2021年教育崩壊!?教員採用試験倍率低下にみる問題の核心

和田 慎市

最近文科省が2020年度の教員(小学校等)の採用倍率を発表しました。

小学校教員の採用倍率、過去最低の2.7倍 多忙な職場環境敬遠か – 毎日新聞 (mainichi.jp)

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年々低下する教員採用試験倍率

近年教員採用試験の倍率は年々低下する傾向にありますが、今回も小学校教員は0.1ポイント下落し、過去最低の2.7倍となってしまいました。記事の最後には2倍を切った自治体が掲載されていますが、例えば1.5倍なら3人に1人しか不合格にはなりません。もちろん倍率が低い=質の低下とは言い切れませんが、不合格者より合格者が多い状況では、優秀な人材は確保しづらいかもしれません。

中学校や高校も採用倍率は相当低下していますから、教員採用全体が厳しい状況に置かれていると言えます。

各地の教育委員会が人材確保のため、他県にまで広報活動をする必死さは記事からも伝わってきますが、もっと根本的な問題にメスを入れなければ志願者減少・質の低下は防げないと考えます。

そもそも日本の人口は長期的に減少していますから、単位人口当たりの教員志願率が変わらなくても全国の志願者総数は少しずつ減っていきます。そのうえ志願率まで低下すれば志願者は目に見えて減少していきます。

つまり小さくなっていくパイを多くの自治体で奪い合うわけですから、例え一握りの自治体が志願者を増やしたとしても、そのあおりで何倍もの自治体は益々志願者を減らすことになります。

リンク記事中にある小学校の免許を取りやすくしたり、教職の魅力を伝えたりすることも必要かもしれませんが、ハードルを下げることばかりすれば意識が低く適性のない受験者が増え、結局は教員の質の低下を招いてしまう恐れがあります。

ですから教員集めに躍起になる前に、まず「どうして教員志願者が減っているのか? その原因を正しく把握しなくてはなりません。

教員志望者が減少している理由

筆者は、教員志望者が減少している主な理由は次の4つと捉えています。

・教員の不祥事・事件の過熱報道もあり、世間全般の教師に対する信頼や尊敬の念が低下している。

・近年教員の長時間労働が取りざたされるようになり、ブラック企業(職場)のイメージができつつある。

・身内・知人や教育実習生として、実際に教員が仕事に忙殺され疲れ切っている姿を目の当たりにする。

・児童生徒は日頃教師と接し、あまり魅力のある仕事とは思わなくなった。

特に上記②~④から、教員の職場環境・勤務条件が根幹の問題と考えられます。

では、なぜ教員の職場環境が劣悪なのでしょうか?筆者はその要因として次の3つをあげたいと思います。

ア.教員の仕事が不明確・曖昧になり、雑務や校務外の仕事が増えてきたこと

イ.スマホ・PCの普及で、外部(市民,保護者,マスコミ等)からの批判や監視が増え、対応に時間をとられたり精神的ストレスが増したりしていること

ウ.制約・規約が増えるなど管理体制が強化され、個の教員の自由度が減っていること

どうすれば教員の職場環境は改善するか

世間では教員のサービス残業ばかりに注目が集まりますが、もともと教員は金銭面の補償にこだわる人は少なく、仕事のやりがいを重視する傾向にあります。実際、ある大学の調査では、過労死レベルの残業をしながらも「仕事にやりがいがある」「授業が楽しい」と答えた教員が9割以上おり、勤務時間の長さが根本の問題ではないのです。

確かに給特法の廃止→部活動指導手当・平日残業代支給は、待遇面では大きなことですが、お金だけもらっても教員の仕事が精査され、やりがいのある本来の仕事に集中できなければ、精神的な面も大きい教員の職場環境は改善されないでしょう。

上記アの改善について、具体的に教員の職務から外すべき仕事の例については、筆者の過去投稿記事後半の「ア.職務外とすべき仕事」や、「真の教員働き方改革実現に向けて」をご覧ください。

教員の変形労働時間制:国が覆い隠す「不都合な真実」 — 和田 慎市 – アゴラ 

上記イはなかなか簡単には改善しないでしょうが、教育委員会・学校(管理職)が協力して、罰則よりも大半の仕事熱心な教員を守るための危機管理体制を築いていく必要があります。

上記ウは、イの影響もあるわけですが、思い切って縦割り教育行政(文科省→教育委員会→各学校)を緩め、学校独自の裁量を増やすことだと思います。校長が自由に学校運営できる枠が広がれば、職員(教員)個々の能力を引出したり、アイデアを採用したりして、良好な職場(人間関係)が構築され、教員の自由度≒やりがいも改善されるはずです。

子供たちから見た教師の魅力を高める

こうしてア~ウが改善され、教員の職場環境が良くなれば、将来教員を目指す子供たちから見て、次のような流れができるのではないでしょうか?

学校で先生が楽しく生き生き働いている姿を日常目の当たりにする
 ⇓
教師の仕事・生き方に魅力を感じ、自分もなりたいと思う
 ⇓
教員を目指して進学する
 ⇓
教育実習で生き生きと働く先輩と一緒に過ごすことで、教師という職業のすばらしさ実感する
 ⇓
意識が高く適性のある学生が採用試験を受ける

こう考えれば、教育委員会は目先の人集めに注力するのではなく、時間がかかっても焦らず教師が本来の仕事に注力できる職場環境を整え、教師(教育)の魅力・やりがいを高めていくことが、高い意識と情熱を持った受験者を増やすことにつながるはずです。また、長期人口減少の中、たとえ倍率がそれほど上がらなくても、受験生の質はかなり高まるはずです。

長期戦になるかもしれませんが、粘り強く文科省に働きかけ、教員の仕事を明確に限定し、教員がやりがいをもって生き生きと働ける職場環境を構築することが、回り道でも結果的には教員の質の向上につながることを、特に教育委員会には伝えたいと思います。