まずは日本経済の「いのち」を考えるべき  -前田拓生

2010年01月30日 10:25

施政方針演説では「いのちを守る」がテーマであったことは良くわかりますが、肝心の「政策」については方向性さえイマイチよくわかりませんでした。特に財政問題については「目標としていた新規国債発行額約44兆円以下という水準をおおむね達成することができました」と述べているくらいですから、全く、現状の財政的危機を理解していないようです。

格付け機関であるS&Pは、今年1/26に、日本国債の格付けを引き下げる方向で検討に入っているそうですから、このような施政演説をしているようでは、早々に引き下げる可能性もあると思われます。

とはいえ、日本国債の格付けが引き下げられても、ほとんど外国人投資家は日本国債を購入していないので、大きな影響がないように思われるかもしれません。

しかし実際には、そうとはいえないと考えています。

現状、日本国債は日本銀行、および、邦銀等の金融機関がその多くを保有しています。ここで日本国債の格付けが下がると、日本国債の実質的な価値が低下することになるので、それを保有している主体の資産価値も下がることになります。つまり、日本銀行の資産価値が下がることによって、円の価値が低下し、円安になる可能性あります。また、邦銀等の金融機関の資産価値が低下すれば、対外的な信用力が下がることになるので、北海道拓殖銀行や山一証券が破たんした際に良く話題になった「ジャパン・プレミアム」が発生し、邦銀等は世界的に資金繰りが難しくなることが考えられます。

一見「円安」は輸出業者にとって有利に働くため、景気に貢献しそうですが、資源の乏しい日本においては、輸入を無視して為替の経済効果を考えることはできません。

輸入において「日本売り」のような場合の円安は、貿易相手国が「円」を嫌うため、ドル等の外貨資金が必要になります。ところが、邦銀等にジャパン・プレミアムが付いてしまうと、国内的に外貨の入手が難しくなることから、為替市場において大量の円が売られることになります。そうなると先安感の強い通貨は誰も欲しがらないことから、さらに一層、下落していくことになるので、邦貨建ての輸入品価格は途轍もない値段に跳ね上がってしまうことになります。

このように、日本においては食糧・エネルギーのほとんどを海外に依存しているので、政府が「財政」に対して無頓着であれば、その結果として、日本人の「いのち」に関わる商品(食糧・エネルギー)の価格上昇を招くことになってしまいます。しかも、“今”、その危険性は非常に高い状態にあるので、「世界のいのちを守りたい」という前に、やるべきことは他にあると言わざるを得ないのではないでしょうか。

にもかかわらず・・・

財政については「責任ある経済財政運営を行う」というだけであり、結局のところ「中長期的な財政規律のあり方を含む財政運営戦略を策定し、財政健全化に向けた長く大きな道筋をお示しします」ということで、結論としては、単に「先送り」しているに過ぎません。

また、「デフレの克服」としては「日本銀行と一体となって、より強力かつ総合的な経済政策を進めてまいります」ということで、日銀に「何か」を期待しているようですね。しかも、引き続いて行われた菅副総理兼財務相の経済演説でも「適切かつ機動的な金融政策の運営によって経済を下支えするよう期待する」と述べています。

果たして、現状以上に、日銀に何を求めているのでしょうか?

「量的緩和」のようなことを考えているのでしょうが、全く的外れであり、たとえ現状で日銀が量的緩和に踏み切っても事態は「悪くなる」ことはあっても、良くなることはないと思われます。そもそも「金融」は実体経済に対するサポートはできても、実体経済を浮上させる力はありません。それなのに「貨幣量」だけを増加させてみても、変なバブルを起こすだけであり、さらに悪くすると、上述の通り「日本売り」を加速させ、日本人の「いのち」を危うくすることになるかもしれません。

現状の日本経済において「財政問題」は、すでに「中長期」などという時間はありません。早急に何らかの手を打たない限り、日本経済の「いのち」は助からないと思います。

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