誤報の訂正で済むのか:ワシントンポストのトランプ電話報道

ワシントンポスト紙(WAPO)は15日、1月4日に同紙が「”11,780票を見つけたい”:トランプは1時間に及ぶ異常な電話でジョージア州務長官に投票を再計算するよう圧力を掛けた」との見出しで報じた、トランプがジョージア州当局に掛けた電話の記事を “長たらしく(lengthy)” 訂正した。

トランプ氏 FaceBookより

WAPOの訂正は129語だったが、「lengthy」は15日の米政治メディアThe Hillが見出しFox newsは「massive(大規模に)」と書いた。これらの形容詞は文字の数の多さのみならず、誤報の影響の大きさを示していまいか。Fox newsの引用からWAPOの訂正記事を拙訳すると次のようだ。

-訂正:この記事を公開して2ヵ月後、ジョージア州務長官はドナルド・トランプ大統領と州の主席選挙調査官との12月の電話の録音を公表した。その録音は、ポスト紙が情報筋から提供された誤った情報に基づいて、トランプ氏の電話でのコメントを引用したことを明らかにした。トランプ氏は調査官に「不正(fraud)を見つける」ように、またはそうすれば「国民的英雄」になるとは言わなかった。代わりにトランプ氏は、調査官にジョージア州フルトン郡の投票を精査するよう促した。彼女がそこで「不正直(dishonesty)」を見つけるだろうと主張し、また彼女が「今、国で最も重要な仕事をしている」と言った。その録音についての記事はここにある。この記事の見出しと本文は、誤ってトランプのせいにされた引用を削除することで修正されました。-

この「調査官」とはフランシス・ワトソンなるジョージア州の女性職員で、主任調査官として12月23日にトランプの電話の相手をした。彼女はトランプに「私たちのチーム(とジョージア州捜査局)は、真実と事実に基づく情報の発見にのみ関心があることを保証できる」と答えたそうだ。

記事を読んでも、誤報の原因が情報提供者にあったのか、WAPOにあったのか判然としない。が、国内外の各メディアはWAPOの見出しをなぞって、トランプが「選挙結果を覆す票を “見つけろ” と要請した」などの見出し記事を載せたのだから、印象操作の犯人はWAPOといえよう。

WAPOの訂正に対してトランプは、「 ジョージアの魔女狩りを、なかった記事(non-story)にしたワシントンポストの訂正に感謝しているが、元の記事は初めからでっち上げだった」とコメントした。

筆者は1月6日、その元記事にリンクされた録音全文を読み、「これが選挙結果を覆すための恫喝だろうか。数ある不正証拠の数件で11,779票差を逆転できると例示的に述べているが、基本的には選挙不正の調査を求めているだけだ。・・実感するのは、大手メディアの不十分な取材と偏向報道ぶりだ」と投稿した

いささか手前味噌になるが、ここで筆者が言いたいのは、たとえWAPOが「不正(fraud)を見つける」ようにトランプが強要したと書いて印象操作しようと、見出しや要約記事に惑わされず、元の録音全文に当たれば、トランプの本意やメディアの偏向を読み取れるということ。

先般の「森喜朗発言」もまさにこれと同じ構図だ。「本当か?」との違和感を放って置かずに発言全文のきっちり読めば、たとえフェイクの「木」がまばらに植え込まれていようと、「森」全体の様子は掴める。が、森氏は辞めざるを得なくなった。

WAPOの誤報記事の影響はさらに大きかった。大統領選は、選挙人投票を1月6日に控えていたものの、この誤報が結果に影響を与えることはなかったろう。しかし、翌1月5日にジョージア州で行われた上院2議席の決選投票には少なからず影響を与えたことは想像に難くない。

筆者は前記の投稿を書きながらネットで開票速報を追っていた。それは票が開くたびに上位が入れ替わる一進一退ぶりで、97%の開票時点でも民主党オソフ50.0%vs共和党パーデュー50.0%、補選は民主党ワーノック50.4%vs共和党レフラー49.6%と拮抗していた。

結局は、オソフ2,270千票(50.6%)vsパーデュー2,215千票(50.4%)、ワーノック2,289千票(51%)vs2,196千票(49%)と民主党候補が僅差で両方勝ち、上院議席は50vs50となった。が、この結果は大方の予想を裏切るもので、前日のWAPO記事の見出しが影響しなかったとは言い難い。

先ごろ成立したバイデンの1.9兆ドルのCOVID救済法案は、上院で民主・共和両党の議席数通り50票vs50票となり、上院議長のカマラ・ハリス副大統領が最後の一票を投じて決着した。もし1月5日に1議席でも共和党が取っていたら、成立していなかったことになる。

3月15日のWAPOの訂正がこの法案の成立直後だったのは偶然か。今後もこのCOVID救済法案の様に上院同数で膠着し、ハリスの最後の一票で決するケースが多発することだろう。それを考えれば、このWAPOの誤報が米国の今後の政治に与えた影響の大きさが判る。

トランプは前述のコメントに加えて、主流メディアのフェイクぶりと民主党寄りの姿勢を難じ、「強力な民主主義には公正で正直な報道が必要」とし、「近頃のメディアの悲劇は、レガシーメディアがジャーナリズム企業ではなく、政治的実体(entity)と見なされるべきことだ」と断じた。

トランプをフォローするかのように、連邦控訴裁判所のシルバーマン裁判官は19日、ある裁判での反対意見で、ニューヨークタイムズとワシントンポストを「民主党のタブロイド紙(broadsheets)」であるとし、ニュース業界全体が「共和党に対する偏見」に支配されていると非難した。

米国(と日本)のメインストリート(あるいはエスタブリッシュメント、オールド、レガシー)メディアの現状を物語り、行く末を暗示する出来事ではなかろうか。