御殿場市の「一見さんお断り」貼り紙:行政の発想の貧困を憂う

濱田 浩一郎

静岡県御殿場市は緊急事態宣言の対象地域から訪れる人を減らそうと、「一見さんお断り」と書かれた貼り紙を作成し、市内の約200の飲食店に配布したという。
(参考:「一見さんお断り」飲食店向けに配布の貼り紙が波紋 市民からは好評も市への意見は8割が批判「差別的」 静岡・御殿場市 静岡朝日テレビ)

nzphotonz/iStock

「一見さん」とは、お店に何らの面識なく初めて訪れた客のことである。御殿場市の担当者は「感染者が出ても感染経路が追えなくならないよう、初めてのお客さんにはなるべく控えてもらいたいという意図で作成した」というが、この言葉や意図も適切とは言い難い。

常連客が安心安全で、一見客が危険だと誤解を招くからである。コロナは常連も一見客もない。誰でも感染するのだ。その意味で、一見客と書いた事自体が間違っている。1都3県からの来店を遠慮して欲しいという飲食店からの要望で貼り紙を作ったとのことだが、これも1都3県の人々がコロナに「汚染」「感染」しているように感じられて、該当地域に住む身としては、気分が良くない。

市としては、市民と地元の経済を守りたいという一心だったのかもしれない。しかし、このようなくだらない貼り紙を作成し配布する暇があったら、市内の飲食店の徹底した感染症対策を市は講じるべきである。飲食店から要望があったからといって、こうした貼り紙を作成するのは、行政側の発想の貧困といえる。

そこには、行政としてのアクションが、差別を助長することがあるという発想が欠けているからだ。昨年のお盆に地方に帰省した首都圏在住者が実家に「早く帰れ」と書かれた貼り紙を貼られる事件があったが、特に地方はコロナ差別が蔓延しやすいように思う。私も地方に住んでいる人から「ここで感染したら、この場所に住んでいられない」と聞いたことがある。また、地方でコロナに感染した人が、ゴミを出すことさえ拒否され、家に住んでいられなくなり、引越した事例も報道された。

都会は近所の繋がりが弱いとされるが、地方はそうではない。だから、余計に差別や偏見が生じやすいのかもしれない(もちろん、国内、国外、地方や都会関係なくコロナ差別は生じているのであるが)。自治体がコロナ感染者の家族構成や職種、年齢などを公表している事例もある。

このような馬鹿なことも早急にやめるべきだ。コロナ感染に性別や職業が関係あるのだろうか。「個人情報保護にご理解を」というなら、初めから個人が特定されうる情報を出すべきではない。全国の自治体は、コロナ差別を煽る行為は止めてもらいたい。

御殿場市は、「一見さんお断り」の貼り紙を回収するべきである。