都営地下鉄民営化論再考② 東京メトロとの統合手法は? --- 前田 順一郎

2021年01月12日 06:00

prachanart/iStock

率直に申し上げて、利用者や国民・都民の目線から見ると、東京メトロと都営地下鉄の運営の一元化を行わない合理的理由は、私には見当たらない。どう考えても統合を推進すべきだ。まずは両者の統合を行う前提で、どのような具体的な統合手法があるのか論じてみたいと思う。

東京メトロと都営地下鉄との統合手法としては、以下の2つが考えられる。

①都営地下鉄事業を、東京メトロに現物出資または事業譲渡。
②都営地下鉄事業を会社化し、東京メトロと持株会社形式または親子会社形式で統合。

2つの手法のうち①の方が統合効果は大きく、かつシンプルである。私が国交省で手掛けた関空と伊丹空港の経営統合の際には、国が保有していた伊丹空港の資産を新関空会社に現物出資する形式をとった(その後、両空港事業を合わせてコンセッションを実施)。都営地下鉄の場合にも採用可能だろう。

上記②については、現状の都営地下鉄事業と東京メトロの事業を区分しなければならない合理的理由は見当たらず、この手法を採用する積極的意義はないだろう。企業同士の経営統合においては、既に存在する二つの会社を迅速に経営統合するために、この手法がとられることもあるが、都営地下鉄の場合には、まだ会社化すらなされていないから、そういったメリットがあるわけではない。

手法としてはシンプルに都営地下鉄事業を東京メトロに現物出資または事業譲渡する①が良いと考えられる。なお、現物出資を採用した場合には、都営地下鉄の事業価値分だけ都の株式持分がいったん増加し、恐らく一時的には都の持株比率が過半を超え、国の持株比率と逆転することになるだろうが、いずれにせよ同社の株式を売却し完全民営化する方針なのであれば、そのこと自体に大きな意味はない。

もっとも、(想定したくない事態ではあるが)両者の統合協議が長引きそうな場合には、都営地下鉄をいったん株式会社化することも考えられる。大阪においても、市直営だった地下鉄事業が株式会社化により「大阪メトロ」となったことで、明らかに利便性が向上した。いずれにせよ、スピード感をもって議論を前に進めることが肝要である。

ここまでは東京の地下鉄運営の一元化について論じてきたが、ここでもう一つのテーマである「民営化」について論じておこう。

まず、最初に理解しておかなければならないのは、東京メトロの株式を上場し、完全民営化を図る方針については、とうの昔に決定している、ということだ。この方針については、1980年代に行政改革の議論の中で提案され、1990年代には政府から明確に方針が示された。

2004年には営団地下鉄が「東京メトロ」として株式会社化されたが、これは将来の完全民営化を目指すための第一段階として行われたものである。その際に「東京地下鉄株式会社法」という法律が施行されており、同法附則において「国及び東京都は~(略)~できる限り速やかに~(略)~保有する株式の売却」を行うことも明示された。さらに、その後の東日本大震災の復興債の発行の際には、2022年度までの東京メトロ株式の売却収入が償還財源に充当される前提で議論がなされたはずなのだ。

しかし、現在に至っても東京メトロの株式は政府と都が保有したままで、議論は全く進展していない。これを政府・都の怠慢と言わずして何と言うのだろうか。こういった怠慢については、本来野党が国会で徹底追及すべきなのであろうが、ここ数年は左派野党が逆に「地下鉄民営化反対」「新自由主義を許さない」と主張し、東京メトロの株式上場自体に反対しているありさまである。建設的な議論ができる一定規模の野党の存在が絶対に必要である。

さて、ここまでの議論を踏まえれば、東京の地下鉄運営の問題は、本来、決して複雑なものではないことが分かる。要約すれば以下3点である。

  • 都営地下鉄と東京メトロを統合すべきであることは、利用者や国民・都民の目線から見ると自明である。
  • その統合手法は、東京都が都営地下鉄事業を東京メトロに現物出資するまたは事業譲渡する方式を基本とすることが合理的である。
  • 国及び都が保有する東京メトロ株式について速やかに売却することは、既に法律上決定しているのだから、都営地下鉄事業を統合した上で、法に基づき上場及び株式売却を粛々と進めていけば良い。

東京の地下鉄の一元化に向けての懸念はもはやない。改革をすべき政治的課題は山ほどある。改革は迅速に実行されなければならない。次稿(最終稿)では、具体的に話を進める際の議論となる「都営地下鉄の民営化」の是非について、「シルバーパス」の問題に触れつつ論じたい。

前田順一郎(公認会計士・日本維新の会)

1975年生れ。公認会計士・税理士・行政書士。東京大学経済学部卒業。マンチェスター大学経営学修士。あずさ監査法人・KPMGロサンゼルス事務所で金融機関の監査に携わった後、国土交通省航空局専門官として関空や福岡空港などのコンセッションを実現。現在は日本維新の会衆議院東京都第11選挙区支部長。著書に「会計が驚くほどわかる魔法の10フレーズ」(講談社)。

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