バロンズ:マイナスの実質金利、米株高と金の上昇をサポート

バロンズ誌、今週のカバーは米大統領選まであと3ヵ月を切るなかで選挙後の米株相場を考える。世論調査の結果をみると、民主党のバイデン候補は2016年にトランプ氏に勝利をもたらした6州で5%ポイント以上のリードを広げるほか、全米平均でも7%pt上回り、次期大統領に就任する公算が大きいように見える。

(カバー写真:Xiaobing Wu/Flickr)

(カバー写真:Xiaobing Wu/Flickr)

しかし、世論調査結果は信頼に足ると言い難く、それは2016年の結果でご案内の通りだろう。コロナ禍において選挙まで何が起こってもおかしくない環境のところ、アナリストはあらゆるシナリオを描き始めた。例えばコーナーストーン・マクロの米国政策リサーチヘッドのアンディ・ラバーリー氏は、トランプ大統領の再選を35%と予想、その際は共和党は上院での多数派を確保すると見込む。

UBSのグローバル株式ストラテジーヘッドのキース・パーカー氏は、そうなった場合に直後に米株相場が2%高で反応すると予想。逆に、ラパーリー氏はバイデン氏が勝利し民主党が米上下院で過半数を獲得する“ブルーウェーブ”が発生する確率を45%とし、パーカー氏は直後に米株相場が2~5%下落する見通しを描く。ただし、選挙後の下落局面は押し目買いのチャンスのようだ。いずれの場合のシナリオでの推奨ポートフォリオなど、詳細は本誌をご覧下さい。

当サイトは定点観測で名物コラム、“アップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート”をお届けしてきましたが、今回は”ザ・トレーダー”からこちらの抄訳をお届けします。

金、アップルなど様々な価格が上昇中、その理由とは―Gold, Apple Stock, and Just About Everything Else Is Flying. There’s a Reason for That.

ナスダックは8月3日週、11,000の壁を突破し2.5%高で終えた。ダウは3.8%高、S&P500種株価指数は2.5%高で取引を終えただけでなく最高値まであと1%に迫っている。米経済の悪化を踏まえれば、力強い米株高が続くには何か理由があるに違いない。

そう、米経済は未だ惨憺たる状況だ。米新規失業保険申請件数は市場予想を下回ったとはいえ約120万万件に及んだ。製造業景況指数やサービス景況指数は7月に高水準を叩き出したものの、雇用の回復は限定的。こうした悪材料が並ぶにも関わらず、米株はきら星のごとき回復を遂げ、しかも上昇は継続している。

業績改善を好感したためかと言われれば、確かに決算を発表した82%の企業は市場予想以上の結果となり、過去1年間の平均値の71%を上回った。とはいえ、これは予想ほど悪化しなかっただけで、過去のニュースだ。

では、米株相場は何を材料に上昇を続けているのだろうか?新たな答えは、マイナスの実質金利だ。実質金利は1月にマイナスに転じた後、3月半ばに一時的に上昇した程度で、以降はマイナスをたどる。過去2ヵ月間にわたり、実質の米10年債利回りはマイナス0.36%からマイナス1.05%へ下げ幅を広げ、少なくとも17年半ぶりの水準へ落ち込んでいる。

チャート:米10年債の実質金利とS&P500(作成:My Big Apple NY)

チャート:米10年債の実質金利とS&P500(作成:My Big Apple NY)

アインシュタインの究極理論の見果てぬ夢のように、マイナス実質金利は世界で起こるあらゆる奇妙な事象を説明する。金先物が最高値を更新した?それは金が金利を支払わないといっても、短期債や長期債に投資した資金が目減りするよりましなためだ。なぜドル安か?マイナスの実質金利は対ユーロや対円でのドルの投資妙味を失わせてしまう。こうして、あらゆる資産が上昇するというわけだ。

とはいえ、こうしたトレンドは今に始まったばかりではない。例えば金先物は前週初めて2,000ドルを超えたが、そもそも上昇が開始したのは2018年秋で、2019年に米連邦公開市場委員会(FOMC)が予防的な措置として50bp利下げした時に加速していた。足元では1980年や2011年につけたインフレ調整済みの高値に接近しており、アップルやナスダックを含め短期的な伸び余地は限られつつあるのではないか。

問題は、誰もが同じような投資ゲームにはまっている点だ。プルデンシャル・フィナンシャルのクインシー・クロスビー首席市場ストラテジストいわく「皆が同じシナリオを見据えていれば、それは反転の兆しとなりうる」。とはいえ、現状がもう少し続くこともありうる。ウェルズ・ファーゴ証券のクリス・ハービー米株ストラテジストはS&P500の目標株価3,358が9月以前に達成しても不思議ではないと語る。

ただ、スタイフェルのバリー・バニスター米株ストラテジストは、S&P500が5~10%割高だと指摘する一人だ。さらに、米株がこの夏ラリーを続けるならば「再びバブルが醸成され投資家が泣く結末を迎えうる」と予想する。アイアンサイズ・マクロエコノミクスのバリー・ナップ氏は実質金利が上昇に転じた場合「急激な資産価格の下落に直面しかねない」と警告する。

もし彼らの意見が正しければ、もう市場が上昇する理由を探る必要はなくなり、下落する理由を説明しているに違いない。

――コロナ禍で不確実性が続くなか、追加的な財政拡大措置や金融緩和により、実質金利がマイナス圏で推移し続けるというのは誰もが想像するところです。そこで、潮目が変わるのならばいつかと考えれば、①コロナ禍の行方(ワクチン、治療薬の開発動向)、②米大統領選、③Fedの政策運営――が視野に入ります。当然ながら①の見通しが立てば財政・金融政策の一段の緩和の可能性が後退しますよね。②でいうなら、トランプ再選の場合の国内回帰の徹底を通じた景気拡大や貿易赤字の縮小に伴うドル安後退に気をつけたいところ。バイデン候補の政策も、国内の雇用促進を目指す政策が散りばめられ、トランプ氏の方向性と一線を画すというわけでもありません。

パウエル議長率いるFRBは2022年末までゼロ金利維持を表明済みながら、7月FOMC声明文で「経済の道筋は、ウイルスの状況に大きく依存である」と明記した通り、緩和策の姿勢を調整してもかしくありません。米大統領選直後までは強力な緩和策が維持されそうですが、転ばぬ杖として、その先の投資戦略を見据えておきたいところです。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2020年8月11日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。