中山副大臣が通報する前にSWCは知っていたのか

池田 信夫

オリンピック開会式の演出を担当するはずだった小林賢太郎氏が、直前に解任された事件について、防衛省の中山泰秀副大臣は当初、自分がサイモンウィーゼンタールセンター(SWC)に連絡したと言っていたが、ここにきて「SWCが先に知っていた」と主張し始めた。話を時系列で整理しよう。

元の「実話BUNKAタブー」のツイートは、21日22:45に出た。


これを受けてTomoという匿名アカウントが、22日の午前1時ごろ中山氏に通報。


これに対して中山氏は「早速サイモンウィーゼンタールセンターと連絡を取り合い、お話をしました」と書いている。そしてSWCは日本時間で22日3:56に非難声明を出した。


中山氏は22日の朝、「こちらから連絡を取った」とツイートした。


SWCの非難声明が重大な結果をもたらすことは予想されたが、中山氏がそれを止めた形跡はない。その結果、開会式の責任者が22日午前中に解任された。

「SWCは知っていた」という中山氏の弁明は本当か

ところが中山氏は、23日夜の文化人放送局で「22日の深夜1時ごろ、ツイッターで連絡を受けて知ったときは、すでにネット上でブレイクしており、SWCに電話で連絡したところ、20分前に情報が入り、いま訳していると返事があった」という。

日本時間の深夜1時は、SWCのあるロサンジェルスでは朝9時。この話が事実なら、SWCは早朝6:45に出た日本語のツイートをただちに把握し、その2時間後には英訳して分析していたことになるが、それは本当か。

現地時間の11:56に出たSWCの非難声明では、こう書いている。

日本のメディア報道によると、小林は1998年のコメディー行為の脚本にナチスによる600万人のユダヤ人の大量虐殺を利用した。彼のコントでは「ホロコーストで遊ぼう」などの悪意のある反ユダヤ主義的な冗談を言い、障害者を冗談にした

この「ホロコーストで遊ぼう」という言葉は元の動画になく、「障害者を冗談にした」という部分は今は削除されている。この声明は動画を分析したものではなく、何者かのあやふやな記憶で書いたものと思われる。

この段階では、元の動画が小林氏のものだという確認さえ取れていなかった。SWCはそんな未確認情報で非難声明を出す組織ではない。これは中山氏が通報したから、その2時間後に公式声明を出したと考えるのが自然である。

中山氏が防衛省の副大臣だという事実は深刻である。非難声明が出るまでに、彼が組織委員会と協議した形跡はない。そもそもオリンピックは防衛省の所管ではない。

深夜に北朝鮮からミサイルが飛んで来たら、政府部内で協議しないで海外の政治団体に通報するような副大臣で、日本の危機管理は大丈夫なのか。防衛省は事実関係を調査すべきだ。