緊急事態宣言発令:政府は今から出口戦略を示せ --- 多田 芳昭

寄稿

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7日夕方、緊急事態宣言が発出された。「遅すぎた、もっと強硬策を採るべきだ」と政府を非難する意見と、「宣言は本質的な対策にはならず医療崩壊に対しての本質的な対策が先だ」と両極端に意見が分かれている。

私自身は後者に与する。前者の意見に論理性、蓋然性が感じられず、バランスを欠いていると感じているからだ。両論併記での比較議論とバランス感覚が危機を乗り越えるためには必要だが、現実は偏った情報に基づくバランスの欠いた判断と言わざるを得ない。

再び8割おじさんによる最悪シナリオが発信された。春の最悪シナリオは実現せず、その反省もなかったので非難も多く、しばらく鳴りを潜めていたが、ここにきての再発信。一定の数学的論理性はあるが、実行再生産数1.1継続と飲食時間制限の効果を10%と低く見ていることが現実と乖離、反省が活きておらず、首を傾げざるを得ない。

メディアは「感染抑止絶対論」を振りかざし、政府の対応を「経済優先」と揶揄するが、政府の基本姿勢は、経済と感染抑止をバランス良く政治判断しようとする、いわゆるWithコロナ策である。国家運営上どちらが最適かは言うまでもないが、政府の判断根拠とする情報にも一つ、大きな問題がある。それは、経済影響の最悪シナリオが発信されていないことだ。

政府の分科会は、経済と感染抑止それぞれの観点から分析、提言し、政府がバランスの取れた最適解、最善策を政治判断できる様にするために存在する。春の反省を活かして、経済の専門家も入ったはずだ。しかし、経済面の最悪のシナリオとその限界や防止策に対する提言は聞こえてこない。それどころか、感染抑止の素人意見まで発信する状態で、何の為に加わったのか意味不明だ。

これでは、バランスの取れた政策判断は出来様がない。これは人選が悪かったのか、構造的に組織体を別運用にすべきなのか、様々な原因は考えられるが、早急に改善しなければならないだろう。

分科会会長の尾身さんは、極めてバランス感覚のある、良識的で論理的、科学的な発信をされている。一方で、経済面の危機的状況を正確に発信し、経済について、・このまま何もしない場合、・経済停滞策を講じた場合、・経済復興策を断行した場合のシナリオを提示する専門家が必要なのだ。それを尾身さんに負わせるのは無理がある。

<緊急事態宣言解除に向けた目標数値、出口戦略は>

とはいえ緊急事態宣言発出に伴って経済停滞策が各種強化される状況になった。そうすると、出口戦略を早急に組み立て、先手で発信する必要がある。

解除の目標値は、現時点では、ステージ4の脱却とかなりハードルが高い。この点は、建前上維持せざるを得ないだろうが、実質どこまで医療が持ち堪えられるか、医療資源再配分はどこまで出来るのだろうか。これは、政府の責任ではなく、医療業界の提案として出すべきであり、最悪でも自治体の統制で実行管理するべきだ。緊急事態としての統制、事業継続計画(BCP)の発動こそが危機管理の基本なのである。

政府の検討すべきは、民間のPCR検査を全て厚労省の統制下に置き、医師が必要と判断する行政検査に切り替えてキャパを上げ、安心したいだけの検査を禁止することと、死者数の数字を直接死因のみのカウントに切り替えることだろう。インフルエンザなどと公平に比較をして、疑いの余地が無い判断をする。昨年当初は、得体のしれない感染症だったので仕方がなかったのだろうが、現時点では可能なはずだ。

そして、なによりも経済のマイナス影響、最悪シナリオ検討を分科会に緊急要請し、自殺者数等も公にするべきだ。経済のマイナスは、国家、国民にとって長期的に命も含めた問題となる。何より歴史的には、戦争の主要因は経済低迷なのだから、本気で考慮すべきなのだ。

感染状況、医療体制強化状況、経済影響を公平に土台に挙げなければ、バランスの取れた政治判断は出来ようがない。

極論ではあるが、経済の指標で限界を超えた場合、例え今よりも感染者数が多くても、国家としてのバランスを考慮に入れた最適解として、緊急事態宣言を解除することがあっても然るべきはずなのだ。

絶対ゼロ化論者は、強力な感染抑止策は、コロナのリスクを短期間で終えることが出来て経済面でも有利だと主張するが、ロックダウンなどの強硬策を講じた諸外国の感染再拡大の現実を無視している。だからこそ、Withコロナ策を日本は当初より目指し、一定のリスクは受容しつつ、人権制限も最小限に留め、ブルームバーグでも世界2位の評価を得たのである。

何はともあれ、国民としてこの事態に前向きに対応すべきは、行動制限や飲食制限という方法論に縛られるのではなく、自身がウイルスキャリアである前提で、他人に感染させない、飛沫飛散をさせない事、徹底的に減らす事を目的とするべきなのだ。マスク着用や時短営業など個々の方法論は各自が自分の頭で考える事であり、その為のガイドラインとして要請が出ていると受け止めるべきだ。間違っても思考停止に陥ってはいけない。

多田 芳昭  LogINラボ代表

一部上場企業にて、セキュリティ事業に従事、システム開発子会社代表、データ運用工場長職、セキュリティ管理本部長職、関連製造系調達部門長職を歴任、2020年副業としてLogINラボを設立しコンサル事業活動中。