批判した学術会議が緊急提言をだし、存在感を示すべきなのに、それもしない。

これまでは「基礎的財政収支を25年度に黒字にする」という財政再建目標がありました。それが来年度は20兆円の赤字の見込みに膨張し、まともに議論する気になりません。ドイツなどは「7年ぶりに発行する国債は20年で償還する」と、財政規律を守ろうとしているのに参考にもしない。

さらに財政節度どころか、逆に「もっと大規模な財政出動をすべきだ」という声が民間エコノミストから噴出しています。これも財政が「異次元の領域」に入ってしまったことの表れです。

野村証券財政アナリストの西川氏の「従来型の予算編成から脱却しなければ、経済成長による財政健全化は困難となる」とのコメントが日経、読売に掲載されました。三菱銀行系の小林氏は「大きな金額を見せることが国民の安心感につながる」と、朝日新聞に語りました。

来年度の当初予算案の歳出は106兆円だといっても、今年度の第三次補正予算(執行は4月以降にずれ込む)を加えれば歳出は実質112兆円、国債発行残高は国・地方合わせ1209兆円という途方もない金額です。

財政膨張を後押しているのが欧米発の財政理論、MMT(現代貨幣理論)です。日経の経済教室(22日)でウイリアム・ミッチェル教授が「主流派のマクロ経済学者(財政規律)の予想は全て外れている」と批判しました。「財政主導への回帰を支持する」とも。

「財政赤字の拡大、中央銀行による大規模な国債購入は災厄を招くとの警告は全く当たらなかった」「未来に向けた課題は生産性を押し上げるイノベーション(技術革新)の創出である」と。言いたい放題です。

コロナ対策、デフレ対策で異次元の金融財政政策をとってきたにもかかわらず、供給したマネーが株価を押し上げてはいるものの、本当に資金を必要とする分野には流れず、経済はどん底です。「不況下の株高」をどうしたら是正できるのかの理論的な解明こそ欲しいのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年12月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。