政府の考えている“適切な為替政策”って、どうよ?!  ―前田拓生

前田 拓生

再び円相場が動き出しました。ドバイショックにより円高の際、藤井財相が介入を匂わす発言をしたことから90円/ドル台まで戻し、そのまま落ち着くかに思われましたが、ここ数日は、円高気味に推移しています。


一般に為替レートの変化は、おおよそ5つの経済指標の変化により、説明することができると考えられています。つまり、単純化すれば、以下の式が成り立つことが知られています。

為替レートの変化=α+β1×(金利差の変化)+β2×(国民所得差の変化)+β3×(相手国のリスク度の変化)+β4×(経常収支の変化)+β5×(予想物価上昇率差の変化)+誤差項

ここで、α:ある定数、β1~β5はそれぞれの経済指数の変化における係数。

上記の式から、それぞれの経済指標が変化した場合、為替レートは理論的に、以下のように変化することになります(変化する経済指標以外は一定と仮定しています)。

1.日本の金利が今後上昇するのであれば、円の価値は増価するので、為替レートは円高方向に動く。

2.日本の国民所得が増加する(景気が良くなる)のであれば、円の価値は増価するので、為替レートは円高方向に動く。

3.米国などの他の国のリスク度が高まる(相手国の地政学的リスク等が高まる)のであれば、円の価値は増価するので、為替レートは円高方向に動く。

4.日本の経常収支が黒字になるのであれば、円の価値の低下リスクが少ないという意味で、為替レートは円高方向に動く。

5.日本の物価が今後低下するのであれば、円の価値は増価するので、為替レートは円高方向に動く。

これはファンダメンタルズからの説明であり、また、経済指標はそれぞれ単独で変化することも少ないことから、この式のみで判断することはできませんが、参考にはなると思います。

ということで、式に基づいて考えれば、白川日銀総裁が「広い意味では量的緩和」と言っていますが、実質的には単なる金利政策であり、米国のような量的緩和政策とは違うということから、「1.」より円高。さらに、バーナンキFRB議長の「(米国経済は)恐るべき向かい風」という発言から、「2.」より円高と判断できます。「3.」および「5.」は両国にとっての影響がイーブンとしても、「4.」より円高ですから、総合判断として「円高」に動いて当然という感じになっています。

このような中で、藤井財相は介入を明確に否定しています。実際、世界的な不況下において日本だけが単独介入で円安誘導することは難しいので、発言自体は正しいといえます。とはいえ、金融当局が始めから「介入はやらない」と言ってしまえば、投機的な動きを活発化させるだけです。実際にやらない限り、世界的な批判を受けることはないのだから、常に「介入はやるかも」というファイティング・ポーズは取っておく必要があると思います。

このままであれば、ファンダメンタルズ&資金フローの観点から円高気味に推移する可能性が高いと思われます。85円/ドル台に入ってから慌てて市場に対して発言するのではなく、常に市場を意識した“適切な為替政策”を行ってほしいものです。