バイデン政権、財政は本当に大丈夫なのか?

バイデン政権のバラマキが始まります。総額1.9兆ドル、約200兆円の経済対策を行いますが、内訳は家計部門が1兆ドル、コロナ対策が4150億ドル、企業や地域向けが4400億ドルなどとなっています。またイエレン次期財務長官は金利に関して「世界は変わった」とし、今のような超低金利なら金利負担は増加しないと述べています。

(ホワイトハウスHPから:編集部)

(ホワイトハウスHPから:編集部)

個人的には違和感があります。金利だけを返すわけではなく、いつか元本部分を返すのが健全性であるとすれば仮に金利がゼロであっても借り入れを起こすことは将来の負担増になることには変わりません。イエレン氏の発言は金利が低ければ債務不履行のリスクが少ないと言わんばかりに聞こえます。(当然ながら、その点は共和党から激しく叩かれています。)

アメリカの連邦ベースの債務は27兆ドルでGDPの130%。その点、日本はGDP比で見れば世界でもダントツの266%(20年10月時点)なので大きなことは言えません。ただ、日本の場合はこじつけのようですが、国債債務残高と純債務では全然違う数字になります。これは日本が応分の資産も十分に持っているため、純債務では金融資産分だけを加味した場合、157%程度となり、更に金融資産以外のものを加味すれば100%は切ります。また、国債の消化が概ね国内で還流していることから4割以上を国外に依存するアメリカと一概に比較できないという見方もあります。しかしながら政府部門の支出が膨大である中、コロナ対策で更に加速していることに「問題なし」とは言えないでしょう。

話を戻しましょう。今回のバラマキには家計向けに1400ドルの追加現金給付金が含まれています。またアメリカには現在失業給付金を貰う人が1800万人います。今起きていることは所得の移し替えと一種のベーシックインカムプランに近い状態になっています。生活に苦しい人ほど今回3度目になるバラマキは効果的であります。但し、「一般的には」と一言付け加えなくてはいけないでしょう。それは労働市場からの実質退散を促していることがあります。

労働参加率をみるとアメリカでは2000年の頃が最大で67%をつけたのですが、その後漸減、コロナ前で63%程度でした。ところがコロナでこの参加率が崩落、20年4月には60.2%と先月から一気に2.4%ポイントも下げたのです。労働参加率はそんなに大きく数字が動くものではなくこれは驚異的な意味を持ちます。その後、持ち直したのですが、20年12月で61.5%と夏以降はほぼ同水準で推移しています。つまり、少なくとも1.5%程度の労働参加率下押しとなっており、逆にそれが失業率の大きな回復の一因となっています。

日本では例えば飲食店を中心に倒産が少なかったという話があります。あれも日本政府や地方自治体が売り上げ比ではなく定額を一様にばらまいたため、弱小飲食店は以前よりはるかに実入りがよい結果となり倒産も自主廃業もしなくて済んでいるのです。つまりベーシックインカムと同じです。一方、大手飲食店が吠えていますが、ばらまき方が不平等になった感は否めないのです。

さて、債務がどんどん膨れていく国家は存続しうるのでしょうか?これが疑問なのです。いくらでも借金できるという主張もありますが「タコは身を食う」ということわざをよく考えればタコの足は8本しかないわけで永遠に自分の足を食べ続けることはできないのです。今は企業部門と家計部門の一部および海外からの投資部門が政府部門を支えるという構図になりつつあります。そのうち、家計部門が十分に機能しなくなった場合、企業部門も当然ワークしなくなります。海外部門の身の振り方はドライです。つまり、政府と企業と会計はある程度バランスが取れていないと駄目だということになります。

とすればばらまくばかりではなく経済を浮上させ、企業部門と家計部門が自立できるようにさせることが本来目指す政策であり、最終的に政府部門の傷を最小限に押しとどめるべきだと思うのです。ならば家計部門と企業部門にお金を使わせる施策を取るべきで今のようにもらったお金を貯め込み、ロビンフッダーになるようでは本質からはずれているように思えるのです。

バイデン政権は聞こえの良い政策を並べています。例えばこの時期に最低時給15ドルも打ち出しました。時給15ドルの世界はカナダでは既にそれに近い状態なのですが、雇用側から見れば人を十分に雇えないということなのです。かつては3人雇っていたところを2人で我慢せざるを得ない、そんな意味があります。またその政策は機械化、IT化を推し進めることになり、潜在的労働者の行方が絞れらてしまうのです。

民主党独独のいい顔政権、八方美人政権は財務的にボディブローのように効いてくるでしょう。イエレン氏の為替に関する言及はドル安容認にもとれるように思えました。いよいよ新政権、アメリカの自立が問われます。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年1月21日の記事より転載させていただきました。