バロンズ:キャピタルゲイン税の引き上げ、米株への影響が限定的な理由

バロンズ誌、今週はカバーでビッグ・マネー調査の結果を紹介する。年に2回、4月と10月に金融市場関係者を対象に実施する同調査では、ダウなど3指数が過去最高値近くで推移しながら、1年先の米株相場に「強気」と回答した割合は67%と、前回2020年10月時点の54%から上昇。逆に「弱気」は7%と、前回の13%の約半分にとどまる。

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一方で、米株相場を「割高」と判断する回答者は38%と、こちらは前回の44%から低下。「適正」との判断も57%と、前回の50%を超えており、上昇余地があるとの見方が強いことが分かる。最も魅力的な投資先として1位は株式で64%と前回と変わらず。ただし、2位以下には変化が生じており、今回は2位にコモディティ(13%)、3位に不動産(8%)が入った。前回の2位は金(11%)、3位は不動産を始めキャッシュ、債券がそれぞれ7%で並んでいた。投資家のリスク選好度の高まりを表す。

米株相場のリスクとしては、4月のバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチによる調査でも明らかになった通り、1位に金利上昇が浮上し20%となり、それまで1位だった新型コロナウイルスは16%と2位に後退、3位は増税で13%、4位はインフレ、財政・金融政策の失敗が11%となった。気になる調査結果は本誌でご覧下さい。

当サイトが定点観測する名物コラムのアップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週はバイデン政権が提示する見通しのキャピタルゲイン税の影響について取り上げる。抄訳は、以下の通り。

投資家よ、元気を取り戻せ。キャピタルゲイン税の引き上げは、大した問題ではない-Take Heart, Investors. A Higher Capital-Gains Tax Wouldn’t Be as Scary as It Sounds.

バイデン政権がキャピタルゲイン税を提案する方針と報じられた時、市場は名画「カサブランカ」で、違法な賭博行為が発覚した時の台詞「大変だ!大変だ!(Shocked! Shocked!)」との声が響き渡ったかのようだ。ただ、このコラムで何度も指摘したように、キャピタルゲイン税の引き上げは常に囁かれてきた1月の就任演説でも、そのように示唆され、民主党の選挙公約にも明記されていた。

それでも、市場は22日にコンピュータ取引による影響か驚きをもってニュースを迎えた。ただ翌日には結局、人間が報道を再評価したのかダウなど3指数ともに22日の下落分を完全に取り戻した。

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チャート:ダウは23日に下げ幅を相殺 出所:Stockcharts

報道によれば、バイデン政権は年収100万ドル以上の世帯に対するキャピタルゲイン税を最高所得税率に設定する。しかも、税制改革法で引き下げられた37%ではなく、それ以前の39.6%に戻すことを意味する。

これにオバマケアへの資金充当を狙った投資収入課税3.8%を合わせると43.4%となり、足元の20%(オバマケア向け課税を合わせて23.8%)から倍増する格好だ。

こうした提案は正式なものではなく、28日に予定する上下両院合同会議で演説で明らかになるだろう。AGFインベストメンツの米国担当首席ストラテジストのグレッグ・バリエール氏いわく「バイデン政権の増税案は、交渉上の一斉射撃」であり、ここを叩き台として譲歩を探る見通しだという。

バリエール氏の他、ワシントン関係者は増税案は43.4%ではなく、28~30%台で落ち着くのではないかと見込む。実現すれば、足元の23.8%と43.4%の間に収まる。

しかし、増税をめぐってはどこまで投資家を狙い撃ちにして変更してくるか不透明だ。キャピタルゲイン税と合わせ、バイデン政権は配当税も同率に引き上げるだろう。さらに、相続税の免税額を現在の1,170万ドルから550万ドルへ戻す方針だ。ただ、相続税の免税額は夫婦の場合2倍となるため、変更で影響が及ぶのは一部である公算が大きい。

潜在的に大きなインパクトを与えそうな増税は、相続人の課税標準(tax basis)に関わるものだ。例えば、あなたが1993年1月29日の組成当時から上場投資信託のSPDR S&P500 ETF(SPY)に1万ドル投資していたならば、現時点で15万9,472ドルの価値がある。

足元の税制では、仮にあなたが死亡しても、遺産相続人がSPYを売却する場合は、相続後の上昇した分のみ税金を負担する(stepped-up basis)。しかし、これが撤廃されれば、遺産相続者はSPYを売却する場合、あなたが1万ドル投資していた当時からのリターン全てにおいて税金を支払わねばならない。相続する資産が被相続人の死亡時の時価に設定されるため、富裕層に税の抜け穴を与えるとして問題視されてきた。

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのクレジット・アナリスト、ハンス・ミケルセン氏によれば、一連の増税案は予想外の効果を与えかねず、そのうちの一つは企業のレバレッジ拡大だという。キャピタルゲイン税の増税が株式保有のコストを引き上げる半面、法人税の引き上げは税引き後の債務コストを低下させるためだ。これは、結果的に債務の積み上がりにつながり、企業の信用格付けと債務不履行リスクにとって悪材料となる。

投資家は、キャピタルゲイン税の引き上げを前に保有する株式の売却に走りかねない。しかし、仮に引き上げられたとしても、UBSは株式市場への影響は限定的と見込む。米株保有者のうち課税対象は25%に過ぎず、残りの75%は年金運用者や寄付を行う財団、海外投資家が占めるためだ。さらに、こうした投資家の押し目買いにより株価が支えられよう。

何より、米株相場はキャピタルゲイン税の引き上げを超える投資妙味をもつ。保有株の売却を先送りすれば、引き続き高いリターンの恩恵を享受できる。また、年収を100万ドル以下に抑えている限り、キャピタルゲイン税の増税に該当しない。また、課税所得は寄付金に充てるか、あるいは課税対象の債券から非課税の地方債に変更すればよい。

名著「華麗なるギャッツビー」で知られるスコット・フィッツジェラルドは、富裕層は一般市民と違うものだと教えてくれた。確かに、富裕層はあらゆる手段で増税を回避していくことだろう。

--23日の米株相場はキャピタルゲイン税の引き上げ報道後、持ち直しました。法人税率が28%から25%で決着しそうな雲行きであると同様に、コラムで指摘されたように今後の交渉で妥協点を探っていくと判断されたためでしょう。ゴールドマン・サックスのジャン・ハチウス首席エコノミストも、バイデン政権が提示するであろう水準以下での妥結を予想します。そもそも、米上院が50対50で綱引き状態である上、米下院の民主党のリードも閣僚入りした下院議員の辞職などもあって、218対212と僅差にとどまります。また、上院では追加経済対策で失業保険の上乗せ額の引き下げなどで存在感を発揮した民主党保守派のジョー・マンチン議員(ウエストバージニア州)の他、クリスティン・シネマ議員(アリゾナ州)が動くこと必至。バイデン政権は民主党保守派をにらみながら、39.6%と発射台を上げて提示したことでしょう。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年4月25日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。