豊臣と徳川の真実⑨ 家康は東日本だけを確保

八幡 和郎

※編集部より:本稿は八幡和郎さんの「浅井三姉妹の戦国日記 」(文春文庫)、「47都道府県の関ヶ原 西軍が勝っていたら日本はどうなった 」(講談社+α新書)などを元に、京極初子の回想記の形を取っています。前編「織田と豊臣の真実」はこちらから全てお読みいただけます。本編の過去記事リンクは文末にあります。

昨日は、もし西軍が勝ったらどうなっていただろうという話をしましたが、東軍が勝ったあとの大名配置についても、世間では誤解があるようです。

徳川家康像(狩野探幽画、大阪城天守閣蔵/Wikipedia)

関ケ原で家康公が勝たれて、天下を治めるようになったのは確かなのですが、建前は、秀頼さまを立てていたのです。

戦後の大名の配置をみると、戦いの前から家康さまの家来だった武将たちに与えられた領地は、もとの関東における徳川領に加えて、三河、遠江、駿河、甲斐、信濃という小田原の役の以前の領地、それに尾張に四男の松平忠吉さま、岐阜に長女亀姫さまの夫である奥平さま、桑名に本多忠勝さま、佐和山に井伊直政さま、大津に戸田一西さまといったところです。

越前の結城秀康さまは、建前としては家康さまの家臣でなく秀頼さまの家臣ですから別ですが、だいたい、江戸から京都までが徳川家のものになったということになり、石高でいえば戦前のほぼ倍です。

ここが家康さまらしいのですが、いずれ秀頼さまの天下になっても、東日本は自分のものとして確保したいという手堅いものでございました。

秀忠さまは、関ヶ原での決戦に遅れたことで危うく跡継ぎから外されかかりました。兄の結城秀康さまが関東にあって上杉軍への睨みをしっかりこなされ、弟の忠吉さまは舅の井伊直政さまとともに関ヶ原で先鋒をつとめ大功を上げられたのです。

一説によると、家康さまが重臣にたちに諮ったところ、本多正信さまらは秀康さまを、直政さまは婿の忠吉さまを推されましたが、大久保忠麟さまが従順な秀忠さまが二代目には好適だと主張されたのを容れて、秀忠さまに落ち着いたといわれています。

しかし、家康さまの秀忠さまへの信頼は傷つき、家康さまが亡くなるまで、秀忠さまの意見はほとんど聞かれなくなりますし、それが、わたくしたち姉妹の悲劇の原因になります。

北政所さまの実家である木下家に対して家康さまがとった処置では、小早川秀秋さまは筑前一国から備前、美作の宇喜多さま旧領へ移されました。いちおう、約束通りですが、その功績の割にはもうひとつです。

寧々さまの兄である木下家定さまは石高は同じですが姫路から足守に左遷。俊房さまと勝俊さまは改易。延俊さまだけは石高は増えましたが遠い豊後日出に追いやられました(舅の細川忠興さまの領地の側という意味はあります)。

豊臣恩顧の諸大名のうちでは、黒田長政さまと福島正則さまへの厚遇が目立ちます。福島さまらが東軍につくように説得、毛利や小早川への調略、戦場での働きのいずれも抜群のものがありましたので、筑前という重要な国をいただかれました。申し忘れておりましたが、黒田家は湖北の木之本の黒田の出身で、孝高の曾祖父のときに備前に移った一族です。

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福島正則肖像画 / 東京国立博物館蔵(Wikipedia)

福島正則さまが毛利氏の居城だった広島城をもらわれたのは十分な報酬でしたが、尾張という東日本をにらむ要衝を秀吉さまから任されながら、それを職務放棄したのですから、この移封には断固抵抗すべきだったともいえます。

山内一豊さまが遠州掛川から土佐20万石に大躍進されたことがよくいわれますが、20万石というのは、入国後の検地で打ち出された石高で、太閤検地では9万8千石でしたから、世間でいうほどの出世ではありませんでした。山内さまについては、よく知られている通り、賢夫人である千代さまは、米原市の飯村というところの土豪で浅井旧臣の若宮友興の娘です。

美濃の遠藤氏の文献で自家出身と主張しているものもありますが、山内家で近江若宮氏の出と公式にしておりますのを覆すほど説得的なものではありません

秀頼さまの蔵入地は三分の一ほどになりました。ですが、だからといって65万石の一大名になったなどというのは間違いです。そのことは、また書きます。

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