グルーポンは食物連鎖の頂点に立つか @sorahikaru

渡部 薫

昨年末に「2009年ウェブの最大ニュースはマーク・アンドリーセン」という記事を書いた。アンドリーセンはFacebookの取締役でもあり、RockMeltでソーシャルブラウザをリリースし、Andreessen Horowitzは、現在最も注目され影響力を持つベンチャーキャピタルのひとつだ。

アンドリーセンだけでなく、Google のブリンやペイジ、Twitterのエバン・ウィリアムズなど70年代生まれがウェブ経済圏で影響力を増している。WikiLeaksのジュリアン・アサンジも71年生まれだ。

さらに80年代生まれのFacebookザッカーバークを筆頭に、新しい世代のベンチャー経営者が登場しウェブ社会の仕組みを作っている。TIME誌は今年の人にザッカーバーグを選んだようだが、僕が今年のウェブで最も影響力があった人に選ぶのは、文句なしにGrouponアンドリュー・メイソンだ。


Groupon。一言で言えば、クーポンサービスであるが、これを単なる新しいクーポンサービスと侮ってはいけない。このサービスとビジネスモデルこそが、ウェブ社会の新しい産業の形であるかもしれないからだ。Grouponをすでに使ったことがある人は多いだろう。(僕もよく使う)史上最速のベンチャー企業と謳われ、ベンチャーの世界にもリアル社会にも衝撃を与えたことは記憶に新しい。日本でもグルーポンコピーサービスは300を超えたのではないだろうか。文字通り、この手のサービスはすべてグルーポン系と言われるようにグルーポンが圧倒的なブランド力を持っている。ここではグルーポンについて説明はしないので、もっと知りたい人はこのリンクを参照してほしい。

グルーポンとは

グルーポンのビジネスモデルを批判する人も多いし、その効果に疑問を持っている人も多いだろう。まあ、そのあたりは僕にとってはどうでもいいことで、それよりももっと重要なことに目を向ける必要があることを書いておきたい。それは、

「なぜGrouponのようなビジネスモデルが成り立つようになったか?」という問いだ。

共同購入と何が違うのか、オークションと何が違うのか、リクルートのホットペッパーと何が違うのか。GoogleのAdwordsのようなオンライン広告と何が違うのか。そうした問いに答えを求めなければならない。

僕はGrouponのビジネスモデルを見て直感的に食物連鎖の頂点に位置する捕食者を思い出した。

食物連鎖(Food chain)とは、生物群集内での生物の捕食(食べる)・被食(食べられる)という点に着目し、それぞれの生物群集における生物種間の関係を表す概念である。

僕のプレゼンを聞いたことある人なら知っているかもしれないが、2004年ごろから情報というのは、遂に人間の食料となったと言ってきた。情報は人間が消費する対象となったのだ。わかりやすくいうと19世紀以前、人間は食料を消費し、20世紀は商品を消費し、21世紀は情報を消費するようになる、という意味だ。

情報を消費する時代になると何が起きるかというと、おいしい食事よりも、かっこいいスポーツカーよりも、テレビよりも、人は情報に飢えるのである。そう、これが俗にいうモバイルインターネット社会である。小中高校生に聞けばいい。一番ほしいものはなにかと。ケータイだ。本質を言えばケータイでつながる友だち(ソーシャルグラフ)と情報がほしいのだ。

食物連鎖の話に戻る前に、アンドリーセンを始めとする70年代の話をしよう。去年の話と今年の話はまったく違う話ではなくつながっている。僕も70年代生まれだが、世界的にこの70年代生まれの人たちは、マイクロソフトを使いこなすことができる。そして青春時代から社会人になり始めのころにケータイに触れて、インターネットの初期の時代から生活の一部に組み込み、知らず知らずのうちにインターネットライフスタイルを身につけている。実はこれがとても大きい。そして今作られているほとんどのウェブサービスが70年代や80年代のクリエティブな才能から生まれている。僕がオールド世代と呼ぶ人たちはライフスタイルにウェブを組み込んでいない人たちのことだ。戦後で言えば、テレビにもクルマにも興味を持たなかった人たちだ。だから今のオールド世代はテレビ至上主義なのだろう。

70年代と言えばだいたい上は40才で下が30才くらいだ。ちょうどビジネス社会の現場で最も影響力と行使力を持った世代である。残念ながらまだ経営力を持っていないので世の中を変えるにはあと10年、時間がかかる。しかし日々のライフスタイルはどんどんウェブ化されるだろう。情報格差とはウェブライフスタイルを送る人とそうでない人を指すべきで、光回線やモバイルのインフラの差ではない。

情報世界の食物連鎖を江戸時代の士農工商に例えて説明してみよう。

士農工商とは

現代ではこのような身分制度はないが、士を政治家、農を生産者、工をテクノロジー(技術者)、商をビジネスと置き換えよう。
インターネットの時代では、明らかに、工商農だろう。(士はいらない)

Grouponというテクノロジービジネスついて考えたい。

◆生産者
20世紀までなら、まず農業という生産者がいた。農家は農作物を数ヶ月におよぶ作業を経て、(そして時には天候という理不尽な影響を受け)市場に届ける。市場ではオークションにかけられる。よほど農作物にブランド力がなければ需要と供給のバランスに翻弄されるビジネスだ。売れる前に投資しなければならない設備と時間が膨大である。

◆サービス提供者
レストランは、市場から最も自分のレストランに適した食材を選ぶことができる。レストランでは食事だけでなくその場の雰囲気など食事、空間、時間を提供する。農業に比べれば初期設備投資も料理を提供するまでの時間も圧倒的に短いため、リスクはだいぶ軽減された。レストランにとって農家(市場)は仕入れ先である。

◆情報提供者
ホットペッパーはかなりうまくビジネスモデルを作ったと思う。東京など都市には無数にレストランがあり競争が激しい。いかにお客様を連れてくるか獲得コストがかかるのである。レストランは広告費という経費をかけてお客を集める必要がある。レストランにとってリクルートはしかたなくお金を払う対象であり、リクルートにとってレストランはお金を払ってくれる大事なクライアントである。この両者はリクルートの方が立場が強いように見えて実はほぼ対等である。

◆新しい捕食者
Grouponとレストランの関係を見てみよう。Grouponがレストランに提示する条件はレストランの仕入原価である。1000円の料理で、材料原価が250円ならそれを元に100%の利益を乗せ、500円で消費者に売るのである。消費者から見ると1000円の料理が50%割引の500円で食べれるのだから衝撃的だ。レストランにとっても、原価を提供するだけでリクルートのように広告費という余分な経費を払っているわけでなく、250円にしても売り上げになるのである。

さて、農家は市場でオークションにかけられるが、売るために広告費をかける必要ない。売れた分売り上げだ。コストが回収できるかは別問題である。レストランにとって仕入れ原価の料理が原価にGrouponの利益を上乗せされ売られても売れた分は売り上げだ。レストランにリピーターが来るかとか原価以上に回収できるかは別問題だ。

★Groupon にとってレストランは仕入れ先

Grouponにとってレストランは情報食材の単なる仕入れ先である。例えばこの東京という都市全体がレストランクーポンの市場のようなものだ。レストランが市場で最も最適な食材を選ぶように、Grouponは都市で最も最適な情報食材を選ぶのである。

もう一度言おう。Groupon にとってレストランは仕入れ先。

Grouponは大規模な農場も設備も農機具も持っていない。天候の影響を受けることもない。レストランを開く場所を借りる必要もなければシェフになる修行も必要ない。膨大な時間もコストもかける必要がない。

「なぜGrouponのようなビジネスモデルが成り立つようになったか?」という問いの答えはこれだ。

答え:人々は情報を食料にするライフスタイルに移行したからだ。

70年代以後の世代は本物の食料より情報が食べたいのだ。情報の流通にマスメディアは必要なく、ソーシャルグラフ、Twitterがあればいい。情報リッチな消費者には食べ物がおいしいよりも、この情報を知って得したという満腹感より満足感が優先するのだ。Grouponは教えてくれないだろうが、クーポンを購入して使わない比率はある一定以上あるだろう。もちろんそうした顧客満足度を上げるためのノウハウが他のGrouponサイトとの差別化に違いない。

Grouponビジネスをもっと大きな枠で言うと、第三次産業、すなわちサービス業が仕入れ先になったのだ!

第三次産業とは

ウェブ社会におけるウェブビジネスとは第三次産業を仕入れ先とする第四次産業と言い換えてもいいだろう。オールド世代は認めたくないだろうけどね。

ということでほんとうはもっと具体的に書きたいことはあるんだけど、長くなりすぎるのでこの辺で。

2011年はこうした新しいビジネスが続々と立ち上がっていくだろう。
ウェブビジネスが遂にこのリアル社会に影響力をもたらすことができるようになった。その証明がGrouponなのである。

年末年始はこれをネタに新しいビジネスの可能性を夢見るといいだろう。頂点に立つ捕食者になれ。

起業家 渡部薫

コメント

  1. deathwalk より:

    この記事は非常に間が悪かったと言えますね。仕入れ先であるレストランの品質管理はどうなっていますか。レストランの品質管理はレストランの責任とおっしゃるかもしれませんが、グルーポンのビジネスモデルでは消費者はそのように捉えてくれないでしょう。

    http://info.groupon.jp/topics/20110101-384.html

    。電気製品や情報産業と異なり食べ物に対する消費者の執着は別次元です。この騒動を見ると残念ながら著者さんが主張するグルーポンのビジネスモデルに先があるようには見えません

  2. iseeker より:

    グルーポンは話題のサービスなので会員登録してみました。しかし、商品を見ると、駅から遠いとか、定価が割高に感じるなど、わけありっぽいものが多く、購入に至っていません。
    ビジネスモデルを考えると、お店は宣伝費を払わずに売上げを確定できるというメリットがあり、グルーポンは商品を右から左に動かすだけで手数料が入ってくるというメリットがあります。しかし、肝心の商品に商品力がなければ、定価で商品を購入するリピート客はいないでしょう。
    今回、バードカフェのおせちの問題は、ネットビジネスの危うさを露呈したものだといえます。仕入れの目利きができるかというこということは、商売をするうえで重要なことだと思いますが、急造で作られた会社にその能力が足りなかったということでしょう。
    グルメサイトの老舗などは、ネット企業と言いながら足を使った泥臭い営業に力を入れているようです。グルーポンが生き残れるかどうかは、この辺のリアルをきっちりできるにかかっているかと思います。

  3. worldcomw より:

    まあ頂点には違いないですが、それほど大きなパイには育たないでしょう。比較対象としては
     ・図書カード等の前払い式証票の1/100
     ・ネットオークションの1/100(手数料ベース)
     ・共同購入と同じくらい
     ・旅行・宿泊予約系の1/10(手数料ベース)
     ・ネットワークビジネス系・・・よく知らないので比較不可
    こんな感じでしょうか。
    まあ、固定客は掴むと思います。ただ、それが個別の店舗の固定客にはならないので、店舗の新陳代謝の激しい都心だけのビジネスになるでしょうね。
    逆に従来の固定客がクーポンに流れちゃうと、店としては大損ですから、新規開店・不人気店のてこ入れに限定されてくると思いますよ。

    個人的には、昼食時の行列に並んでから、ケータイから前払いして優先入店出来るような会員組織が欲しいですね。ETCみたいな感じです。

  4. naga_to_yu_ki_ より:

    はじめまして。
    生物学が専門のものです。
    大変興味深くはいけんしました。
    食物連鎖の頂点と言えば聞こえはいいですが、悪く言えば寄生虫にさらに寄生してるってことですね。
    ライオンの体につく蚤やシラミや寄生虫も、言い様によっては食物連鎖の頂点というわけです。