ミサイル監視の衛星研究を「22円」で落札?

たまに見かける公共契約における「ただ同然の受注」だが、今度は防衛省で出てきた。

写真AC:編集部

2021年1月23日の毎日新聞のニュース(「契約額は「22円」 三菱電機、ミサイル監視の衛星研究を驚きの低価格で受注」)より。

防衛省が、中国や北朝鮮などが開発する新型ミサイルを人工衛星で監視する最新技術の調査研究を委託するため、競争入札にかけたところ、大手総合電機メーカーの三菱電機が22円で受注したことが防衛省への取材で明らかになった。

記事では、「これまで聞いたことがない低い額で驚いている」との防衛省関係者のコメントを載せているが、筆者にとって驚きはない。理由は簡単で、当該業者はその額でもメリットがある、と考えているだろうからである。

応札金額を間違えたのではないなら、極端な低価格入札の背景(業者側の思惑)は大きく分けて二つ。

一つは、自身にとって将来への投資と考えているということ。新しい技術への投資は受注と無関係に必要なもので、それこそ防衛の実践に係るものであるならば、そのような投資は将来の「何か」に役立つはずだ、と考えているはずだ。国家が存在する以上、防衛は切り離せないものであるというならば、このような投資は(防衛省と今後なされる情報交換等も考えれば)ただでも(あるいはお金を払ってでも)やっておきたい、と考えるのは自然な発想だ。

もう一つが、これによって「さらなる何かの受注」が期待できるということ。それが何かは防衛産業に詳しい人物に聞かなければならないが、調達の世界では(官民問わず)次の何かが前の何かにリンクしているならば、それは大きなビジネスになる。次は随意契約かもしれないし、競争入札でも一者応札になるかもしれない。だから私たちは「次の何か」に注目すべきなのである。

この点について一つ注意点を示しておきたい。前の受注に密にリンクする後の発注で、後の発注が競争入札(企画競争型の随意契約も含む)で行われる場合、特定の企業との間で発注に係る特定の情報が「事前に」発注機関と共有されるおそれがある(むしろそれが通常だ)ということである。その場合、後の入札の公正さが害される危険があり、リーガルの問題が生じることになる。多くの場合、特命での随意契約が選択される。この場合、価格は交渉となるが、一般的には業者側が有利である。

その他に「受注することが名誉だから」「評判効果を考えて」という理由も、極端な低価格入札のケースでしばしば聞くが、今回はそういう問題ではないだろう。三菱電機といえば、この業界では定番ともいえる有名企業だ。

最後に、法令上の問題について。上記記事はこう書いている。

同省によると、過去には数百円程度の低額の入札もあったが、最近はなかったという。同省は想定していた調査研究費を明らかにしていないが、少なくとも数百万円以上とみられる。入札額は10万分の1以下となる計算で、同省は弁護士に契約に問題がないか相談し、三菱電機側にも調査の履行が可能かを確認したが、いずれも問題なかったという。

履行確認をするのは当然だが、できると回答するのも当然だ。仮に1000万円が予定価格だったとしても、三菱電機にとって「ただ同然だから低品質になる」訳がない。このようなケースの場合、その契約のその金額だけで品質が決まるものではない。

またリーガル面ではどうか。まず、入札の仕組みとして22円での応札を許している以上、会計法上の問題は生じない。あるとしたら独占禁止法だ。不公正な取引方法にいう不当廉売規制はその候補になるが、これによってどのような市場の、どのような競争が妨げられたというのだろうか。公共建設工事などで見られる、連続する、極端な低価格入札のケースでも「警告」止まりである。リーガルで問題にならないとは不当廉売規制の射程に入っていないということだろう(過去にオリンピック用マットの調達のケースで極端な安値受注のケースがあった。筆者の論考(「東京五輪空手用マット「1円落札」は妥当か?」)を参照頂きたい)。一応、公正取引委員会には情報だけは提供しているのだろうか。