オリンピック開催是非の議論

昨日、当地バンクーバーのラジオのニュースを聞いていたところ、日本のオリンピックについて報道がありました。アナウンサー曰く「日本では一年延期されたオリンピックを今年の夏に開催する準備が進んでいるが、緊急事態宣言が発出され、日本もコロナで相当影響を受けている。アンケートによると約8割の日本人は今年の夏のオリンピック開催に否定的であるが、組織委員会の森会長は予定通りと強気の姿勢だ」と事実を述べたのですが、最後に微妙に嘲笑したのにやや驚きました。

(東京2020公式HPから:編集部)

(東京2020公式HPから:編集部)

ご承知の通り、昨年のオリンピック開催準備に関してはカナダの五輪委員会が3月に「選手を派遣しない」と発表し、オリンピック延期決定の引き金の一つとなりました。上記のアナウンサーの嘲笑は「今この状態でできると思っているのかね?本気かね?」という気持ちがありありと伝わってしまったのです。

一方、森会長と武藤敏郎事務総長が組織委員会の人たちに年頭のあいさつを行い、森会長が「私がここで考え込んだり、迷ったりすれば、すべてに影響する。あくまで進めていく。これが私の最後の仕事。天命」と述べたとあります。

さて、この行方、どうなるのでしょうか?

私はやる、やらないの一本調子の議論そのものが幼稚な気がしてきました。誰がこの状態でもやりたがっているのか、ここが分からないのです。IOCや準備委員会としてはここまでやったのに、という気持ちがあるのは100も承知ですが、それ以外の方はどんな方なのでしょうか?

オリンピックの開催に於いて絶対に必要なのは何でしょうか?観客ではありません、最新鋭の施設でもありません。選手なのです。選手が集まらなければオリンピックは開催できない、極めて簡単な話です。

ならば各国の五輪委員会が今、どのような状況なのか確認し、選手派遣にどの程度の困難性があるのか、一覧にして開催の可否を検討することが先決だと思います。(私はIOCあたりが当然やっていると思いますが、仮にそうであってもそれは公開されることはないでしょう。)

季節的要因で春にはコロナが少し収まるのではないか、という声はあります。あるいはワクチンが行き渡るだろうという意見もあります。もちろんそうであってほしいと願っています。が、ワクチンだって人口が3500万人しかいなくて人口の何倍分ものワクチンを確保しているカナダですら昨日時点で国民に行き渡るのは9月と述べられています。日本はいつから接種が始まり、どのように接種計画を展開するのかすら明白ではありません。

ましてや世界の約200の国や地域が参加するわけで地球上の隅々までコロナ対策が完備され、選手の健康管理が行き届くのか、といえば恐ろしいほど困難な道のりであることは小学生でもわかることです。

ところが森会長の発言はまるでサイパンや沖縄戦を思い出させるような絶対攻防なのです。これじゃ、知恵がなさすぎると思うのです。皆が勝てないと思っている戦いに「勝つんだ」とげきを飛ばして玉砕したらどうするのでしょうか?かつて首相をやった時の「森語録」を思い出させるような森会長らしい言い回しではありますが現実的な解を求める必要があります。

今、我々が考えなくてはいけないのはYES、NOではなく、いざという時のための代替案のオプションだろうと思うのです。IOCとしても東京大会を中止とすれば今後のオリンピック開催に手を挙げる国が激減し、魅力がなくなるリスクを抱えます。とすれば前向きな代案ができないか考える必要は当然あるかと思います。

私案を述べます。東京オリンピックは17日間、パラリンピックは13日間であります。この枠組みを外してしまい、対象の33種目について1年ぐらいかけて出来る種目から順次バラバラにやるのはどうだろうかと考えています。別に暑い夏に集中してやらずに種目ごとにそれぞれの都合に合わせて開催していくというものです。これは施設の予約状況、他の国際大会との兼ね合いなどで全種目がこのオリンピック開催時以外にできないこと、集中開催による高い放映権などの理由があります。しかし、もしも開催ということを第一義にするならこの事態の中、特例的にバラバラでもよいのではないかと思うのです。そしてそれの方が外国人による観光資源への追加消費のマーケットは大きくなります。

また、各種競技には国際大会が既に存在していますが、その国際大会にオリンピック大会の冠もつけて東京でやっていただくというチカラ技もなくはないかと思います。

それの方が面倒くさい、管理的に無理といった意見もあるでしょう。しかし、今回のパンデミックは生きている人にとって誰も経験したことがなく、かつ、まだ行方が見えないわけですから今までの常識観は全て取り除いてアプローチする必要があると思うのです。

数か月後に開催は中止になったという衝撃は誰も聞きたくないでしょう。ならばいざという時の代案を考えてもよい気は致します。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年1月14日の記事より転載させていただきました。