「公設民営の光通信網」を全国に展開すべし - 松本徹三

松本 徹三

「公共投資によって光通信網を全国に展開すべし」等と言うと、「あんた、いつからケインジアンになったの?」と池田先生に嘲笑されそうですが、私はこのことについては相当に本気です。「公共投資が現在の経済問題を解決する手段の一つとして有効か無効か」などということについては、専門外の私はもとより議論するつもりはありません。そうではなく、無責任かもしれませんが、「どうせ日本版のニューディールと称して或る程度の公共投資はやるのでしょう? また、地方活性化の為の施策も色々と考えるのでしょう? れなら、道路や役にも立たない箱物よりも、光通信網を一挙に拡充することを、国の施策として考えてくださいよ」というのが、私の提言の趣旨です。


先回のブログでも申し上げましたが、光通信事業は現在はNTTの独壇場です。「これまでのメタル回線とは異なり、光回線は『8本まとめ買い』してくれるのでなければ売れない」とNTTに言われると、流石に「蛮勇を奮う」ことで生きてきたソフトバンクのような会社でも手も足も出ないのです。「NTTのやり方はアンフェアだ」と叫んでみても、国がそれ賛同して適切な措置をとってくれない限りはどうしようもないのです。ですからソフトバンクはNTTに降参して、自ら光通信事業をやることは諦め、顧客がどうしても光通信がほしいという場合は、NTTの傘の下でISPとしての仕事をする道を選んだのです。

このブログは一個人として投稿しているのであり、現在私が勤務しているソフトバンクという会社に関係する論評は極力差し控えたいのですが、私はこのソフトバンクの選択は、顧客と株主と従業員に対して責任を持つ経営者の判断としては、極めて当然であり妥当なものだと考えています。国に対して主張すべきは面を冒してでも主張し続けていくべきは当然ですが、それが聞き入れられる事を前提にして、それだけに頼って経営の舵取りをするようなことは、まっとうな経営者のするべきことではないからです。

ところで、それでは何故、私が一市民として、「いまこそ、光通信網の建設を国の主導で(具体的には「公設民営」で)やるべき時だ」と考えているかといえば、第一に、別途申し上げる理由で、光通信網の早急な全国展開が国民経済上多くのメリットをもたらすと思われること、第二に、その全ての財務負担をNTTのみに求めていけば、NTTの経営を不当に圧迫することになるし、結果として、早急な全国展開は望むべくもなくなること(NTT自身による目標値の下方修正が続いていることは前回のブログに記した通り)、そして、第三に、自社の経営を最優先に考えざるを得ないNTTには、奇麗事を言っている余裕はなく、現在なされている「8本まとめ買いの要求」のような、「自社本位の要求」に固執せざるを得ないであろうと思われること、等々によります。

通信事業は、時代の先端を行くハイテク産業であるという側面と、不動産業や建設業に近い側面を併せ持っています。光ファイバーを敷こうとすれば、管路や電柱を確保せねばならず、携帯電話のカバレッジを増やそうと思えば、アンテナを取り付ける鉄塔を建てる場所を先ず確保しなければなりません。こういう仕事になると、明治以来「官営事業」として通信ネットワークを施設してきたNTTが圧倒的に有利だし、新規事業者や適正規模に達する以前の事業者には、いくらやりたくても「経済合理性から全く無理」ということが、数多く出てきます。

ですから、NTTと他社との公正競争を担保しようとすれば、こういう分野は、「民営化され普通の株式会社として、利益をあげていかなければならないNTT(和田前社長の言葉)」からは当然分離して、全く別の経営思想と経営体制によって取り組んでいくしかないと考えるのです。このことは、とりもなおさず、「NTTの階層による分離」、即ち、「0種事業体の分離によるNTTの再編」を意味します。私は、これさえなされるのであれば、NTT東西の合体や、NTTコムを含めた合体までも当然あってよいと考えています。NTTはただバラバラにして力を弱めればよいというものではなく、(と言っても、「持ち株会社」が厳然として君臨している現状では、全然バラバラになっているとは言いがたいのですが)、「真の公正競争を実現する観点からの『意味のある分離』をすることが必要」と考えています。

このあたりのことは、「階層分離による公正競争の実現」と題する昨年7月30日付の私のブログに詳しく書いたことですので、それをご参照願えると有難いのですが、私は、「競争が望ましいといっても、最終的にユーザーの負担を押し上げる結果になるような『無駄な競争』はするべきではない。例えば、道路を何度も掘り返して、重複して光ファイバーを敷設したり、風光明媚な山の中に無粋な携帯通信用のアンテナを何本も重複して立てたりするようなことは、この『無駄な競争』に該当する。通信事業者間の競争は、先端技術や画期的なサービスの導入における競争であるべきで、不動産取得や建設工事の競争ではあるべきでない」と考えているのです。

ここまででは、まだ池田先生の提言、特に「周波数を開放して無線ブロードバンドを主役にした方がよい」という論点に対するカウンターにはなっていません。そのことを論じるためには、無線通信と有線通信の方式としての得失に言及し、更に「放送と通信の融合」の問題についても言及しなければならず、あまりに長くなりますので、このことについては次回のブログに譲りたいと思います。それまでに、もしお時間があれば、「仮に電波が土地で、電波料が固定資産税だと考えたら」と題する昨年の9月8日付の私のブログをご照覧いただいておくことが出来れば、誠にありがたく存じます。

松本徹三