財政拡大の話が出てきていますが・・・ 前田拓生(大学教員)

2009年11月23日 09:06

内閣府発表の平成21年7~9月期のGDPは年率換算で4.8%増と2四半期連続のプラス成長ということでした。これは麻生政権の補正予算による効果なので、今後の経済を考えれば、かなり寒いように感じます。これは現状の政府も感じているところであり、ここにきて補正予算の話が盛り上がってきています。でも果たして「拡張的な財政政策(つまり、「バラマキ」)」が本当に経済に良いのでしょうか?


答えとしては「NO」ということになります。この点についてお話します。
ところで、基本的な話ですが・・・このGDP、これって一体何でしょう?

これは「国内総生産」といわれるものです。ただ一般に「生産」「所得」「支出」は「三面等価の原則」により(事後的には)等しくなることから「国内総所得」と考えても問題はありません。

この「国内総所得」ですが、定義としては下記のようになっています。

国内総所得=雇用者報酬+営業余剰+固定資本減耗+(間接税-補助金)

これを多少強引に「通常の言葉」で書き換えれば、下記のようになります。

  • 「雇用者報酬」とは「賃金や給与」であり、「家計部門の儲け」に当たります。

  • 「営業余剰」とは「企業の利益」であり、「企業の儲け」に当たります。
  • 「固定資本減耗」とは「減価償却費」のことであり、「企業の内部留保」に当たります。
  • 「間接税―補助金」とは「政府に入ってくる税金から、政府が支払う補助金を引いている」ことになるので、プラスの数字であれば「政府の儲け」に当たります(政府なので「儲け」は用語として適切ではありませんが・・・)。

以上から、「国内総所得」とは、それぞれの経済主体(家計、企業、政府)の「儲け」を足し合わせたものということになります。

つまり、GDPが減少していると言うことは、各主体の“儲け”が減少していることを意味します。これは大変ですよね。だから、政府は「何とかしないといけない」ということで、いろいろと追加的に経済対策を打っているのです。

この場合、企業の利益を高めるには売上が高まれば良いわけですから、消費が喚起されれば、企業の売上が伸びると思われます。とはいうものの、特に先進国においてはモノが余っているので、企業が頑張ってみても、なかなか消費に結びつかないのが現実です。

とはいえ、何らかの形で家計の可処分所得が増加すれば、たとえ、モノが多少余っていても消費が伸びるという可能性もあります。

そこで「消費を伸ばす」ということを考える場合、思い浮かぶのが「ケインズ型消費関数」という考え方です。「ケインズ型消費関数」は下記のような式で表すことができます。

C=A+cY (但し、C:消費、A:基礎消費、c:限界消費性向(0<c<1)、Y:可処分所得)

この関係が正しいと仮定すると、可処分所得(Y)を増やすことができれば、その増加分に限界消費性向cを乗じた額だけ消費Cを増やすことができることになります。ということから、政府は借金をして家計に定額給付金というおカネを配ることにより、家計の可処分所得を増やすことにしたわけです。

しかし、ここでの問題は「限界消費性向が一定」と仮定していることです。確かに限界消費性向に変化がなければ、可処分所得が増えた分のいくらか(限界消費性向分)は消費として使われることになります。ところが、現下の不況(というよりも「恐慌」)の状態において、平時と同じように消費をすると考えるのは困難と言わざるを得ないと思います。

なぜなら、現状において可処分所得が増加した場合、貯蓄率を高めようと努力することはあっても、消費を増加させようとは思わないはずですから・・・。

これは、つまり、「限界消費性向が低下する」ということを意味するので、その場合には、たとえ、降って湧いたように可処分所得が増えても、その増加の多くが「貯蓄」に回ってしまうため、消費は思うように増えないことになります。まして、この「降って湧いたようなおカネ」は、結局、数年先に予定されている増税によって支払うことが決まっているおカネです。そのようなおカネを「増えたから」と言って、そうそう使うわけにはいきませんよね。

さらに、現在の政府債務残高は現在の名目GDPの1.7倍になっています(一般政府のみ)。

つまり、そうでなくても増税になりそうな状態において「さらに(国債発行を)増額」ということになっているのだから、限界消費性向はますます低下することになるでしょう。

けれども、「貯蓄が増加している」とすると、どこかに資金は移動していることになります。その行きつく先が「企業の設備投資」になっているのであれば、家計消費にならなくても、企業投資になることを意味するので、GDPを増やす方向に役立つことになります。

一般に「家計の貯蓄」は金融システムを通じて「企業の投資に向かう」と考えられることから、家計の可処分所得が増加すれば、上述の「限界消費性向」が低くなっていたとしても、国内経済全体を考えれば、GDPの増加要因になると考えられています。

ところが、この「金融システム」に問題があるのです。

日本では家計貯蓄の大半が「現金」「銀行預金」になっています。つまり、多くが銀行等に流れ込んでいるのです。したがって、銀行等が企業に貸出をドンドンと行えば、資金が企業に流れ込み、企業投資が増加することにより、GDPを押し上げることになります。けれども、実際にはそのような状態になっていません。

少し前の日銀短観(2009年3月調査)によれば、大企業および中小企業ともに、金融機関の貸出態度が厳しくなったという回答が増加していることがわかります。

銀行等は企業への貸出を増やさずに何をしているのでしょうか

リーマンショック前であれば、外国証券等で運用をしていたのですが、最近は国債などで運用しているものと思われます。以上から、資金循環は下記のようになっているようです。

政府は借金(国債)をして資金をつくる。 家計は、政府から定額給付金などを受け取り、可処分所得が増える。 しかし、家計はそれを消費せずに銀行等に預ける。 銀行等は企業への貸出をするのではなく、国債を購入する。

ここで「政府の借金」は、それ、すなわち「家計の借金」ですから、それを考慮すれば、家計はおカネを借り入れて、それを将来返済するために預金にしているということになります。つまり、全く意味のない「おカネのバケツ・リレー」を国家レベルで行っているだけということになります。

ここから見えるように、現状の日本において必要な政策は、家計に使われず残っている「貯蓄」を「如何に消費に回せるか」ということになります。銀行等が当てにならない以上、家計に貯蓄を使わせる方向で政策を考えなければ、いつまで経っても「おカネのバケツ・リレー」は終わらずに、景気回復もないままに、政府債務だけが積上がることになるでしょう。

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