バロンズ:米Q2GDP過去最悪、失業保険拡充期限切れも株高の怪

バロンズ誌、今週はカバーに特別買収目的会社(SPAC)を取り上げる。「私に賭けて欲しい」という言葉は、SPACが白紙の小切手を求め投資家に囁く言葉だ。本来であれば通用しないところだが、過剰流動性というフリーマネーの時代を追い風にSPACは投資家から今までにない勢いで資金を集めている。

(カバー写真:Sam valadi/Flickr)

(カバー写真:Sam valadi/Flickr)

例えば、SPACによる新規株式公開(IPO)は伝統的なIPOを上回り、EVトラックメーカーのニコラやeスポーツやスポーツのギャンブルを提供するドラフトキングス、宇宙旅行ビジネス大手バージン・ギャラクティック・ホールディングスがそれにあたる。最近では、ヘッジファンドや大手銀からの資金流入が目覚ましい。著名な投資家ビル・アックマン氏率いるパーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントは、SPACで最も規模の大きいパーシング・スクエア・トンティーン・ホールディングス設立に40億ドル集めた。IPOを実施するSPACも増え、2019年には59社のSPACがIPOを実施し136億ドルの収益を確保したが、2020年に入り年初来で22社のSPACがIPOに踏み切り、225億ドルの収益を計上している。米株市場で存在感を強めるSPACの仕組みから見通しについての詳細は、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週は景気刺激策を取り上げる。抄訳は、以下の通り。

連邦政府の支援、初めて四半期GDPを上回る規模に―For the First Time Ever, Uncle Sam’s Aid to U.S. Tops Quarterly GDP.

オバマ前大統領の首席補佐官を務めたラーム・エマニュエル氏は「深刻な危機を無駄にするな」と語った。その逆も然りで、危機のない時には特に対応することがない。

春頃に時計の針を戻すと、米経済が新型コロナウイルス感染拡大を受け最も深刻な景気後退に陥った当時、米議会とトランプ政権は共に景気刺激策(CARES法)を成立させた。約2.3兆ドルの規模は目覚ましかったと同様に、米4~6月期実質GDP成長率が速報値以上に悪化することを回避する上で極めて重要だった。

しかし、失業保険の600ドル上乗せは、7月31日に期限切れを迎えてしまった。米議会は南部や西部で急増する感染者を受け対応を急いでいるように見えるが、米新規失業保険申請件数など頻繁に更新される経済指標が景気回復の腰折れを示すなか、自己満足な域を出ていないようにみえる。

チャート:新規失業保険申請件数は2週連続で増加、継続受給者数も10週ぶりに増加

(作成:My Big Apple NY)

(作成:My Big Apple NY)

同様に、危機に苦しんだ春と違い、真夏に迎える新規感染者の増加は米株市場でもそれほど懸念されていないようだ。

7月30日に公表された米4~6月期実質GDP成長率は、その日の引け後に発表されたアップルやアマゾン、フェイスブック、アルファベットといったGAFA銘柄の予想を上回る決算という好材料にかき消された。

ウォール街の他エコノミストが指摘する前の3月頃に、米4~6月期実質GDP成長率が過去最悪になると警告していたアライアンス・バーンスティーンの元首席エコノミスト、ジョセフ・カーソン氏は、米連邦準備制度理事会(FRB)と連邦政府が4~6月期に5兆ドルもの資金を米経済に注入したと試算した。その規模は、四半期ベースのGDPにあたる4.85兆ドルを上回る。その上で、カーソン氏は「これまで財政と金融の刺激策が四半期の名目GDPを上回ったことはない」とコメントしていた。

米国の四半期GDPが名目ベースで約5,000億ドル落ち込んだ一方で、カーソン氏によれば米国企業の時価総額は7兆ドル以上も増加した。また同氏の試算によると、米株市場の時価総額は名目GDPの2倍を超え、ITバブル期にあたる2000年1~3月期に記録したこれまでの過去最大である1.87倍を上回るという。カーソン氏は、一連の数字を並べた後「つまり、2020年の米株相場は我々が生きてきた中で最も割高である」と結んだ。

ローゼンバーグ・リサーチを率いるデビッド・ローゼンバーグ氏は、家計を支える米連邦政府の役割について掘り下げ、賃金が年率で6,800億ドル落ち込んだ半面、個人所得は1.386兆ドル急増し、その背景として2.416兆ドルもの政府移転支出を挙げた。さらに4~6月期に個人所得が32.6%増加し、個人消費は34.6%減少した結果、貯蓄率は1~3月期の9.5%から25.7%と過去最高を更新した。

米連邦政府が支払った1人当たり1,200ドルもの現金支給は、経済活動の停止を受けスポーツ賭博が出来なかった事情もあって、株式市場に向かったとみられる。

個人投資家のための投資アプリ、ロビンフッドをみると足元での人気銘柄はイーストマン・コダックで、医薬品原材料の製造開始に備え政府機関から7億6,500万ドル(約800億円)の融資を受けたと発表し注目を集めた。株価は7月31日に約20%安を迎えたものの、前週は1,000%高を遂げた。そのイーストマン・コダック株の出来高が、政府機関からの融資を発表する前日の7月27日に通常の10倍にあたる1億株を突破していたことは、極めて興味深い。

パンとサーカスはさておき、米株市場はコロナ禍を始め社会不安、高い失業率を受けてもお構いなしだ。米7月雇用統計が7日に発表されるが、RBCキャピタル・マーケッツのエコノミスト・チームによれば、季節調整の影響で100万人近く押し上げられる見通しである。

米7月雇用統計以外の注目は、財政政策だろう。とは言っても失業保険の600ドル上乗せではなく、州政府・地方政府への支援額であり彼らはGDPの約1割を担う。

現時点で、米国は過去最低の金利を提供している。その一方で、フィッチ・レーティングスは米国の見通しについて財政悪化を背景に「ネガティブ」へ引き下げた。もっとも、基軸通貨のドルを有する利点を受け、AAA格付けを維持している。格下げは危機局面の後でやってくることだろう。

――バロンズ誌を始めIT企業の寡占化が問題視されていますが、決算を見る限り米株を下支えするのはやはり現時点でFAANMG銘柄といっても過言ではありません。割高感が燻るものの、議会証言にも反応せず。このままFAANMG銘柄が相場を支えていくのか。大手IT企業の解体を叫んでいたプログレッシブを抱える民主党が上院で過半数を奪取する観測が強まれば、逆風が吹きつけてもおかしくないでしょう。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2020年8月2日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。