中露爆撃機の共同飛行は米国へのアピール

鈴木 衛士

ma-no/iStock

防衛省統合幕僚監部の発表によると、12月22日の昼間帯に中国軍の戦略爆撃機(H-6) 4機が、2機編隊ごとに分かれて、1個編隊は対馬海峡上空から日本海へ、もう1個編隊は東シナ海から沖縄・宮古島間上空を経て太平洋へと進出する周回飛行を実施した。この際、沿海州南方から飛来したロシアの戦略爆撃機(TU-95) 2機編隊がこの中国軍爆撃機のそれぞれの編隊に合流し、双方の周回飛行に随伴した。

このような中露両(空)軍の爆撃機によるわが国周辺での飛行は、昨年7月に初めて行われたものであり、中露側はこれを合同パトロールと称していた。ちなみに、昨年のこの合同パトロールの際には、これらの飛行などを空中統制していたと見られるロシア空軍のAWACS(早期警戒管制)機A-50が、竹島領空を2回にわたり侵犯し、これに対して(スクランブル発進して対応していた)韓国空軍の戦闘機が警告射撃を実施する、という事案があった。詳しくは、昨年7月24日の拙稿「ロシア機による竹島領空侵犯は現在の日韓関係が起因」をご覧頂きたい。

今回の中露共同による爆撃機の示威行動については、前回のようなアクシデントもなく、極めて整斉と行われた。さらに、次のような点から、前回よりその内容がレベルアップしていると見られ、今回の飛行には特に注目しなければならないと考えている。

まず、中国空軍の爆撃機が前回は2機であったのに対して、今回は4機と1個編隊増加している。別の見方をすると、前回は爆撃機の搭乗員2個クルー(1個クルー5~6名と推定)10名程度の参加であったのに対して、今回は少なくとも4個クルー20名以上がこの日露共同の軍事行動を実戦的に経験したことになる。

次にその飛行形態である。

中国空軍の最初の(第1)編隊は、黄海南方から飛来し、その針路を(米海軍や海上自衛隊が所在する)佐世保港へ向けてわが国に接近した。その後、対馬海峡上空を日本海へ抜けて竹島西方を北上し、竹島北方約100km付近でロシア空軍の戦略爆撃機Tu-95の編隊と合流したあと、竹島の東方を島根県の隠岐の島へ向けて南下し、隠岐の島北方で西に変針して再び対馬海峡上空を抜けて帰って行った。

この最初のH-6の第1編隊が対馬海峡上空を東シナ海へ抜けるのに合わせて、今度は後続のH-6の第2編隊が第1編隊と同じく黄海南方からその針路を佐世保港へ向けてわが国に接近し、第1編隊に随伴していたロシアのTu-95の編隊と(第1編隊と入れ替わる形で)合流した。その後、これらの編隊は東シナ海を尖閣諸島方面へ向けて南下し、沖縄・宮古島間上空を抜けて太平洋へ進出、その後反転帰投した。

端的に言えば、中露の3個編隊の爆撃機がきっちりと時間と経路を合わせ、それぞれ日本海と太平洋へ進出する周回飛行を実施したということになる。つまりこれは、それぞれの爆撃機編隊が自国のレーダー覆域外において、「時間や航程が複雑なナビゲーション(爆撃機に必須の作戦行動)を確実にこなした」ということなのである。おそらく、前回(昨年7月)の教訓を踏まえ、中露両空軍は事前にかなり入念な打ち合わせを行っていたのであろう。

この一連の飛行の意味するところは、「日本海や太平洋から接近する米艦艇に対しては、中露が連携してこれを阻止する」という意図の体現である。つまり、米軍が東アジア地域で中国などへのけん制を目的に、同盟国と協力して実施している「航行の自由作戦」への対抗措置といえよう。したがって、これは今後も恒常的に行われるものと考えられる。ここで注意しなければならないのは、今後この活動が、その頻度や内容においてエスカレートするかどうかである。

今回これは1年半ぶりに実施されたが、前述のように内容は少し深化していた。さらに挑発がエスカレートすれば、「各爆撃機への対艦(地)ミサイルの搭載や援護戦闘機の随伴、戦闘艦艇の参加」なども考えられる。昨年7月の際には、すでに中国の戦闘艦艇が参加していた可能性を示す兆候もあった。今回も中国のフリゲート艦が昨年と同様に、日本海に入っていたことから、何らかの連携をしていた可能性がある。引き続き、十分な情報収集や監視が必要であろう。

なお、このような中露の軍事活動については、これを日韓にも示威するという意図があるものと思われる。報道には見られないものの、前回と同様に今回も中露の爆撃機は済州島や竹島に接近していたことから、韓国側も戦闘機がスクランブルしてこれらに対応していた可能性がある。特に、韓国に対しては、中露が軍事的親密さとその脅威を誇示することによって、日米からの離反を促す狙いがあるものと考えられる。

今回中露は、この地域におけるプレゼンスを示すため、米国の大統領交代に伴う内政のごたごたで外交の発信力が低下しているこの時期を見計らって、米軍のクリスマス休暇直前という絶妙のタイミングでこのような挑発行動を行ったのであろう。

わが国としても、このような中露共同の軍事挑発を、「東アジア地域におけるさらなる波乱の兆し」と捉え、気を引き締めてくる年を迎えなければならないのではないだろうか。