都営地下鉄民営化論再考③ どうする?シルバーパス

2021年01月13日 06:00

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都営地下鉄事業については東京メトロに統合した上で、国及び都が保有する東京メトロ株式については法に基づき上場及び株式売却を進めていけば良いのであるが、その結果として、大事な変化が起こることには留意しなければならない。これにより、現在は完全に公営である都営地下鉄事業も民営化されることになるのだ。

まず、そもそも都営地下鉄が民営化されることにメリットがあるのか、について考えてみたい。国鉄が民営化でJRになったことで、何が変わったかを考えてみると分かりやすい。

品川駅(Moarave/iStock)

例えば、品川駅や大阪駅北口などは、旧国鉄の車両基地・貨物駅跡地の再開発により高層ビルが立ち並ぶ近代的な街に変容した。また、現在の埼京線は、従来は池袋-板橋-十条-赤羽の4駅を行ったり来たりするだけの赤羽線というローカル線だったのだが、貨物線を活用することで、北は川越、南は新宿-渋谷を通って湾岸の新木場まで直通で行けるようになった。

それだけではない。国鉄がJRとなり、最も変化したのは「駅ナカ」だろう。今、東京の主要駅はさながら一つの巨大な商業施設になっている。「駅ナカ」にコンビニやカフェがあるのは当たり前であり、駅に隣接した一等地では駅ビル事業が展開されている。国鉄時代にこんな状況は考えられなかったことだ。

現在の都営地下鉄は旧国鉄と同じ状況にある。都営三田線の高島平地域の駅に行ってみて欲しい。JRや私鉄の主要駅であれば駅ナカにあるだろうコンビニやカフェが、見事に駅の外にある。もちろん、駅前の一等地に車両基地があっても平気である。駅ビルを建てて利用者の利便性を向上させようという発想は微塵もない。

初乗り運賃を調べてみると、JRや首都圏の私鉄各社は130円から150円程度であるが、都営地下鉄は180円、東京メトロも170円である。都心の地下鉄は乗車率が極めて高いにも関わらず、いくらなんでも運賃が高すぎる。民営化により自発的に経営努力を行うようになれば、収益は伸び、経費は削減される。鉄道の運賃体系には国の規制があり、原価が下がれば当然に運賃も下がる。

都営地下鉄を民営化すれば、国鉄民営化と同様のことが起こるはずだ。利用者の利便性向上や運賃の低下などを通じて、多くのメリットを期待することができるだろう。

tupungato/iStock

しかし、実際に私が都営地下鉄の利用者に対して民営化の話をすると、高齢者の方であれば、どなたもほぼ必ず同じ懸念を示される。「シルバーパスはどうなるの?」という懸念だ。何しろ70歳以上の東京都民であれば、原則として都営地下鉄の乗車運賃がほぼ無料である。シルバーパスが存続するのかどうか、心配になるのは当然だ。

この点、第一義的には地下鉄の運営形態とシルバーパスとは関係がない。現にシルバーパスの利用範囲は、鉄道については都営地下鉄、都電、日暮里・舎人ライナーのみであるが、バスについては都営だけでなく民営でも利用できる。地下鉄が都営だからシルバーパスが使える、という説は全くの誤りである。

シルバーパスに関しては、高齢者に街に出てもらい健康になってもらう効果があると言われるが、真偽は定かではない。とはいえ、シルバーパス廃止には大きな抵抗があるのは間違いない。ここで、一般に高齢者の駅ナカでの消費意欲は旺盛であることには注目すべきである。民営化により駅ナカビジネスが進展することを前提とすれば、高齢者の駅ナカでの多額の消費は賃料収入の上昇を通じた収益の向上をもたらし、結果として運賃を下げる余地を生むのだ。

そこで私は、東京メトロとの経営統合及び民営化により駅ナカビジネスを進展させることを前提として、以下のような提案をしたいと思う。

  • シルバーパスを存続させると同時に、利用範囲を大きく拡大させ、現在の東京メトロ路線にも適用する。
  • 一方で、利用時間については、日中(例えば10時~17時)に限定する。

今でも高齢者の利用は日中の時間帯が中心だろうから、多くの高齢者にとっては、東京メトロ路線への使用範囲の拡大によるメリットしかないはずだ。日中の時間帯は比較的車内も混雑しないので、利用時間を日中に限定すれば大きな追加的なコストはない。

なお、こういった公共的な施策(他にもひとり親家庭への優遇パスなどを含む)を実行するには、上場後も国又は都が一定の株式を保有しておく方が好ましいだろうが、この議論は統合・上場に向けての準備を行いながらすればよい。また、東京メトロ路線に対してシルバーパスを発行することは現在と比べて極めて大きな利用範囲の拡大となる。当面は、大阪メトロの敬老パスのように一回の乗車に50円程度の利用料を負担してもらうことを検討してもよいだろう。

東京の地下鉄の一元化と民営化。あとは実行するのみである。今年夏には都議会議員選挙が行われる。これを機に、是非ともこの問題について多くの方々に真剣に考えていただきたい。
(完)

前田順一郎(公認会計士・日本維新の会)
1975年生れ。公認会計士・税理士・行政書士。東京大学経済学部卒業。マンチェスター大学経営学修士。あずさ監査法人・KPMGロサンゼルス事務所で金融機関の監査に携わった後、国土交通省航空局専門官として関空や福岡空港などのコンセッションを実現。現在は日本維新の会衆議院東京都第11選挙区支部長。著書に「会計が驚くほどわかる魔法の10フレーズ」(講談社)。

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