公務員の仕事が増え続けています。もちろん、社会情勢と密接にかかわっていますが、それ以外にも業務が増え続ける理由があります。ほんらい業務を効率化するはずの電子化・ICT化が、業務を飛躍的に増やしたという実績からご紹介します。今回はこの電子化の状態を見れば、現在の地方公務員の立ち位置が分かると思いますので、公務員を目指す方はとくに参考になると思います。

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そもそも公務員の仕事のイロハ
公務員がふだん行っている業務は、担当の係員が起案をします。この起案文書を上長に回覧してハンコをもらっていくというのが「決裁システム」という形で進められています。決裁をもらう人が休暇や出張でいない場合、決裁が得られないために仕事が進みません。
決裁権者の人数は、決裁内容の軽重によって変わってきます。金額が大きかったり、条例の改廃だったりすると、係員から首長まで十数名のハンコが必要になることもあります。
どんなに小さい業務でも必ず上の人の決裁を得てから仕事を進めないといけません。(いわゆる報連相)
起案を回す「決済システム」のほかに、お金の管理をする「財務システム」というものなどさまざまなシステムが併存しています。
役所がICT化するとどうなるか
こんな人間くさい業務をなんとか電子化しようと、ITゼネコンに発注するところから始まりました。公務を電子化して効率化する・・・昔から言われていることです。
で、実際使ってみると、紙ベースの決裁をいかにパソコン上で再現するかにこだわるあまり、使い勝手がまったくよくないものになってしまいました。日本企業の2000年前後にあったあるある話ですが、20年後の今も役所はそんなかんじで、いかに旧来のやり方をパソコンにやらせるかにこだわりを見せています。
作業をまちがえたら、もどれない(まちがえてはいけない)
いくつかの画面から構成されていますが、間違って、次の画面に進んでしまうと、もうもどれません。改ざん防止のためとも聞きましたが、ほんとうのところは誰も知りません。ICT担当課に内線で聞いても、決裁システムにはノータッチです。いろいろな部署を回って、まずは画面を戻す方法を知っている人を探さなくてはなりません。
最後の最後で最初の文書の日付の間違いが判明したら
役所はとにかく文書の日付を気にします。日付命です。文書内、文書間での日付の順序ミスは最大の御法度です。それが実際の日付とちがっていても。少ない案件ならなんとかなりますが、常時十数の案件をもっているので、日付は混乱します。
これが紙ベースなら、まだその書類を差し替えて・・・で済むのですが、その文書が起案から始まり、業者への支払いまで進んでいたところで、会計部門の人から、さいしょの起案文の日付がおかしいと指摘されたとします。結果、それまでの電子決済をすべての人から取り消しを受けなくてはなりません。これが文書の数×決裁者の数でのべ何十人にもなったりします。取り消しは直接頼まなくてはならないので、庁舎をまたにかけた大冒険になります。それで間違った文書までもどります。
そこから訂正して、また同じ数だけ何十と決裁を受け直します。当然顔も合わせたくないような人にも何度もお願いに上がります。クリックを数回してもらうのにもここぞとばかりに罵声を浴びます。何度も言いますが、民間企業なら”よくて追い出し部屋”という人が、生き生きと仕事をしているのが公務員の社会です。
パソコン作業もミスが許されない緊張感
こんなかんじで会計までまたもどってきて、めでたく支払いになります。そのころには業者さんは資金繰りで心臓がバクバクですが、そんなこと役所の人はだれも気にしません。
若い方の中には、「ミスしたって給料もらえるからいいでしょ、それにミスしたあんたがわるいでしょ」と思うかもしれませんが、人間ミスはぜったいにします。そして人間は手戻りがいちばん辛いです。マイナスからゼロに戻して、さらにまた同じことをしなくてはなりません。
しかも、紙ベースならこんなことはなかったのに、電子化されたがゆえに、すべての決裁が一気通貫してしまい、以上のようにたいへんな事態になります。
でもさらに紙も回す
おかしなことはさらに続きます。電子決済を行う時には、かならず紙の決裁文書を回します。電子決済を回したにもかかわらず。(下駄判)
まちがいがないように念のためということらしいですが、紙の決裁も同時に回すのです。紙の文書には、部課長がパソコンで確認するお手間をかけないために、すべての書類をプリントアウトして回覧します。当然、部課長は日に何十もの決裁が上がってくるために、中身を確認しないで判子を押すだけです。
このような営みが、電子化と称して行われています。あれ、なんのために電子化したんだっけ?
公務員の仕事はぜったいになくならない
ミスをしなくなってシステムの全容が分かったころには、異動です。次の課では別のシステムが使われています。同じような部署に戻ってきて、またシステムを使うころには、全面的に更新されています。
これはほんの一例ですが、公務員の仕事が年々忙しくなる理由がおわかりになりましたでしょうか。
前例踏襲が絶対の公務員世界では、一度決まったスタイルが改められることはまずありません。
あらゆる部署・業務でこういったことが起こっています。
そして公務員は人手不足を人事院に切々と訴えているのです。
「われわれも精いっぱいがんばっているのだ!」と。
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