ポルトガルから - 松本徹三

松本 徹三

ロンドンでのIRのミーティングに赴く途上、実質二日間の休暇をとって週末をこれに加え、ポルトガルでのんびりさせてもらいました。

何故ポルトガルかといえば、暖かそうなこと、これまで一度も行ったことがなかったこと、一度本場のファドを生で聴いてみたいと思ったことなどによりますが、「BRICsの雄で世界有数の多民族国家でもあるブラジルの旧宗主国のことを、少しは知っておこう」という気持も若干はありました。


ポルトガルはずっと社会党政権下にある国であり、国民一人当たりの平均所得は低く、経済的な活気はありませんが、かといって、貧困のもたらす問題もあまり見られません。失業率は8%と高いのですが、世界中が不況のさなかにある昨今では、さして気になるレベルでもなく、むしろ「のんびりした気風の国民には住みやすい国なのではないか」というのが私の第一印象でした。「社会主義的な試みの挫折」を何度も見てきた私は、日本では社会主義的な政策を支持する気にはとてもなれませんが、「ポルトガルのような国ではこれでよいのかな」とも思いました。

(尤も、この国でのオペレーションを縮小せざるを得なくなり、従業員の解雇で苦労せねばならなかったと聞く矢崎総業さんは、また別の意見をお持ちかもしれませんが…。)

日本がこの国に倣うべきことも少しはあると思いました。その一つは消費税の税率です。この国では、贅沢品に対する税率は20%の高率であるに対し、食料品や公共の交通機関の利用料などは5%という定率であり、その中間が12%と三段階の税率に分かれています。日本でもこういう区別が当然あってよいと思うのですが、何故そういう議論がないのでしょうか?

ところで、EU内の各国の国民一人当たりの所得は、全国民に対するホワイトカラーの比率、特に金融関係の仕事をしている人達の比率が高いルクセンブルグがずば抜けており、デンマーク、ベルギー、ドイツ、英国などがこれに続き、農業大国であるフランスはやや落ち、イタリアはその下、そして、スペイン、ポルトガル、ギリシャ、それに最近EUに加盟した東欧諸国が底辺を形成しているようです。

農業や製造業に対し、サービス産業の比率が年毎に高まっているのはどの国でも同じですが、結局のところ「割がいい」のは金融業で、情報産業や大型の製造業がこれに続き、農業は効率がよければ「まあまあ」の収入、これに対し、一般的なサービス業を含む「その他の仕事」は、人口の多い国ほど競争が激しくなって、一人当たりの平均所得を下押ししていることが分かります。

食後酒として珍重されているポルトワインやコルク以外には、これといった輸出商品もないポルトガルは、今もヨーロッパ各国に出て行く出稼ぎ労働が国際収支の支えになっていると聞いています。しかし、そのポルトガルに、最近はウクライナからの出稼ぎ労働者が押し寄せてきていて、きつい仕事、汚い仕事、危険な仕事を一手に引き受けているようです。また、言語が同じことから、ブラジルからポルトガルに来る出稼ぎ労働者も結構いるようです。

このように、欧州各国の社会構造は、国境を越えて出入りする出稼ぎ労働者の存在なくしてはもはや語れない状況ですが、やがては、日本も、その埒外というわけにはいかなくなるでしょう。

中国や東南アジア諸国からの出稼ぎ労働者の流入を規制し続けるか、或いは一転して積極的な導入を図るかは、賛否の分かれるところです。私自身も、率直に言って、現時点ではどちらがよいかよく分かりません。しかし、早晩、その得失をよく考えて、何らかの決断をしなければならない時が来るでしょう。その意味で、海外諸国の現状と問題点は、今からよく勉強しておくべきと思います。

松本徹三