市民セクターの閉鎖性-松本孝行

松本 孝行

 年末に投稿しました、社会起業家の誤った認識に、たくさんの反応をいただきました。特に堀江貴文さんがブログに取り上げていただいたこともあり、社会起業家とは何か、社会起業家と言う生き方は是か非か、という議論が起こったように思います。

 それ自体、私は大変うれしかったのですが、残念なことに肝心の社会起業家や社会起業家支援者、NPOなどの反応があまり芳しくありませんでした。


 堀江さんや他のブロガーの方たちが社会起業家にネガティブな反応を示したことで、「IT起業家にはわかりっこない」とか「あいつらとは違うんだから放っておけ」という声も多く、社会起業家やそれを支援する市民セクターの人たちの内向きな反応は大変残念に思います。

 しかしこういった反応というのもある意味当然かもしれません。NPOについては特にそうですが、元々内向きな組織が大変多いのが特徴です。例えば、NPOを構成しているメンバーの所属を見てみると、面白い事実がわかります。内閣府のNPOホームページにある、市民活動団体の活動・組織運営等(PDF)を見てみます。

 例えば、一つの区市町村の区域内での活動しか行っていないという回答が54.7%と半数を超えています。これは日本のNPOや市民活動は非常に狭い範囲で行われている場合が多いことを指していると言えるでしょう。また、メンバーの個人宅や勤務先等に事務局を置いていると答えた割合が52.5%とこれも半数を超えています。市民活動というよりも、個人やサークル活動に近いと言えるかもしれません。

 そして面白いのがスタッフについてですが、常勤スタッフを全く抱えていないという回答が60.4%と6割を超えています。また、女性が多い団体が53.3%男性が多い団体が27.3%となっており、NPOなどの市民活動は女性が中心に行われているのです。

 一番面白いのが、年齢構成と職業です。年齢構成を見てみると、30代以下の常勤及び非常勤スタッフを抱えているNPO・市民団体は20%以下です。逆に60代以上のスタッフを抱えているNPO・市民団体は55.7%と半数以上となっています。職業を見ても、一番多いのが家事従事者で次が年金生活者・定年退職者と成っています。

 つまり、今の日本におけるNPOや市民活動団体の所属する市民セクターは小さな団体が乱立し、活動範囲を狭く設定し、そして老人と専業主婦によって構成されているのです。そんな市民セクターが今回のような社会起業家の議論に乗ってこないのはある意味当然なのでしょう。自分たちの仲良しグループ以外の活動には興味がない、そういうことなのかもしれません。

 アメリカでは700億ドルの規模を持つ基金、ビルアンドメリンダ財団がNGO・NPO、社会起業家に資金援助をしています。この基金は世界一の富豪であるビルゲイツが親・兄弟の勧めによって設立したものです。その後、ビルゲイツに継ぐ富豪のウォーレン・バフェットもこの基金に寄付を出しています。ビルゲイツが400億ドル、バフェットが300億ドル出してくれたおかげで、アメリカでは市民活動が活発です。

 藤田さんや堀江さんが言う「お金をたくさん儲けて、その後社会貢献に使う」という方向性はまさにこのビルアンドメリンダ財団と同じ方向性です。この考え方に反発して、どうして日本の社会起業家・NPOが活動を広げられるのでしょうか。NPOを初めとした、市民セクターの方々にはもっと広い視野を持って活動して頂きたい、そう願います。

コメント

  1. mochibb より:

    NPO法人法の問題や、寄付行為にかかる税制の問題を無視してNPOが閉鎖的であると論ずるのには相当の無理があるように思います。
    このあたり、ご存知なのでしょうか。
    わたしがやっているNPOではNPO法人法上の「収益事業」の定義が税法上のそれと違うため、税制上NPOとしてのメリットがまったくありません。寄付行為への課税についてはいうまでもありません。法的に、欧米のNPOと比べた場合、手足をもぎ取られたような状態で活動しているという現実があることを知っていただきたい。
    そして現在NPOを立ち上げている人たちは、そのような閉鎖性に立ち向かいNPOを設立したのであって、自ら閉鎖性を作り出しているのでは断じてありません。

  2. 松本孝行 より:

    >>mochibb さん
    おっしゃるように、NPO法は不完全ですし、寄付金控除もアメリカのように大きく認められていません。
    ですが、今回の社会起業家に関する言論について意見表明することはNPO法も寄付金控除も関係ありません。にもかかわらず、「彼らとは分かりあえない」と言い、自分たちの殻に閉じこもる体質は一体なぜでしょうか?
    私はそこを問題点として指摘しているのです。法律云々の話はまた別の話で、なぜ自分たちと意見を異にする人たちを排除するのか、そこが論点なのです。

  3. jij999 より:

    NPOの人にもcool headな人はいます。

    そもそもNPOも株式会社も根本的には(会計学的には)同じで、収支トントンにするか利鞘を上げるか赤字になるかは、気象学のように不確実です。「生産者の動機・目論見」、「消費者の評価・結果」というものは事後と事前では違うことのほうが多い。自治体や政府やそれらと懇意な衛星団体によるモラルハザードがいい例(最近ではJALやアメリカの金融)。

    税制が違うことが大きな違いで、制度間の歪みをつけすぎると、税金ロンダリングがおきたり、実態経済がわるくなる。マクロ的には(事後的な)NPOばかりになると、物質的な生産性・成長はとまり(精神的な充足感は高まるが)社会保障の収縮が始まる。

    社会保障はそもそも税金や所得から引かれた保険料なわけで、健保組合(大企業)や法人税などの税金から、協会けんぽ(中小企業)や国保(個人)や後期高齢者医療保険の数兆円の支援金・原資となっていることを知らない人が多い。

    NPOの人の志は崇高だと思うけれども、精神的な報酬以外は期待しないことだ。実業家や資本主義を安易に批判するということは自分の首をしめることだ。
    http://agora-web.jp/archives/825869.html
    http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51347193.html

  4. quolac9 より:

    NPOというものを一からげにしすぎではないですか。

    高齢者と専業主婦の無給ボランティアが主体の小規模なNPOと、比較的若手の有給メンバーが企業的経営をしているNPOは、目的にしても組織にしてもかなり別物ではないかと思います。

    その前者に今更、企業経営的な考え方を受け入れろといっても無理でしょう。後者が今後伸びてくる、きてほしいということと、前者に変われというのは別の話のように思います。どうも議論が途中でずれている気がします。

  5. mochibb より:

    松本さま

    失礼を承知で一度だけ返信をさせていただきます。ご寛容にお願い致します。
    わたしが言いたいのは、語る順番が逆ではないかということです。
    利用にメリットのないシステムが普及するわけはありません。
    内向きな方や組織が多いのであるとすれば、そのような方々にメリットがあるシステムだからでしょう。

  6. disequilibrium より:

    一部の団体にだけ、税制上の優遇措置や、補助金を与えるのは負のインセティブを生みます。
    株式会社にしろ、NPOにしろ、宗教法人にしろ、平等に扱わないのはただの不公平です。

    当然、不公平なシステムを作れば、そういった人間が集まりやすくなります。
    私はそんなものに伸びて欲しくはないですね。

  7. jij999 より:

    本当はNPOに特別扱いは無用だ。人間の文化活動を目的とするならば、フリードマンのいうように法人税などは廃止すべき。組織が必要とされるか否かは、消費者・受益者が決めるべきだからだ。消費税や固定資産税や住民税、所得税だけでじゅうぶん。

    株式会社や相互保険や農協、信用組合、信用金庫、労働金庫、生協、民間の医療・福祉法人だけに税をかけるのは卑怯だ。

    「自治体」とか「公社」や「独立行政法人の病院や大学、研究所、教育訓練所」、「私立大」、「公立学校」には課税されないが、それが本当に社会に必要とされ機能しているかについては、相対的に考えて疑わしい事例が多い。さらに、自治体などは法的な権力を持ち、住民は簡単には移動できないので、より透明な経営が求められるが、元会計士の私から言わせて頂くとそれらはかなり怪しい。

    寄付金や株式の配当に課税するなどといったことをするから、1648年以来のデカルト・カント・ヘーゲル・マルクス的な国民国家主義といった妄想に騙され、奨学金制度・高等教育制度が発達せず、非文化的な人間が増長するのだから。

  8. 松本孝行 より:

    >>jij999 さん

    私は精神的な報酬以外を期待できると信じていますが、実業家や資本主義批判はNPOの方々や社会起業家はすべきではないと思っています。ある種、彼ら実業家や資本主義があるからこそ、NPOなどは活躍する場があるものだと思っています。

  9. 松本孝行 より:

    >>quolac9 さん
    十把一絡げにしているというよりも、実体として多くが専業主婦・高齢者のサロン化しているという事実を上げているだけであって、彼らがこういった議論に入ってこないのも当然だという事実認識を紹介しているだけです。
    どちらかというと、私も若い人たちが活躍している事業型NPOや社会起業家に期待しており、できれば今の市民セクターの構造を変えてほしいと思っています。

  10. 松本孝行 より:

    >>mochibb さん
    ぜひどんどんご意見いただけると助かります。
    つまり、内向きな人たちが集まるためのシステムを内向きな人たちが主導して作ったということでしょうか。設立にそういった人たちが関わったのかどうかはわかりませんが、システムを変えればそういう人たちを一掃できるということでしょうか。
    しかしそれであれば、なぜ社会起業家や事業型NPOを行う若い人材が出てきたのか、説明がつかないと思うのですが…

  11. 松本孝行 より:

    >>disequilibrium さん
    私もその意見には同意です。NPOだからといって甘やかせる必要はありません。
    民主党はNPOに雇用してもらえるよな仕事を与えるらしいので、甘やかせてしまうようですが…

  12. 松本孝行 より:

    >>jij999 さん
    おっしゃる通りだと思います。
    NPOも儲けて、税を納め、社会に貢献するということも重要な役割かと思います。特別扱いはなるべくしないようにすべきでしょう。

  13. jij999 より:

    >>松本孝行 さん
    >>私は精神的な報酬以外を期待できると信じていますが、

    ええ、私も信じています。私の言いたいことは、そもそもNPOも政府も大学も研究所も株式会社もみな「NPO」ということです。たくさんの良心的な出資者を募って、市場調査を行い、最新の技術を使えば、金銭的な報酬なども含めたリターンはまだまだあるでしょう。

    http://www.npo-homepage.go.jp/
    http://www.jrc.or.jp/contribute/qa/index.html
    http://www.npo-homepage.go.jp/pdf/nintei-voice-6.pdf

    例えば、赤十字と恩賜済生会などは税優遇があるのに、何故民間の医療施設のそれはないのか?何故政府が事前裁量的、恣意的、adhocに認可するのか?「価値」は消費者・受益者が決めるのです。法人税で40%盗られ、配当にも課税される株式会社の二重課税をご存知でしょうか?こんな不公平はありません。