組体操文化を“安楽死”させるには --- 天野 貴昭

過日の投稿の続きです。今回はギャンブル依存症から一旦離れ、「危険だとわかっていて尚、制止がなされない組体操問題」について考えたいと思います。


※なぜ人は危険とわかっても組体操に取り組むのか(出典;Wikipedia)
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【感動・高揚を生み出す卵、「エウダイモニア」】
前回も少し触れましたが、この組体操問題にも古代ギリシア人が「エウダイモニア」と呼んだ概念が密接に関わっていると僕は考えています。

※エウダイモニアは他に適切な訳語が無い為、よく「幸福」と翻訳されます。が、これに影響されない幸福も沢山存在するので実はあまり適切ではありません。研究家・翻訳家泣かせな概念なのです。

エウダイモニアの解釈は時代で分かれますが、ご批判覚悟でざっくりまとめあげると

→例えば、災害で逃げ遅れた人を救出する、それを間近で見る
→例えば、フィギアスケートを観覧する
→例えば、議会やスピーチで喝采を受けたとき、聴衆として喝采したとき

このようなシーンで沸き立つ
・歓喜
・高潔な高揚感
・感動
・俗に「うっとり」と呼ばれる状況

このような感情にエウダイモニアが関わる。本編ではそう解釈してください。

【感動を作る機関としてのオリンピック】
エウダイモニアを意図的に発生させるには一体どうすれば良いか?
古人らはその発生条件を研究し、まとめました。

これもまたご批判覚悟でざっくり列記すると
①生命・健康かそれと同等なものが奪われるような状況で
②命がけで課題達成へ挑み、出来る限り多くの観衆が見守る
③達成後に観衆が大喝采で祝福する
④大喝采の中、死ぬ(…おい(汗))
と、なります。

そして古人らは
このエウダイモニアを人為的に産生させる「機関」も幾つか開発しました
その中のひとつが「オリンピック(古代オリンピック)」です

オリンピックは衆人が見守る中、懸命に(命がけで)挑み、栄えある成果を出した選手を一段高い台に乗せ、皆で祝福しながら終焉する事が目的の祭事です。

だからオリンピックは競技と同じくらい表彰式、閉会式が重要です。
(それをしないと意味がないと言って良いくらい大切です)

【危険だから禁止すべきだが、危険でないと意味がないジレンマ】
この「試練に打ち勝つ事で発生する『神聖な歓喜・高揚』」という概念に加えて、共同体主義(コミュニタリアリズム)と呼ばれる。『伝統・継承、そして集団生活を尊ぶ』という、よく日本人が好む美意識を加味して生まれたコンテンツが「組体操」だと僕は捉えています。

個人的な意見として、僕は組体操には大反対です。
理由は「余りに危険」だからです。

でも、それだけの根拠だと肯定派を説得する事は難しいだろうとも思っています。理由は「危険でないと感動(エウダイモニア)が派生しない事」を肯定派の方は実体験として知っている事が推測できるからです。

「馬鹿馬鹿しい、感動したって怪我をしたら元も子もないだろう」
…というご意見には全く同感です。
そのご意見に賛同した上で僕が訴えたいのは、「その馬鹿馬鹿しいマネをしなければ維持運営ができない程、危機的状況にある学校(クラス)が存在するかもしれない」…という事なのです。

この背景を見据えて考査していかない限り、たとえ組体操を廃止に追いやれた所で、恐らくすぐに「第二の組体操」が生まれるだけでしょう、それではあまりに意味がないと思うのです。

「組体操問題は、行き過ぎた日本の共同体主義思想に疑問が上がっている風潮に、旧態の学校構造がついて行けてない事で生まれた軋轢に根源がある」ーー。この様に考える僕としては、抜本的な教育改革が実行されない限り、この問題の解決は遠いと予測します。

【難度を上げ、危険度を下げる試み】
しかし、それを待ってたら解決がいつになるかも解らないので、これ以上被害が拡散される前に、ひとつ意見提起をさせて頂きたいと思います。

鍵は「難度を上げれば、危険度を下げても感動は発生し得る」です。

競技難度を上がれば重圧も上がりますので、ある程度の危険度の代替とはなり得ます。

例えば、現在日本体育大学で執り行われている集団行動からも組体操と同様の感動が得られる筈です。


これはソチパラリンピックの入場セレモニーで採用されたので記憶に新しい方も多いのではないでしょうか?

思い当たる問題点としては、習得までに時間がかかる事と指導者に相応の能力が求められることなどでしょうが、最近ではこれを取り入れてる小学校の話もちらほらと聞きますし、失敗しても組体操程の大怪我はないのが最大の魅力であります。
(勿論、他に良い方法があれば是非提案して頂きたいとも思いますが)

※「軍隊みたい」と感じた方もいらっしゃると思いますが、軍事訓練にこういった共同訓練が多いだけであって、これを実行したら軍人の様になる訳ではありませんので、一応注釈を入れておきます。

皆さんはどう考えますか?

天野貴昭
トータルトレーニング&コンディショニングラボ/エアグランド代表