オバマ大統領との仮想電話会談 - 松本徹三

2009年02月24日 06:27

オバマ大統領は、大統領就任後、主要各国の首脳とそれぞれ10分程度次々に電話会談を行ったのですが、麻生首相は通訳を交えず一人でこれに応じたものの、電話会談の後で「麻生首相の英語はよくわからなかった」と大統領が側近に洩らしたとかで、漢字問題に続き、これまた週刊誌の絶好のネタになっているようです。


週刊誌の記事からだけしか判断できないので、私には真偽のほどは全く分りませんが、それは十分にありうることのように思えます。しかし、それは、何も麻生首相の英語力に問題があったということではなく、話の内容、特に麻生首相が伝えようとした「東アジア構想」なるものの中身がなかったということなのだろうと、私は思っています。一般に、「何を言おうとしているのかよく分からなかった」と言いたい時に、「彼の英語がよく分からなかった」という表現が使われることは、よくあるからです。

いくら何でも、麻生首相が外務省の幹部と相談することもなく、自分一人で考えたことを喋ったとは思えません。最低限ある程度のメモはあり、それをベースにして、「首相は首相なりに、出来るだけ自分の言葉で喋っているようにみえるように工夫したのだろう」と推測するのが常識でしょう。それでは、具体的に何と言ったのでしょうか? 私は、恐らくは、ごく常識的な、綺麗事を言ったにすぎないのではないかと推測しています。

一般に日本人は「本音」と「建前」は区別するのが当然だと考えていますし、両首脳が最初に直接話すのだからということで、当然「建前論」に終始したのであろうことは想像に難くありません。しかし、面白くもおかしくもない「建前論」を、「自分の東アジア構想」と称して、首相が精一杯印象深く聞えるように伝えようとしたとすれば、その結果が「麻生首相の英語はよくわからない」という大統領の当惑気味のコメントとなったとしても、無理からぬことだと思います。

しかし、日本にとって最重要の米国の新大統領との最初の直接の会話は、たとえ10分だけだったとしても、いや10分だけだったからこそ、首相にとっても日本にとっても、極めて重要なものだったことは間違いありません。そうであれば、麻生首相は、たとえ自分の首相としての寿命が長くないと知っていたとしても、いや、それを知っていればこそ、日米関係にとって一番重要なことを、「本音」ベースで、思い切って伝えるべきではなかったのでしょうか?

「ブログ」というものは、本来は「日記」であり、いわば独り言ですから、好きなことを呟いてよいと理解しています。この特典を利用して、「もし私が首相だったら、大統領に10分間で何を言っただろうか」と考えることは楽しいことです。私ならこう言いました。

「世界経済を一日も早く回復させる為の日米協力のあり方とか、北朝鮮問題とか、大統領と直接話し合いたいことはたくさんある。しかし、今日は、ご挨拶を兼ねてのあくまで個人的な対話だと理解しているし、時間も10分しかないので、敢えて一つのことだけをお話したい。

それは中国のことである。

西欧人は長い間、「中国は眠れる獅子。この獅子が目覚めれば、世界は震撼する」と考えてきたが、既にその獅子は目覚めた。やがて米国と中国は、世界の二大勢力として覇権を競い合うことになるだろう。日本人の中には、長年の同盟国である米国が日本より中国を重視することに嫉妬する向きもあるが、私はその反対である。私は、米国が中国との関係の緊密化を何よりも重視するのは当然だと考えているし、良好な米中関係の確立を誰よりも強く望んでいる。

日本は歴史的に中国の文化圏の中にあった。最近の一時期、日本人の中に中国蔑視の風潮が広がり、中国人の間にも日本を侵略者として敵視する動きが加速されたが、これは一時的なものであると思う。日本人と中国人の間には、本質的に極めて友好的な相互理解が育つ素地があると私は考えている。国内で多くの改革を断行した小泉元首相の路線を、私は基本的に踏襲するつもりであるが、日中関係については、彼の誤りを踏襲するつもりはない。私は福田前首相同様、日中関係の緊密化に全力を尽くす。

さはさりながら(Having said this, however)、私は中国に対する警戒心を一日もおろそかにすることは出来ないでいる。先ず、日本経済は既に中国に大きく依存しており、この流れがこのまま加速されていけば、やがては危険なレベルになってしまうということが、私の懸念事項だ。かつては「米国がくしゃみをすれば日本は風邪を引く」と言われたが、このままいくと、「中国がくしゃみをすれば日本は肺炎になる」という状態にまでなりかねず、そうなると、日本の内政と外交も、中国の影響を強く受けることになりかねない。

次に私が懸念しているのは、今後の世界規模での資源獲得競争における中国の優位性である。中国は既に、欧米諸国や日本に引けをとらぬ財務力と技術力を持っており、それに加えるに、『植民地支配は受けたことはあってもしたことはなく、あなた方と同じ有色人種で、発展途上国の一員だ』という殺し文句を持っている。その上、『どんなに劣悪な環境下でも、現地人と一緒になって働ける労働力』も併せ持っている。これは発展途上国の好感を得る上で、極めて大きいことだ。

ここまでは、米国も共有するであろう『一般論としての懸念』だが、日本の場合は、尖閣列島などの領有権の定まらぬ海洋地域での、海底油田などの資源を巡る中国との紛争の可能性が、大きな具体的懸念事項である。日本が現在の憲法に縛られている一方で、今後中国が海軍力の飛躍的増大を計るよう可能性があることを、私としては深く憂慮せざるを得ない。

米国が今後中国との更なる関係緊密化を考えていく上で、常にこのことを頭の隅に置いておいて頂ければ、誠にありがたく思う。」

日本の首相がこのような話をしたとすれば、仮にその英語の発音が麻生首相よりはるかに悪かったとしても、オバマ大統領は「彼の英語は良くわからなかった」とは決して言わなかったと思います。彼は、「日本の首相は、最初の個人的な会談の中で、何故わざわざこのことだけを言ったのであろうか?」と、しばし沈思黙考したと思いますし、以後決して日本の首相を軽視することはないと思います。

とりたてて「東アジア構想」などと大上段に振りかぶる必要はありません。「あなたがかつて住んだことのあるインドネシアは、アジアで最大の産油国であり、且つ、世界最大のイスラム教国でもあることをお忘れなく」等とわざわざ言う必要もないし、「いいですか、中国といずれ覇権を競い合う米国は、日本を最大のパートナー(味方)として重視すべきです。ポール・ケネディーが『文明の衝突』の中で予言したように、もし日本が最終的に中国側についたらどうするのですか?」等と言う必要もありません。10分間の会話の中の一言一句は、それが率直で真剣なものである限りは、たとえそれが事実関係をただ淡々と述べるだけのものであったとしても、メッセージとしての十分な重みを持ち、数多くの意味深い示唆を与えることになり得るのです。

松本徹三

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